第2話 初デート


「はぁぁぁぁ、心臓が飛び出しそう」


僕は今、人生で初めて女性と待ち合わせをしている。僕の格好おかしくないよね?


今日の服装は、ショートパンツに少しダボっとしたパーカー。シンプルだけど結構気に入っている。


僕は自分で服を買いに行ったことがないので、全部お母さんの趣味で買って来てもらっている。


髪型はいつも通りショートボブ。この髪型はお母さんのお気に入りらしい。僕に一番似合う髪型だと教えてくれた。


『おい、あの子可愛くね』


『声かけてみようぜ』


『やめとけよ、まだ中学生だろ?』


今日は、すごい視線を感じるなぁ。早く来ないかなぁ、さ、皐さん。


かぁぁぁぁぁぁ。


や、やばい、顔が火照るのがわかる。先生のことを考えただけで、ニヤけてしまう。


先生はどんな格好だろうか?

僕の中で妄想が膨らんでいく。


「おい、那月。なにニヤニヤしてるんだ。早く乗れ」


「えっ、先生いつのまに」


いつの間にか、僕の目の前には白いセダンの車が停まっていた。


「お前が、なんかニヤニヤし出したあたりからだ。いいから乗れ」


「お、お邪魔します」


僕は、促されるまま助手席へと乗り込んだ。うわぁ、先生の車だぁ。僕はちょっとした感動を覚えていた。


「それにしても、那月。その格好なんだが」


「えっ、どこか変ですか?」


「あー、いや。似合ってるよ、すごく。でも、ちょっと可愛い過ぎないか?」


「か、可愛いですか!?ありがとうございます!」


「え、喜ぶの!?」


「はい、だってお母さんが、可愛いはさいだいの褒め言葉だって言ってました!」


「そ、そうか」


ふふん♪


やった、先生に褒めて貰ったぞ!

好調な滑り出しだ。さて、何故車に乗り込んでいるかと言うと、今日は少し遠出をするらしい。


やっぱり、先生と生徒がデートをしているところなんて見られると、何かと大変らしいので、少し離れたショッピングモールへ行くことにしたのだ。


車で移動すること40分。


目的地のショッピングモールに着いた。車の中では、緊張してしまい上手く喋れなかった。もっと先生と仲良くなりたいな。


「さて、着いたぞ。降りよう」


「はい!」


車から降りて、先生の格好をまじまじと観察する。下はタイトなロングスカートにタイツ、上は白のシンプルなTシャツにライダースジャケットを羽織っている。


「・・・綺麗だ」


「那月、嬉しいが、あんまりジロジロ見ないでくれ。ちょっと、その、恥ずかしい」


あぁ、照れてる先生も可愛い。本当に僕の彼女なんだろうか?今でも不思議な気分だ。


「せ、先生ーー」


そこまで言うと、先生の人差し指に口を押さえられてしまった。


「さ・つ・き。2人の時は、皐って呼ぶように」


いいな、と微笑む先生。


「は、はい、さ、皐さん・・・あぅ」


「ぐっ、破壊力が。一日耐えられるか、私」


急に胸を抑える先生。どうしたんだろう、具合でも悪いのかな??


「だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。それより、デートを楽しもうじゃないか」


そう言って、皐さんは僕に手を差し出す。僕は躊躇いながらも、差し出された手に自分の手を乗せた。


皐さんの手、すべすべで気持ちいい。お母さん以外で初めて触る女性の手。なんだか不思議な気分。


「さて、まずはどこへ行こうか?」


「そうですねぇ、とりあえず見て回りませんか?」


「それもそうか。それじゃ行こう那月」


「はい、皐さん」


僕達は、ショッピングモールの中に入ると、順番にお店を見て行った。基本的には雑貨と洋服を中心に見て回った。


「わぁ、このお弁当箱可愛くないですかぁ?」


「ふむ、そうだな。那月に似合いそうだ。私は普段コンビニ弁当だから必要無いしな」


「えっ、皐さんコンビニ弁当なんですか!?それはいけませんよ、栄養が偏ります!」


ははは、と苦笑いしながら皐さんは頬をかく。


「実は、料理とか全然ダメでな。その他も家事スキルはないに等しい」


「そうなんですか、意外です。あっ、そうだ。だったら僕がお弁当作って来ますよ」


「えっ、いや、気持ちは嬉しいが、迷惑かけるわけには」


「全然大丈夫ですよ。1人分増えたくらいで手間は変わりません。任せて下さい!」


僕は胸を張り、ドンッと右手でその胸を叩いた。


「そうか、ならお願いしようかな。本当は彼女が作るべきなんだろうが・・・」


「いえ、僕料理が好きなので。それに、す、好きな人に食べてもらえたら、う、嬉しいです」


あぁ、やばいやばい。顔が熱いよぉ。

僕は自分の顔を両手で仰いだ。


「本当に可愛いな、那月は。よし、じゃあ弁当箱を選ぼうか。どうせならペアにしよう」


「ぺ、ペアですか!?」


「嫌か?」


「いえ、嬉しいです!」


やった、彼女と同じものを使うなんて、僕はもう立派なリア充なのでは?


僕は、皐さんと一緒にお弁当箱をお互いに選びあった。結果、僕の弁当箱が青、皐さんが赤になった。


「皐さん、ちょっとトイレ行って来ていいですか?」


「ああ、構わないよ。私はこの店の中を見てるから、ここで合流しよう」


「わかりました」


僕は近くのトイレを探した。ちょうど目の前のエレベーターの隣にあるようだ。


僕が男子トイレに入って行くと、すれ違う男性達は一様に驚いた顔をする。


「え、女の子?いや男・・・か?」


「マジか、全然ありだろあれ」


一体男子トイレのどこに女の子がいるのだろうか。みんな妄想が激しい人ばっかりだな。


ふぅ、スッキリ。


僕は急いで先ほどの店に戻る。


「お待たせしました、皐さん」


「いや、そんなに待ってないよ。そうだ、これ。忘れないうちに渡しておく」


そう言って手渡されたのは、青を基調としたデニム生地のエプロンだった。お腹のところに大きめのポケットがついており、そこからひょっこりとヒヨコが顔を出している。


「これ、僕にですか?」


「あぁ、なんとなく、似合う気がしてな。良ければ使ってくれ」


「はい!!大切にします!」


僕は、彼女からの初めてのプレゼントを抱きしめて、喜びを爆発させた。よぉし、絶対美味しいお弁当を作るぞ!!

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