第318話 クリームソーダ

 俺は『撫子』のメニュー表を見ている。

 喫茶店定番の軽食やドリンク類はもちろん、ケーキなどのお菓子系も有る程度有ると、言えば良いのだろうか?


(……この前、食べ損ねた『和菓子セット』にしても良いが、アイス緑茶は俺の中では及第点きゅうだいてん何だよな!)

(今回の飲食料金が無料タダに成るなら、プチ贅沢をしても俺の財布は傷まないよな!!)


 俺は少し悪いことを思いながら、メニュー表を見続けた。

 思い切って、軽食でも頼んでみるか!!


(初めて、俺が『撫子』に来店した時。真優美さんが休憩中でサンドイッチを食べていたな!)

(真優美さんが食べていたサンドイッチを頼んでも良いが、この時間からサンドイッチを食べると晩ご飯に差し支えそうだな…!)


 小腹は空いているが、この時間からサンドイッチ一人前を食べると、確実に晩ご飯に影響が出る!

 軽食類はこの時間から、食べない方が良いだろう……


(軽食は諦めて……ドリンクはどうしようかな?)


 メニュー表のドリンクメニューを見ていると、俺はある物に目が付く!

 それは、クリームソーダで有った。


(最近……クリームソーダなんて、飲んでいないな…!)

(アレは基本、子どもが飲む飲み物で有るが……俺もまだ、子どもに該当するか!)


(この年齢に成ると、子ども向けメニューは頼みにくく成るが、今日は俺一人だし、更に閉店間近だ!!)

(伊藤さんや二村も、真優美さんのお店を敬遠しているから、来る事も無かろう!)


 俺はクリームソーダを頼む事を決め、テーブル横に置いて有る、呼び鈴を手に持って、呼び鈴を鳴らす。


『チリーン、チリーン、―――♪』


「はーい!」

「今、伺いまーす!♪」


 真優美さんは呼び鈴に反応して、直ぐに陽気な声で対応する。

 直ぐに真優美さんが、俺の座っている席へやって来る。


「お待たせ。三國君!」

「注文を伺うわ!!♪」


 営業スマイルで言う真優美さん。

 俺は和やかな表情で、先ほど決めた注文を言い始める。


「真優美さん!」

「……クリームソーダをお願いします!!」


「クリームソーダね!」

「はい。注文受け付けました!!」

「しばらく待っていてね。三國君!!」


 俺がクリームソーダを頼んだ事で、真優美さんが小馬鹿にしてくるかなと少し警戒していたが、そんな事は無く、笑顔で言って席を離れていく……


(他の男性客も意外に、クリームソーダを飲んでいるのかな?)

(そうで無ければ、顔を“しかめる”なりの反応が有るはずだ!)


 俺はそんな事を思いながら“おしぼり”の袋を破り、手を拭き始める……


 ……


 店内のお客さんが、少しずつ減っていく中、真優美さんが注文した品を持ってくる。


「はい。お待たせしました!」

「クリームソーダです!!」


 真優美さんは営業スマイルで言いながら、俺の場所にクリームソーダと豆菓子を置いて行く。

 ジュース系統を頼んでも、コーヒーに付く豆菓子は出るようだ。

 俺は穏やかな表情で、真優美さんにお礼を言う。


「ありがとうございます。真優美さん!」


「じゃあ、ごゆっくりと……」

「後、少ししたら閉店に成るから、それまでちょっと待っていてね…」


 陽気な口調で言う真優美さんだが、途中から小言に成って俺に言う。

 まだ、店内にお客さんがいるから、俺に“えこひいき”をしていると、他のお客さん達に思われたくは無いのだろう。


「…分かりました」


 俺も小言で、真優美さんに返事をする。

 真優美さんは俺の言葉を聞くと、静かにカウンターへ戻って行く。


(クリームソーダの、クリームが溶けない内に、久しぶりのクリームソーダを楽しむか!♪)

(クリームソーダを飲んだのなんて、本当に小学生以来だからな!!♪)


 俺は“うきうき”顔で、ストローの袋を破く!

 分かりきっている味だが、俺は笑みをこぼしながら、ストローをクリームソーダのグラスに入れた!!

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