4. 戯ける

 2階の空き店舗を支配人のご厚意により機材置き場にしており、機材を取りに行くフリをして、現在、気持ちを落ち着かせている。治まれぇ。俺の心臓…。

「はぁ…」

 無理だ…。暫く治まりそうにもない…。

「あっ!…」

 忘れる。

 忘れるのだ。ついさっきの出来事を…。

 そう言い聞かせながら、息を整えていると少し重い足音が近付き、遠慮がちにドアが開く音が聞こえた。

「お邪魔します…」

翔琉かける…?」

 今、一番会いたくないヒトが目の前にいた…。

 きっとバイトの彼が気を利かせてくれたのだろう…。

「手伝うよ…?」

 薄暗がりの中でも、翔琉の優しい笑顔はキラキラしている…。

 今の俺には、毒だ…。

 普段の俺ならば、目の保養になるのかも知れないが…。

「いや、お客様に手伝わせるわけにはいかないよ…」

「体調悪いと思って来たんだけど…」

 体調はすこぶる良くて、むしろ今、この状況だと俺、襲っちゃうから…。

「余計なお世話だよ…」

 これ以上、俺に近付かないように警告の為に…。

かおる…?」

 翔琉を抱きしめた…。

「翔琉…」

 さらに抱きしめて、

「好きだ…」

 こんな形で告白するなら、もっと昔に…。

「うん。知ってる…」

 その答えは意外で、驚きのあまり倒れそうになったところ、翔琉に支えてもらった…。

「大丈夫…?」

「おぅ…」

 このドキドキは、暫く治まりそうにない…。

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