【KAC20227】近未来の戦場から

リュウ

第1話近未来の戦場から

 もう、戦争が始まったみたいだ。

 なぜ、この戦争が始まったのか、私にはわからない。

 1939年の大戦以来、大きな戦争は起こらないと思っていた。

 発端は侵攻。

 2022年にも侵攻が起こった。

 力での征服は、どこまで許されるのだろうという一国の試みだった。

 他の一国が、その侵攻に対する世界の反応を見定めた。

 その結果、この戦争を開始した。

 戦争で泣くのは弱い者だけなのは、昔からずーっと変わらない。


 私は、今、シェルターに居る。

 このシェルターには、約30名程の人が身を隠している。

 子どもも居る。

 ここに爆弾やミサイルを撃ち込もうとする人達は、私たちのことなんか知っちゃいない。

 まるで、ゲームの様に攻撃してくるだろう。

 画面で目標を確認しての攻撃は、ゲームの延長上にある行為と同じだ。

 ここに爆弾やミサイルが落ちてしまえば、私たちは助かることができないだろう。

 私たちは何も起こらないようにとじっと祈るしかない。


 神と呼ばれているものにすがるように祈るしかないのだ。

 

 その時、スマホに電話が来た。

 彼からだ。

「君は無事か?怪我していないか?どこに居る?」

 私は、伝えたい気持ちが強すぎて声が出ない。

 慌てているうちに、雑音が入り通話が切れてしまった。

 彼とは、一か月前から付き合っている。

 名前と電話番号しか知らない。

 でも、それで十分だった。

 それで、十分愛し合えたからだ。

 しっくりくるというか、いごこちが良かった。

 彼のことは、あまり知らない。

 年齢も知らない。

 家族のことも、どこで生まれたのかも。

 彼はどうしているのだろう。

 怪我をしていないだろうか?

 でも何もできない、今の私には。

 嗚呼、心が痛い。


 人の動く気配や子どもの泣く声で、私は目覚めた。

 私はいつの間にか眠ってしまったらしい。 

 私は、みんなの後を追って、シェルターの外に出た。

 そこは、異世界のようだった。

 何もかも、破壊されて廃墟になっていた。

 壊れた人形のようになってしまった人たちには、目を向けられない。

 自動車が燃え、家が燃え、壁が崩れ落ちていた。


 なぜ?

 という気持ちと怒りが湧き出してくる。

 彼は、どうしているだろうか?

 周りを見渡す。

 スマホに目をやると、彼からメールが来ていた。


 あなたは、大丈夫?

 怪我をしていない?

 あなたの身に何か起こったらと考えると、

 自分が怪我をした時よりも恐ろしく感じる。

 そんなあなたを見たら、僕は僕でいられない、

 僕は、人間で無くなってしまうかもしれない。

 だから、決して無理はしないでください。

 お願いします。


 僕は今、地下室に身を寄せている。

 比較的安全だと思っている。

 僕の心が正常なうちに、あなたへの想いを送ります。


 この世では、人は出会い、そして別れる。

 決して避けることができない定め。

 この世に生を受けた生物は、時間の制約を受ける。

 一生という限られている時間の間で、出会う人は限られる。

 この世に留まる限られた時間がお互いを理解することを妨げる。

 時間の無さが、喜びや悲しみを与える。


 出会いの数だけ、別れもある。

 お互いの事情や行き違いで起こる。

 でも、それは、逢って話して触れた結果だ。

 何らかの理由がある。


 戦争は違う。


 自分の意志とは全く関係のない事情によって、

 否応なしに別れさせられる。

 こんなことが許されていいのだろうか?

 人間は進歩しているのだろうか?


 出会いはお互いの記憶にある。

 決して、自分の頭の中だけの記憶ではない。

 共有しているのである。

 感じていることは同じではないが、

 出会いや別れと言う出来事の記憶がお互いをつなぎ合わせる。

 その記憶を共有した者同士がこの世にいなくなった時や、

 語り継がれなくなった時、この世に存在しなくなる。

 そして、何も無くなる。

 僕は、覚えている。

 あなたの目や鼻や口や顔を。

 あなたの髪。

 あなたの身体を。

 あなたの声。

 あなたの匂い。

 あなたの髪をすく癖を。

 あなたの指が唇が私に触れた感じを

 僕は忘れない。

 ずーっと、忘れない。

 ある人は、”魂”は無くならないと言う。

 魂は輪廻転生し、いつかまた逢える日を願っている。

 僕も”魂”というものを信じてしまう。

 いつか、いつかまた逢える日を願って。

 好きだった、愛していた、あなたに逢える日を信じて。


 嗚呼、彼に会いたい。

 飛んで行って、抱きしめてキスしたい。

 私は、天を仰いだ。

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