第9話

1週間後、スチュアート公爵家はアリスの父を救出し、連れ帰った。


アリスも十分に回復しており、勢いよく父の元に走って抱きついたが、父が困った顔をしている。

そこにお祖父様が申し訳なさそうな顔でアリスを父から引き剥がした。


「アリス、とても言いづらいのだが、心して聞いてほしい。リノルド、説明を。」


急に話すように振られたリノルドは少しためらいながらも口を開いた。


「アリスの父君のジン殿は記憶を失っておる。発見時は命の危険すらあった。

公爵家の権力を使いに使って、ようやく彼を発見したのは、地下の極悪犯罪者用の囚人牢だった。

一緒に収監されていた奴らに酷い目に断続的に暴力を受けていたようで、」


「少しお待ちください!」

エリーナがリノルドからアリスを庇う。

「未成年の多感なお嬢様に、残酷な説明までしなくても良いのではないでしょうか?」


リノルドははっとした顔をして、こめかみを掻きながら、確かに、と呟く。


「アリス、君はどうしたい?残酷でも全部聞きたい?やんわりとした内容だけ聞きたい?」


そんなの決まっているじゃない。


「もちろん全部聞きたいです。情報が欠落していると相手を叩きのめすなんてできないのですから。」


「お嬢様、差し出がましいことを申して、申し訳ございませんでした。」

エリーナが俯いて、謝罪する。


「いいえ、エリーナはまるで私の母のように、私の心を守ろうとして下さいました。きっと母が生きていたら同じようにすると思います。やはり、あなたは母に似ていますね。」

アリスはエリーナに軽く抱擁を求めると、エリーナは優しくハグをしてくれ、

「もったいないお言葉ですが、光栄です。」と慈しむような笑顔をしていた。



リノルド叔父様の説明では、父は精神耗弱状態で同牢の極悪囚人らに暴行を受け、生きる意志も体力も失っていたところを虫の息状態で発見されたそうだ。

その後、高位の神官らに治癒魔法で連日の治療を受け、身体的にはほぼ回復したが、心は帰って来ず、自分がどこの誰であったかも忘れているのだということだ。


心の傷を刺激するような治療を受け続けると、記憶が回復する可能性はあるが、精神的な苦痛もフラッシュバックし続けるので、そのままの状態で生活してもらうのが患者のためだとの神官の言葉もあったそう。


優しいお父さんはきっと復讐なんて望まないのでしょうね。

お父さんと二人で穏やかに暮らしていく道もあるかもしれないけれど、私は復讐を諦められない。親不孝な娘でごめんなさい。




スチュアート公爵家の好意で、父は医療施設に入って療養することとなった。

そしてアリスは、スチュアート公爵家に正式に籍を移し、アリス・スチュアートとして復讐に生きていくことを誓ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る