第232話 マヨネーズ

「……」


 俺も当然、驚いている!!

 兄は調味料を“どばどば”かける人では無いからだ。

 コロッケとかでも、ソース類は少量しかかけていない。


「~~~」


 兄は冷やし中華にマヨネーズを“適量”かけ終わると、冷やし中華にマヨネーズを絡めて食べ始める。


「うん!」

「マヨネーズのコクが加わって、美味しさが増すね!!」

「だが、タレがマヨネーズで濁るのが難点だが……」


 嬉しそうな表情で、冷やし中華を食べて言う兄。

 本当かよ……。俺は心の中で感じる。


(虹心の料理が旨いと言いつつ、マヨネーズをかけるのは流石に駄目でしょ!)

(虹心の中では、これがベストだと意識して作っているのに…!)

(虹心だって……何か、言いたそうな顔をしているし)


「ズルル~~~」


「……」


 虹心は兄が食べる姿を『ジト目』表情で見ている!!

 兄と虹心は大の仲良しだが、冷やし中華マヨネーズ問題で、兄妹喧嘩に発展してしまうか!?


「ん~~~」


「……」


 虹心は少しうなった後。テーブル上に置いて有るマヨネーズを静かに右手で掴む。

 虹心の“はらわた”が実は煮えくりかえっていて、マヨネーズ容器を兄にぶん投げるつもりだろうか!?


『この、クソマヨラーお兄ちゃんが!!』

『マヨネーズと心中しろ!!!(怒)』


『ブン!!』


『ドガッ!!』←兄にマヨネーズ容器が当る音


『うぁ~~~!(死)』


 もしかしたら、兄と虹心の初兄妹喧嘩が見られるかも知れない!?


「……」


 虹心は不満そうな表情をしながらも、虹心のお皿の端にマヨネーズを少量出している!?

 マヨネーズの容器を兄に、投げるつもりでは無かったか!!

 虹心も、冷やし中華マヨネーズを挑戦するのだろうか?


「……パク!」


 冷やし中華にマヨネーズを少量のせて、虹心はそれを食べる!!

 兄がやっているから、文句を言う前に挑戦したのだろうか?


「もぐ、もぐ、―――」

「うん…。確かにマヨネーズのコクが加わって、悪くは無いわね…!」


 虹心は澄ました表情と言うか、少し冷めた表情で言うが、兄は和やかな表情で虹心に話し掛ける!


「いけるだろ。虹心!!」

「俺の同僚は、もっとマヨネーズをかけて食べていたがな!!」

「だが、何でも、かけ過ぎは良くないよな!!」


「まぁ……新しい味だけど、私はちょっとかな。お兄ちゃん…///」


 兄の言葉とは裏腹に、少し寂しい表情で言う虹心!?

 虹心が旨いと賛美すれば俺も試そうかと思っていたが、虹心があんな表情を見せたから、試さない方が良いだろう!?


「……人の好みは、人それぞれだからな…!」

「まぁ、僕の場合は……それだけ、体が味の濃い物を求めているだけかも知れないが…」


 兄も虹心の異変に気付くが、穏やかな表情で言いながら、冷やし中華を食べている。

 けど、最後の文章は言い訳をしているように、俺は聞こえてしまう……


「……」

「ズルッ!」


 虹心はこの後、言葉を続けるかと思っていたが、そのまま無言で冷やし中華を食べ始める。

 俺は静かに、その場面を見ている。


(何だか、兄と虹心の間に微妙な空気が生まれたな…)

(兄の行為に悪気は無いだろうが、虹心の中では悪意に捉えていた……)


 兄が冷やし中華にマヨネーズをかけて、それを食べるのを見たのは、今日が初めて有る。

 それを見た虹心の中では、それだけショックと裏切りが大きかったのだろうか?

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