第96話 妹と二人きりの夕食

 ……


 俺は台所に入ると、台所に有るテーブル上には、晩ご飯が既に並べられていた。

 メインは丼鉢に入った豚汁。

 おかずは鮭の塩焼きに、その皿には“ほうれん草”の和え物が盛り付けて有る。

 後は漬物で有った。


 何時もの時間より遅めの晩ご飯なので、茶わんに盛られたご飯からは、湯気はさほど立って無かった……


「……」


 準備を終えていた虹心は、不満表情で椅子に座って、俺を待っていた。


「……随分、時間が掛かっていたね!」


 虹心の機嫌は全然直って無くて、不機嫌口調で俺に向けて言う。

 俺はそれを、すっとぼけるように言う。


「そっ、そうか…」


「……鮭も焼きたてを意識して用意したのに、皮が“しなしな”に成ってしまったよ!」

「電子レンジで温め直したけど……皮は、やはり“しなしな”だね…!」


 虹心はしかめっ面で嫌みを言う。

 血の繋がった兄妹ですら、これ位の嫌みを言うのだから、虹心の夫に成る人は大変どころか哀れな人に成るだろう!?


「本当に悪かった。虹心!」


「……豚汁が、冷める前に食べましょう!」

「夜の時間は、たっぷり有るから……」


 俺は再度、虹心に謝るが、虹心は言葉を聞き流し、澄ました表情で言う。

 俺と虹心は食事前の挨拶をして、虹心と二人での晩ご飯が始まる。


 が…………今晩は、何時もより静かな食事時間で有った!?


(この食事時間……)

(虹心と冷戦状態の時を思い出すな…)


 今でこそ、虹心と二人きりの晩ご飯時は、虹心が積極的に話し掛けてくるが、今晩は俺を毛嫌いしていた時のように、虹心は無言で食事が進んでいく。

 虹心がそれだけお腹が減っているのか、俺に対する怒りがまだ残っているのか……


 小鞠ちゃん絡みで、虹心と冷戦時代も有った。

 この様な二人きりの食事時は、家族内の伝言以外の会話をしない……。そんな時も有った。


(……里芋が、結構煮崩れているな!)

(豚肉も……油分が、かなり抜けている…)


 豚汁や鮭の塩焼きも、虹心は食べ頃を意識して作っているのだろう。

 豚汁はかなり煮込まれており、これはこれで美味しいが、煮詰まっている感が有る。


(俺が具体的な帰宅時間を言わなかったから、ずっと鍋に火を掛けていたのかも知れないな……)


 俺は心の中で、虹心に『申し訳ない!』と思いながら、虹心の様子を覗う……


「むしゃ、むしゃ、―――」


 虹心はまだ、不機嫌そうな表情で晩ご飯を食べていた。

 最低限の言葉以外は喋らず、俺と虹心の晩ご飯時間は過ぎていった。

 その所為で、普段より味を楽しむことは出来なかった。


 ……


「ゴク、ゴク、―――」


 虹心は冷たい麦茶を一気に飲み干すと、空に成ったコップを音を立てる様にテーブルに置く!


『トン!』


「さて……兄ちゃん。兄ちゃんも、お腹は膨れたでしょう?」

「兄ちゃんの今日の経緯いきさつを、私のデザート代わりに聞かせて貰おうか!?」


 虹心は俺を見据えて、低音口調で言い始める!

 かなりの時間が経っているのに、虹心の機嫌は全く直ってなかった!?


(何か……この態度。伊藤さん見たいだな)

(虹心や伊藤さんも不機嫌に成ると、言葉が攻撃的に成る……)


(俺が伊藤さんを一番良いと思うのは、虹心の影響か!?)

(俺の一番大好きな人は……実の妹で有る、三國虹心か!?)


「兄ちゃん……なに『僕は事実を知ってしまった!』の顔をしているの…?」


 虹心は澄ました表情で言ってくる。本当に伊藤さんと変わらない!

 俺は戸惑った表情で虹心に言う。


「いっ、いや。俺の中での問題だ…」

「虹心…。話す前言って置くが、今日の俺の出来事は、本当に濃厚の一日で有った!」


「かなり時間が掛かるぞ…!」


 俺は最初に、虹心に断わっておく。

 それだけ、俺の一日は本当に濃厚で有るからだ。


 虹心はデザート代わりと言ったが、実際は一日分の食事量と変わらない位のボリュームが有った!!

 話す方も大変だが、聞く方も大変に成るだろう!?

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