第230話 三人兄妹での夕食 その1

「ただいま!」

「武蔵。虹心!!」


 兄の航平は和やかな表情で、俺たちに向けて帰宅挨拶を改めてする。

 俺が言葉を発する前に、虹心が兄に向けて帰宅挨拶を始める。


「お兄ちゃん。お帰り~~!」

「今日も、お疲れ様でした!!♪」

「お兄ちゃん所(会社)は、今日も暑かったでしょ~~♪」


「晩ご飯の準備は出来ているから、直ぐご飯に出来るよ!♪」

「今晩のメニューは夏の定番、冷やし中華~~!♪」


 虹心はまるで、旦那さんに言うような口調と表情で話している!!

 虹心がメインで晩ご飯を作って、兄に言う時は何時もこんな感じだが、毎回聞いていても変に感じる??


「おっ!」

「今日は、冷やし中華か~~~」

「虹心が作る、冷やし中華は旨いからな~~!」


「この時期は蒸し暑くて、食欲が落ちる時期だから良いね~~!」

「だが、食事の前に軽く着替えてくるよ!!」


『バタン!』


「……」


 晩ご飯が冷やし中華で、嬉しそうな表情で兄は虹心に言い終えると、俺には言葉を掛けずに、そのまま着替える為にリビングから出て行く!!

 俺への会話より、冷やし中華の方が大事らしい!!?

 兄が出て行くのを見送った虹心は、和やかな表情で俺に話し始める。


「兄ちゃん!」

「晩ご飯、最後の仕上げをしようか!!」


「あぁ……だな!」


 俺は、理解した表情で虹心に返事をして、虹心と共にリビングから台所に向かう。

 今更だが三國家の場合。食事は基本的に台所のテーブルで摂る。

 台所にもエアコンは設置されているので、夏でも冬でも問題は無い……


「兄ちゃん!」

「私は、ご飯の盛り付けとかをするから、兄ちゃんは冷やし中華のタレを均等にかけておいてね!」


 台所に入った早々、虹心は笑顔で俺へ仕事を振ってくる。

 俺はそれを素直に返事をする。


「分かった!」


 冷やし中華のタレが、冷蔵庫で冷やして有るのは知っているので、俺は冷蔵庫から冷やし中華のタレが入っている小鍋を取り出す。

 三國家の場合、冷やし中華のタレは、市販品や添付品が入ってるのを使わず手作りをする。理由は良く分からん!!


「……」


 俺は小鍋に入っている、冷やし中華のタレを“お玉”で均等に分ける。

 勿論、お皿のラップを剥がしてからで有る。小学生でも出来る簡単な仕事だろう!!


 俺が作業をしている間、虹心はお茶碗にご飯を盛り付けたり、冷蔵庫から浅漬けを出している。

 俺たちの世代では、冷やし中華だけでは物足りないからだ!?


 タイミング良く、俺たちの作業が終わる頃に兄が台所へ顔を出す。

 兄は俺たちを見て、少し困った微笑みで声を掛ける。


「……何時も済まんな。虹心!」

「虹心も、一番遊びたい年頃なのに…」

「武蔵も最近、虹心の手伝いを良くしているが、本当に仲直りしてくれて何よりだよ!!」


「お兄ちゃん!」

「料理は私が好きでやっているのだから、問題は無いよ!!」


 兄の言葉を笑顔で言う虹心。

 俺も、兄に声を掛けられているから言葉を返す。


「虹心の大変さに最近、気付いてね……」

「立場上…。俺は兄だから手伝った方が良いかなと思って!」


 俺は成るべく、澄ました表情を演じて兄に言う。

 俺が虹心と関係を深めたことを、俺と虹心は家族内で秘密にしている。


「えらい……気の変わり様だな。武蔵!!」

「やはりと言うか……女性の親友が出来ると変わる者か!!」


 兄は少し驚いた表情で言う。

 まぁ、そう言う風にしておこう。


「うん……そんな感じだよ!」

「兄貴……」


 俺と虹心はこの関係を隠しているが、実際は勘づかれているだろうな……

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