第215話 ボートで遊ぶ その1

 この公園に有るボート乗り場は建物の上に『ボート乗り場』と、ペンキが剥げ掛かった看板がかかげられているだけで有り、ボートの種類や料金などは一切分からない。

 利用時間45分に対し、料金千円が妥当かは俺には分からないが、言い値で出すしか無い。


 俺は財布から千円札一枚を取り出し、それを老人男性に手渡す。

 もし、これが一万円札で有ったら、この老人男性は『こんなでかい金を出すな!!』とでも言うのだろうか!!


「…………、ちょっと其処で待っていて!」


 老人男性はほぼ無言で千円札一枚を受け取り、乱雑にポケットに入れた後、俺たちに一言言い残して桟橋さんばしの方に行ってしまう!!

 多分、ボートの用意をするのだと思うが……あのジジイ、ボートに穴とかを開けないよな!?


「……感じ悪い人だね。兄ちゃん…!」


 老人男性が、俺たちの視界に見え無く成ったのを確認してから、虹心は目を細めながら小声で俺に呟く。


「あぁ、全くだ……」

「俺たちが子どもだと思って、馬鹿にしやがって……」


「俺も、舐められた者だ!?」

「なぁ、虹心…。虹心はこの公園のボートを乗るのは初めてか?」


 俺は愚痴を言う表情で言った後、尋ねる表情で虹心に聞く。

 虹心は穏やかな表情で、俺の問いに答え始める。


「私はこれで、二回目だよ!」

「前回は小鞠ちゃんと一緒に乗ったけど、その時の受付の人は愛想の良いおばちゃんだった!」

「最後は、あめ玉まで貰えたし!!♪」


 最後の文章は、嬉しそうな表情で言う虹心。

 まさかと感じるが、そのおばちゃんは虹心と小鞠ちゃんを、小学生目線で見ていたのかも知れない!?


「そっ、そうか!」

偶々たまたま、俺が外れの人を引いただけか……」


 俺は諦めた表情で言う。

 人間と言う生き物は、機械のように規則正しくは動けないし、性格も人に依ってバラバラで有る。

 そのため、人当たりの良い人も居れば、当然人当たりの悪い人も居る。


(……今回は、運が悪かったにして置こう…!)


 多少のアクシデントは有ったが、スワンボートも無事に借りられそうだし、後は老人男性が俺たちの側に戻って来るのを待つだけだ。


 ……


 数分間その場で俺たちは待っていると、老人男性が桟橋の方から戻って来ながら言い始める。


「……3番と書いて有る、ボートに乗って!」

「時間は今から45分で有り、超過の場合は15分につき300円だから!!」


 老人男性は説明する口調で言い終えると、事務所か管理人室だと思われる場所に移動してその椅子に座ってしまう!!

 ボートへの乗り方の説明とかは無いの!!


(虹心が以前、このボートに乗っているから、虹心が乗り方を知っているだろうが、これが初めてのボート遊びだったらどうするのだよ!!)


 俺は心の中で憤慨するが、老人男性がストップウォッチらしき物を作動させていたので、今から口論などをしてしまったら、ボート遊びが出来る時間が減ってしまう!!

 俺は不満を感じながらも、虹心と一緒に桟橋に向かった。


 俺と虹心はボート乗り場の桟橋に出ると、3番と書かれたスワンボートが接岸されている。

 桟橋周りには他のスワンボートなども係留されているが、3番以外は直ぐに乗れる状態では無い。


 この公園の池は、ため池に近い池で有るため水面も穏やかで有って、風もそよ風程度なので乗船に危険が伴うことは無いが、普通はスタッフが側にいない者か!!

 俺はやる気の無い店だなと感じつつ、ボート乗り場の建物内に顔を振り向くと、先ほどの老人男性が睨むように俺たちを見ていた!!


(……一応は見ているのか!!)

(だけど、嫌な視線だな……さっさと乗って、この場から離れよう!!)


 きちんと接岸はされているので、そのまま普通に乗り込める状態で有った。

 安定性も良さそうだから慎重に乗る訳では無く、普通に乗っても横転はしないだろう。


 このスワンボートは右座席にハンドルが付いていて、足下にはペダルが有る。

 だが、そのペダルは左座席にも付いている。


 ハンドル操作は右座席の人がするが、動力となるペダルは両方の座席に有るので、動力は二人分に成る。


 いよいよ、スワンボートへ乗船だが、運転手は俺と虹心のどちらがするべきか?

 流れ的に言えば男性で有る、俺がするべきだと感じるが……

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