Blessing of the witch

月 日向

第一部 吸血鬼の王の花嫁

一章 落第魔導師ルゥーン・フィニア

第1話 落第魔導師ルゥーン・フィニア

ああ、また今日が来てしまった。


狭い部屋で一人、ルゥーンはそう思った。

ルゥーンは小さなベットから起き、寒さを堪えながら朝食を食べる。

決して良い朝食とは言えないが、ルゥーンにとってはこれは日常のことであり、一生変わることのない日々だ。


ルゥーン・フィニアは平民だ。

そして、平民としては珍しく宮廷魔導師という職業である。

宮廷魔導師とは、宮廷に仕える魔導師であり、待遇も良く、給料も良いので皆から憧れの目線を向けられるのだ。


だが、ルゥーンはそんな魔導師の中でも落ちこぼれだった。


魔法はほとんど使えないし、魔力も少ししかない。その上、体力すらない運動音痴であるため、ルゥーンは使えないお荷物だったのだ。


そんなルゥーンは書類仕事だけをしている。

それだけは役に立っていた。

役に立っている、だった。


朝食を食べてすぐに宮廷魔導師の仕事場に行くと、先輩の宮廷魔導師がルゥーンに声をかけてきた。


「ルゥーン。お前のが決まった」

「……ぇ?」


ルゥーンは何が何だか分からなかった。

そのまま先輩の魔導師にそのについての書類を手渡され、そして絶望した。

なぜならば、ルゥーンの配属される場所は死地と呼ばれる場所であるからだ。

そこには吸血鬼の王がいて、入った瞬間に殺されてしまうらしい。

そんな場所にルゥーンを配属するなど、嫌がらせを通り越して死ねと言っているようなものだ。


だが、ルゥーンは疲れてしまっていた。


もう死のうと思っていたので、死地に配属されたのは都合が良かった。

すぐに荷物はまとめられるので、今日にでもその配属先に行くと伝える。

すると、先輩は憑き物が落ちたようなそんな顔をしてこう言った。


「お前がいると俺も迷惑だったからな。さっさと配属先が決まって良かったぜ」


ルゥーンは、深く深く絶望した。

やはり、魔法の使えない役立たずな魔導師など、要らなかったのだ。

そう思うと、涙が込み上げてきそうだった。

だが、目には涙がたまる気配もない。涙は、いつの間にか枯れてしまっていた。

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