第372話 帰路へ就く

「三國君が行く場所なんて、コミックコーナーしかないでしょ!」

「参考書に興味が無い三國君が行く場所なんて、其処ぐらいしかないから……」


 伊藤さんは澄ました表情で、俺に言葉を続ける。

 俺が、太平洋戦争関連に興味が有ることを伊藤さんには教えてないから、伊藤さんはそう言っている。


「……」


(うーん。態々わざわざ余計なことを、言う必要もないしな…)


 俺は伊藤さんに反論をしたい気持ちで有ったが、それをした所で伊藤さんは『ごめんなさい。三國君!///』とは言わないだろう。

 却って『ふーん。三國君にそんな趣味が有ったとは……人は見掛けによらないね!』と、小馬鹿にした表情で多分言うだろう?


「まぁ、でも……桃香の側に居てくれて良かったわ!」

「そうでなければ、連絡を入れなければ無かった…」


 伊藤さんは、一人で納得した表情で喋っている。

 俺が桃香ちゃんと一緒で無ければ、連絡は入れるつもりだったのか。


 伊藤さんの言葉の後。陽葵先輩が俺と伊藤さん姉妹に向けて、穏やかな表情で話し始める。


「じゃあ、みんな揃ったことだし、良い時間に成るから帰ろうか!♪」


 今の時刻は……16時半を結構過ぎた時間で有る。

 健全な学生たちなら、帰路を意識し始める時間で有る。

 陽葵先輩や伊藤さんは真面目な人で有るから、夜遊びはまだしないのだろう?


 ……


 俺たちが居る場所は、名美崎なみさき駅付近の本屋さんで有るから、その本屋さんから名美崎駅に向かい、俺たちの町に向かう電車に乗り込む。

 行きは特急電車で名美崎に向かったが、帰りは伊藤さん姉妹の関係上。特急電車では無く、急行電車で俺たちの町に向かう。


 伊藤さんが、特急座席指定券の料金を惜しんだからだ。


『10分位時間が余分に掛かっても、別に問題は無いよ!』

『私や桃香は、行きも急行で来たのだから!』


『……』


『……』


 伊藤さんは澄ました表情で陽葵先輩と俺に言うから、陽葵先輩と俺は何も言えなかった。

 陽葵先輩や俺もこの後、用事が有るわけでは無いし、別に特急にこだわる必要も無いからだ。


『ガタン、ガタン、―――♪』


 俺たちは現在。急行電車で俺たちの町に向かっている。

 これが特急電車なら、特急座席指定券を買って、4人が向かい合わせて座ることが出来るのだが、急行電車車内はそんな事が出来る乗車率では無い。


 まだ、みんなが座れただけでもマシと思わないといけない。

 そのため、俺たちは席が離れて二人ずつで座っている。


 そして、俺の横は陽葵先輩では無く伊藤さんで有った。


『お姉ちゃん!』

『私。陽葵さんの横に座りたい!!♪』

『良いでしょ。お姉ちゃん!!♪』


 桃香ちゃんが伊藤さんでは無く、陽葵先輩と一緒に座りたい理由からそう成ってしまった。

 桃香ちゃんも、陽葵先輩のことを気に入っている感じだ。


「……」


「……」


 伊藤さんは窓側の席に座っており、俺が通路側の席に座っている。

 急行電車だから、特急電車より乗車時間は当然長く成る。


 伊藤さんは窓枠に右肘を置き、頬杖ほおづえを付きながら、澄ました表情で窓からの景色を眺めている。

 俺と伊藤さんは親友関係で有るが、余り良い雰囲気では無い。


 俺は今日。陽葵先輩と一緒に名美崎市の市立美術館に来たのだが、運悪く伊藤さんに出会ってしまい、その後は俺と陽葵先輩を妨害するように乱入してきた!

 2人でのランチが4人に代わり、陽葵先輩との繁華街散策も、本屋さん散策に変えられた!!


 本来なら腹が立つ出来事で有るが、俺は伊藤さんのことが振られても好きで有る。

 そして、伊藤さんも俺を振った割には、未練をかなり持っている。


 有る意味。この2人での時間はチャンスなのかも知れないが、気軽に話し掛けやすい雰囲気では無かった……

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