2 黄金の魔眼
俺たち兄妹の種族である”黒のハイエルフ”は、代々天空大地に住んでいる。
どうして天空大地なんて場所で生活するようになったのか、その経緯を話していこう。
全ての原因だが、”黄金の魔眼”に帰結される。
黄金の魔眼とは、過去に実在した魔王を差す言葉だ。
今から一万年以上前、黄金の魔眼はただの人間として、この世界に生まれた。
ただし見た目は普通の人間でも、実は俺やミーシャと同じ異世界転移者だった。
しかも彼の前世は、この世界や地球、あるいはミーシャの前世とは、比べ物にならないほど高度な文明だった。
彼は密かに研究所を作り、高度な科学技術を用いることで、黒のハイエルフという名の人工生命体を生み出した。
その髪は夜の闇のように黒く、瞳は黄金。
自らが生み出した人工生命に、自分の脳を移植することで、彼は黒のハイエルフ種の祖となる。
これが黄金の魔眼の誕生話だ。
ただの人間に比べて、黒のハイエルフは数千年に及ぶ寿命をもち、老いることのない肉体に、高い身体能力を有する。
考えうる限りにおいて、最高の生命体の体を手に入れたわけだ。
この後、黄金の魔眼は進んだ文明の知識を用いて、世界に巨大な革命をもたらす。
進んだ技術力を惜しげもなく投入することで、作物の実らない荒れ地を豊穣の大地に生まれ変わらせ、雨の降らない砂漠に雨を降らせて砂漠全体をオアシスへ作り変える。
神の御業の如き数々の技に、当時の人々は彼のことを神と呼んで崇めたほどだ。
彼はこの世界の技術を、数千年以上のレベルで底上げした。
だが、彼は決して聖人と呼ばれる存在ではなかった。
彼がこの世界にもたらした技術の一つ、人工生命体の創造。
この技術を用いて
魔物は強靭な肉体に、高い戦闘能力を持ち、ただの人間にとっては勝ち目のない存在。
そんな魔物で構成された軍隊を世界中に解き放ち、世界征服の野望をあらわにした。
むろん、黄金の魔眼は全ての人間を絶やそうなどとは考えていなかった。
彼は、それまでに恩恵を与え、従う者たちには寛大に接した。
だが敵対する者には容赦なく、魔物の軍勢を使って攻め滅ぼしていった。
そうして彼は、世界征服を目指す魔王として、世界に君臨していくようになる。
むろん、征服される側の人間たちも、ただ大人しく首を差し出すわけでなく、魔王に対抗するために国を超えて団結し、抵抗するようになる。
そこからは、神代の魔王とそれに抗う人間の戦いの歴史が始まる。
人間の抵抗は百年、二百年かけても続き、魔王の世界征服事業は容易に達成できるものではなかった。
人間にとって数百年という時間は、歴史と呼ぶに等しい長さだ。
もっとも、対峙している魔王にとっては、ささやかとは言わないまでも、寿命で死を迎えるほどの時間にはならない。
そしてこの戦いの結末は、最終的に魔王の死で終わる。
ありふれた物語のように、勇者が邪悪な魔王を討ち滅ぼしたなんていう、カッコいい終わり方ではない。
単に、黄金の魔眼の脳みそが老化についていけなくなってボケてしまい、老衰で死んでしまった。
彼の肉体は、黒のハイエルフとして数千年の寿命を誇るものの、脳みそは人間だった頃の体から移植したもので、人間のままだった。
脳みそまで、完全に黒のハイエルフだったわけではない。
結果、数百年の時間に人間の脳みそが付いていけなくなってしまい、体が死ぬより先に、脳みそだけ老いて死んでしまった。
実にあっけない幕切れだ。
黄金の魔眼の前世は、進んだ文明であったものの、脳みその老化を防止する術までは持っていなかったらしい。
いや、数百年も人間の脳みそが生きていたのだから、何かしらの延命措置は施していたのだろう。
ただ、体ほど長生きはできなかったわけだ。
こうして、魔王である黄金の魔眼は死んだ。
国のトップだった魔王が死んだことで、彼の麾下にあった魔王軍は後継者を選びだせず、内部分裂を起こして空中分解してしまう。
以後、人間の国々と、分裂した魔王軍の残党が群雄割拠する時代となり、世界中が混乱していくことになる。
ところで生前の黄金の魔眼は、自らの体が何者かに滅ぼされたとしても、新たな脳移植先として、何体かの黒のハイエルフを製造していた。
この黒のハイエルフたちには思考能力があり、彼らは考えた。
「黄金の魔眼が失われ、魔王軍が空中分解してしまった今、もはや地上に留まり続けても、自分たちに未来はない」と。
魔王と同じ種族として作られた彼らは、地上に留まることに危険を感じた。
結果、彼らは黄金の魔眼が生前に築き上げた天空大地の一つに移住することで、混乱する地上との関係を断ち切った。
以後、黒のハイエルフは世代交代を重ねながら、一万年以上の長きにわたって、天空大地に住み続けることになる。
そんな一万年以上後の世代として、俺と妹のミーシャが、2人で天空大地に住んでいる。
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