6. 二度見。

 そろそろ来るかな…。

 なんて、想いながら。あまり憶えてない昔流行っていた歌を歌う…。

「店長さん、あまり憶えてないなら歌わないでくださいっ」

 隣でシャカシャカとシェーカーを振るバイトの彼が流し目で、

「気持ち悪いです…」

「ごめん…」

 ちょっと浮足立ってしまっているようだ…。本当はすごくすごぉーく会いたくて仕方ないんだけど…。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

 噂をすれば、何とか…。

 翔琉かけるは会釈して、仕事終わりの少し気怠そうな顔で俺を見る。が、一瞬目を見開いて、いつもの翔琉に戻る…。

「いつもの。で、いいですか?」

 バイトの彼は、作り終えたカクテルを置き、冷蔵庫から瓶ビールを取り出し、グラスと共に差し出す。

「おぅ…」

 翔琉は差し出された場所に…、俺の目の前の席に座り、再度俺を見て、

「ど、どうしたんだ…?」

 そう言って、翔琉は自分の後ろ髪をね上げる。

「そう思いますよねぇ?」

 バイトの彼が、透かさず合いの手を入れる。

 翔琉は頷き、俺を見て、

「何かあったのか…?」

「何もないよ…?」

 そう言って、バイトの彼が作ったカクテルをカウンターから少し離れたテーブルに持って行くと、これまた修羅場かと思うくらいの二人がいた。

「お待たせしました…」

 見なかったことにする。

 笑顔で。

 俺は見てなかったぞと伝えて、素早く去ろうとしたら、

「待ってくださいっ」

 服の裾を掴まれた…。可愛い彼に。

「あ、あの…、カオルさんの歌、聴きに来ました…」

「ファンなんですよ、コイツ…」

 俺のファンだという涙を流していた可愛い彼は立ち上がり、

「今日の歌、楽しみにしていますっ」

「おっ…、おぉ…。はい。楽しみにしていてください、ね…」

 不意打ちのハグに、防御出来なかった…。

 慣れてはいるんだけど…。

 思いのほか、力があるんだなと…。

 向かいに座っていた可愛い彼の連れが、学生時代からの腐れ縁・須田すただと気付いて、気付かないフリをした…。

 ずっと戸惑っているワケにはいかない。何とかせねばと足掻いていたら、目の前に須田が現れて、そっと可愛い彼の手から解放してくれた。

 そして須田は微笑んで、

「カオルさん、大丈夫ですか…?」

 須田だと気付かなかったのは、いつものスーツ姿ではないことと、髪型、メガネ…。もしかして、完全なプライベートか…。

「大丈夫ですよ。では、ごゆるりと…」

 笑顔で、その場を後にした。

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