先生は今日も僕を甘やかす

クロネコ

第1話 誰もいない教室で


キーン、コーン、カーン、コーン


窓から夕陽が照らす、無人の教室。

普段の賑わいとは打って変わって、静寂が包み込んでいた。


そんな空間に、二人の姿はあった。


「せ、先生、あの、僕・・・」


緊張で声が出てこない。ダメだ、やっぱり言えないよ。

僕が諦めようとした時、ふと先生の顔が視界に入る。


夕陽に照らされる先生の顔は、今まで以上に魅力的で、美しかった。ついさっき、諦めようとした気持ちに、また火がついたのがわかった。


僕は、先生にこの気持ちを伝えたい。


「せ、先生!・・・ぼ、僕と、付き合ってくだい!!」


僕は勢いに任せて先生に愛の告白をした。当然受け入れてもらえると思っていなかったため、気持ちを伝えられただけで嬉しかった。


「そうか。私のことをそんなふうに思っていたのか」


先生は怒っただろうか。先生に対してこんな邪な感情を抱くだけでなく、こんな愚かなことをした僕に。


「私は嘘が嫌いなんだ」


「え・・・?」


なんで今、そんな話を?


「もう、嘘でした、とは言わせないぞ?」


「は、はい、この気持ちは嘘じゃないです」


腕を組み少し考え込む先生。


「お前の気持ちはわかった。気をつけて帰るんだぞ?」


「えっ、はい」


じゃあなと言って、先生は教室を出ていった。

あれ?結局どうなったの?



ーーーーーーーーーー



そんなことがあってから、数日が過ぎた。


あれは夢だったのだと言われた方が、納得できるというものだ。

先生は特に気にした様子はなく、今まで通りに僕に接してきてくれる。対して僕は、今までみたいに接することができていなかった。


「おい、齋藤。放課後職員室に来なさい」


「は、はい」


帰りのホームルームが終わると、先生から呼び出しをくらった。

僕は模範生という訳ではないが、生活態度は問題なく、無難に高校生活を送っていた。


「ねぇ、齋藤くん何かしたの?」


僕の名前を呼ぶのは、隣の席の遠藤春香えんどう はるかさんだ。遠藤さんは笑顔が素敵な女の子で、誰にでも分け隔てなく接することで有名で、クラスの人気者だ。


「さぁ、特に何もしてないんだけど」


いや、正確には先日盛大にやらかしていた。あぁ、今考えただけでもなんであんなことをしてしまったのか。僕は頭を抱えた。


とりあえず、先生に呼ばれたからには行かないわけにはいかない。僕は意を決して職員室へと向かった。



コンッ、コンッ


「失礼します」


職員室に入ると、学年ごとに先生たちのデスクが固まっている。手前から3年生、2年生、1年生の順番である。先生は2年生の担任なので、中央のデスクになる。


「おぉ、来たか」


それじゃ行くか、と先生は席を立つと出入り口に向かって歩き出す。

僕は先生についていくことにした。


先生の後を追い、着いた先は生徒指導室だった。


「どうした、そこに座れ」


「あっ、はい」


僕は言われるがまま、机を挟んで先生の前の椅子に座った。


「せ、先生、僕なにかしちゃいましたっけ?」


「なんだ、先生に告白しておいて、何もしてないというつもりか?」


先生は笑いながら僕に言った。あ、やっぱり夢ではなかったんですね。急に恥ずかしさが込み上げてくる。


「相手が先生ということを除けば、健全なことだろう。わかってると思うが、先生と生徒が交際するということは色々とリスクが付きまとう」


「はい」


そうだよな。当たり前のことじゃないか。先生と生徒が付き合っているなんて知られたら、先生に迷惑がかかるんだ。それなのに僕は。


「先生、すみませんでした」


「いや、別にバレなきゃいいだけのことだ。それより、連絡先教えてくれ。学校で直接話すのには限界があるからな」


「え、別にいいですけど。何か連絡とる必要あるんですか?」


「お前、恋人と連絡とりたくないのか?」


・・・。


一瞬、何を言われたのか分からなかった。え?恋人?僕と先生が?


「え、あの、え!?」


あたふたとする僕を見て先生はくすくすと笑っている。

こんなふうに笑う先生を初めてみた。か、可愛い。


「ほ、本当に、僕と付き合ってくれるんですか?」


「だから、そう言ってるだろ那月なつき


僕の名前。突然の名前呼びで、急に現実味を帯びてくる。なんだかとっても気恥ずかしい。


「あぅぅぅ、は、恥ずかしいです、先生」


「くっ!?お、お前、それは反則だろ。ここは学校だぞ」


「え、何がですか?」


襲われても文句言えんぞ、と額に手を当ててつぶやく先生。

襲われる?何に?僕はキョトンとしていると、先生は再び深いため息をついた。


「那月、あんまり先生をいじめないでくれ。そういうのはプライベートで頼む」


「は、はい?」


よく分からなかったが、プライベートでも先生に会えるとわかると、そんなことはどうでもよかった。その後、先生の連絡先を無事に手に入れた僕はスキップしながら帰宅した。



ーーーーーーーーーー



私は、この高校に勤める教員で橘皐たちばな さつきだ。やっと教師という職業にも慣れてきて、今年からクラスの担任を任されることになったのだ。


順風満帆に見えた私の教師生活でが、ここにきて最大のピンチが訪れていた。


私のクラスには齋藤那月さいとう なつきという生徒がいる。男子高校生としては小柄で身長150cm、童顔でクリッとした目なんてまるで女の子のようだ。そんな彼は女子力が高く、家庭科の授業では、先生たちよりもうまいのでは?と思わせるほどの料理や裁縫の腕前。


そんな彼を、一目見てから私は彼から目が離せなかった。私は今まで勉強一筋でここまできた。気付けばもうすぐ30歳が見えてくる年齢。今まで恋愛を経験して来なかった代償なのか、彼が愛おしくて仕方なかった。


しかし、私と彼は生徒と教師この気持ちには蓋をしよう。こんなおばさんにモテたところで彼がかわいそうだ。


そんなことを考えていた、とある日の放課後。


誰もいない教室で私は、彼と二人っきりになっていた。


なんで?なぜこんな状況に!?


私はかなりパニクっていた。え、どういう状況。私これからどうなるの?


「せ、先生、あの、僕・・・」


声を振るわせなが、何かを伝えようとしている。あぁ、小動物みたいで可愛いぃ。にやけそうになる顔を必死に引き締める。


一瞬、目があったと思ったら、彼は意を決したようにこう言った。


「せ、先生!・・・ぼ、僕と、付き合ってくだい!!」


え・・・?もしかして、私、告白されてる?

いやいや、勘違いかもしれないいぞ!それか罰ゲームとか!

と、とにかく確かめないと。


「そうか。私のことをそんなふうに思っていたのか」


なんとか声を絞り出した。緊張が伝わらないか心配だったが大丈夫なようだ。


「私は嘘が嫌いなんだ」


「え・・・?」


驚いた顔をする彼。あぁ、そんな顔しないでくれ。可愛すぎる。


「もう、嘘でした、とは言わせないぞ?」


「は、はい、この気持ちは嘘じゃないです」


私は腕を組んで考え込む。


あれ、こ、これ本当っぽい?

よ、よし、一旦帰って気持ちを整理しよう。そうしよう。


「お前の気持ちはわかった。気をつけて帰るんだぞ?」


「えっ、はい」


その日、私は逃げるように自宅へと帰っていった。


その後、数日経過したが、特に彼から何か言ってくることはなかった。

もしかして夢だったか?と不安になった私は、彼を呼び出して確認することにした。



すると、彼はこんなことを言い出した。


「せ、先生、僕なにかしちゃいましたっけ?」


こ、こいつ、もしかして今更なかったことにするきか!?


「なんだ、先生に告白しておいて、何もしてないというつもりか?」


怒り出したい気持ちをなるべく抑え、威圧しないように笑顔を心がけた。


「相手が先生ということを除けば、健全なことだろう。わかってると思うが、先生と生徒が交際するということは色々とリスクが付きまとう」


「はい」


そうなんだよ、自分で言っててしょうがない。禁断の恋ってやつじゃないかぁぁぁ。しかし、それがむしろ良い!


「先生、すみませんでした」


「いや、別にバレなきゃいいだけのことだ。それより、連絡先教えてくれ。学校で直接話すのには限界があるからな」


「え、別にいいですけど。何か連絡とる必要あるんですか?」


「お前、恋人と連絡とりたくないのか?」


も、もしかして、こんなに気持ちが昂っているのは私だけなのだろうか?

だとしたら恥ずかしすぎるぅぅぅ。


「え、あの、え!?」


何これ、目の前で小動物があたふたしている。やばい、私は狼だったのだろうか?襲いたくなる衝動を必死に抑える。


「ほ、本当に、僕と付き合ってくれるんですか?」


「だから、そう言ってるだろ那月」


ちょっと恥ずかしかったが、私は思い切って名前で呼んでみた。


「あぅぅぅ、は、恥ずかしいです、先生」


「くっ!?お、お前、それは反則だろ。ここは学校だぞ」


「え、何がですか?」


くそぉぉぉ。ここが学校でなければ、このまま・・・。

ダメだダメだ、抑えるんだ私。くそぉ、襲われても文句言えんぞ。


「那月、あんまり先生をいじめないでくれ。そういうのはプライベートで頼む」


「は、はい?」


あぁ、くそ!


最後まで可愛い私の彼氏。私の初めての恋はこうして始まった。

私と教え子の秘密の生活が。


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