第18話:修羅場・イン・スイーツショップ

 場所は大きな公園内に建てられた人気のスイーツショップ。しかも、いつも行列の人気店。今日は時間的にタイミングが良かったのか、並ばずに比較的すぐに入れた。


 俺は市内の高校に通う普通の高校生武田将尚たけだかつひさ、現在訳あって家出中。


 小さな4人用テーブルの横に座っているのが俺のカノジョ加賀見恭子かがみきょうこさん。2?歳。アラサー(?)。

 現在無職(退職前有休消化中)、巨乳のエロエロお姉さん。冗談に品が無いけどギリギリ許容範囲内?いや、アウト?

 今日の髪型は毛先が巻いてありちょっとオシャレ。Vネックノースリーブとデニムパンツのカッコイイお姉さんコーデ。好き。


 テーブルで真向かいに座るのが俺の同級生にして元カノジョ藤倉花音ふじくらかのん。成績学年1位常連の多分天才。クラスではクールビューティーと名高い。

 今日はワンピースお嬢様コーデでちょっとかわいい感じ。見た目完璧美少女。ちなみに、俺は初めて私服を見た。


 この三人がスイーツショップで何を話すというのか。あたなはこんな修羅場に立ち会ったことがありますか?俺はあります。



「花音ちゃん……」


「なんでしょう?」



 珍しく花音の口調が刺々しい。普段の花音なら人間関係にもまず波風を立てない。この重苦しい雰囲気の中で恭子さんは何を言うというのか。



「お昼食べた?」


「え?いえ、まだですが…」


「そー!私たちもいっしょ!なんでも注文して!お姉さんがおごっちゃうわ♪」


「……ありがとございます」



 俺は何故か生きた心地がしない。別に何も悪いことをしていないのだ。もう一度言っておきたい。俺は浮気もしていなければ、それに類することもしていない。それなのに、居心地が悪いというのは何故なのか。


 なんだか恭子さんの雰囲気に飲まれて三人それぞれメニューから注文した。そうなると、商品が提供されるまで間が空くわけで……



「改めて、私が加賀見恭子です♪」



 恭子さんがニッコリ笑顔で挨拶した。ヤバい。すごく可愛い。こんな時じゃなければ抱きしめたいくらいだ。あ、多分俺バカだな。



「……藤倉花音よ」



 花音は、クラスメイトに接するようにクールビューティーモードで挨拶した。ああ、クールだし、ビューティーだわぁ。服装も相まって完璧美少女だわぁ。



「噂はカツくんから聞いてるわ。よろしくね花音ちゃん」


「よろしく…お願いします?」



 完全に花音が混乱している。他人の心すら読めてしまう天才チート美少女が恭子さんの考えを推し量れないでいる。



「あ、LINEのアカウント交換しとく?」


「え?あ、はい」



 美女二人がテーブル越しにスマホを近づけて、アカウント交換してる。あろうことか、恭子さんと花音が直接繋がってしまった。今まで一度も会ったことがないのに、バチバチにやり合っていた二人が直接繋がっちゃったよ!


 俺は血の気が引いていくのを感じた。俺を通して俺の分からない方法で相手にメッセージを送るという前代未聞の対決がこれまで繰り広げられていた。これからは俺が全く伺い知らない所でもそれが始まるのかもしれない。


 ここで、注文した商品が届いた。可愛い女性店員さんが笑顔で配膳していく。この人に俺はどんな人物に映っているのか!?

 花音は、苺のショートケーキに紅茶セット。おとなしめだし、お嬢様コーデにマッチした、「らしい」チョイス。


 恭子さんは、店オリジナルのケーキだろう「フルーツ・フルーツ」という名前で背の低い円柱状のケーキ。側面には色々なフルーツの断面が見えて見た目にも面白い。飲み物は、カフェインレス・コーヒー。


 俺は、何故かピスタチオのショートケーキ。メニューのはじめの方に写真が大きく写っていたからという理由だけ。正直商品が届くまで何を注文したか覚えていなかった。それどころではなかったのだ。ちなみに、飲み物はカフェオレ。


 美女二人とテーブルを囲んで、傍から見たら両手に華の俺。だけど、冷や汗が止まらないのは何故ですか!?


 しかも、二人とも頭がいい。俺の見えないところでメッセージを送り合っていた位だ。このケーキにも「お前の秘密は知っている」とか「3代後の息子を殺す」とか俺の知らない「ケーキ言葉」とかあるのではないかとヒヤヒヤしている。

 なんだよ「ケーキ言葉」って!?俺テンパってるな……



「いただきまーす。ん、おいし」



 今日のスポンサーである恭子さんが先に食べないと花音は食べられない。ここで手を付けるのが正解なのだろう。



「花音ちゃんもどうぞ」


「あ、はい……」



 無表情でショートケーキを食べている。ああ、可愛いケーキが可哀そう……



「先に言っておいた方がいいわね。花音ちゃん」


「はい……」



 ついに始まるのか!?



「カツくんとは仲良くしてね」


「「え!?」」



 俺と花音の声がハモった。



「二人とも本当の意味で心許せるお友達は少ないでしょ?末永く仲良くした方がいいと思うの」


「え?私は将尚を全力で奪いに行くかもしれないわよ!?」



 珍しく花音が感情的だ。俺はこんな花音を見たのは初めてだ。



「そんな子がお姉さんを呼び出したりしないでしょ?」


「は?呼び出し?」



 つい思っていることが声に出た。なにそれ?俺は聞いてない。今回俺が花音から受け取ったものと言えば花音ノートだけだし、直接恭子さんに渡したものなど何もない。LINEアカウントだって、たった今、目の前で交換されたばかりのはずだ。



「花音ノートに『堀の公園14時』ってメッセージが入ってたのよ」


「どこにぃ!?」


「女の子同士の秘密だよ」



 女の子同士こわっ!


 花音ノートは、今度の期末テストの範囲の内容が書かれているだけのノート。解説などは文章で書かれているけれど、それ以外のことは何も書かれていなかった。勘違いと言い切りたいところだが、実際花音がここにいる。


 やはり、彼女が呼び出したのだろう。しかも、俺が恭子さんにノートを見せると予想してたということ!?先の先の先まで読んでて怖いわ!



「まあ、浮気はやっぱり嫌だけど、花音ちゃんなら中出しまでは許すかなぁ」



 ちょっと待て、このエロ巨乳お姉さん。逆にそれ以上何か禁止する項目があるなら言ってみろ。



「高校時代のお友達は、社会に出てからも大切だよ。しかも、お付き合いしたまでの仲だったら特に。可能なら一生のお付き合いになったら素敵だと思うな」


「恭子さん……」



 俺の交友関係のことまで考えてくれて?異性の友達というとそれだけで嫌だろうけど、気持ちを抑えてくれているということか。さすが年上。大人の余裕。ちょっと感動して、涙が出そうになった。



「でも、隠れて浮気はしないでね。家に帰ってきてカツくんと花音ちゃんとが裸でベッドに寝てたら、お姉さんそれだけでメンタルやられると思うから。学校の中ならお姉さん窺い知れないし、セーフ!」



 いや、アウトだろ!俺の感動の涙を返せ!



「ふっ、全力で取りに行くわよ」


「(ぶっ)」



 俺は花音の宣戦布告に、カフェオレを噴出した。



「カツくん、汚いなぁ」



 恭子さんが卓上のナフキンを取って、口を拭いてくれる。花音はテーブルの上を拭いてくれていた。この人たち良い人か。そして、俺は周囲に迷惑をかける子どもかよ……



「さっきも言ったけど、カツくんは、私にとって神様で、ご主人様なの。多分離れたらお姉さんはもう生きていけないと思うの。そんな人だから、他の人にも好かれると思うのよ。そして、花音ちゃんもきっと……」


「……」



 花音の持っていたフォークの手が止まった。



「将尚のカノジョという余裕ですか?」



 花音は上目遣いに睨んで言った。メンチだなこれはメンチ切ってる。俺の知ってる花音よりも表情が明らかに豊かで、感情も豊富だ。



「お姉さんはカツくんの性奴隷だけど?」



 俺、この会話を左右のテーブルのお客さんたちに聞かれるの嫌なんだけど。両脇のテーブルの女の子たちが明らかにすごい顔してヒソヒソしてるし……なんか俺、泣きそう。



「この後は、お姉さんの家で勉強するんだけど、花音ちゃんも来ない?花音ちゃんなら勉強道具準備していなくても大丈夫でしょ?筆記用具はあるわよ?」


「え?」



 俺が驚くわ。花音のことだ、俺と恭子さんがどんな関係なのか知っているはず。そんな「愛の巣」にわざわざ乗り込んでくるはずが……



「お邪魔するわ」



 くるんかーい!イメージの中の俺は右手の甲を勢いよく架空の相方の胸の辺りにお見舞いして盛大にツッコんでいた。



「家の場所とか教えてもいいの?ほら、警察とかのことを考えたら……」



家が恭子さんを訴えたら誘拐になってしまう。警察に家へ突入されたら逃げようがない。



「花音ちゃんならとっくにマンションくらいまでは特定してるわよ」


「ん、6階まで分かってる。あとは部屋番号のみ」


「どうやって調べた!?」



ついに花音が、FBIか何かになってしまった。こいつはどこまでも優秀で万能だ。



「有能だけど、万能ではないわ」



心まで読まれた!?



「将尚のカバンに私のスマホを入れただけよ。自分のスマホならGPSで場所がわかるでしょ?あなた雑だから気づかないだろうし」



全然斜め上の方法だった。確かに、恭子さんの家の近くの公園を指定してるし、場所が事前に分かってたという事だろう……そして、わざわざ言ったってことは、あとでそのスマホを回収するってことかな。



「お姉さんはね、花音ちゃんとも仲良くしたいと思ってるの。あ、3Pしたいっていう意味じゃないからね?3Pはしないわよ?」



 頼む。黙ってくれ。このエロ巨乳お姉さん。


 結局、「お買い物」はダミーの用事だったみたいで、俺は何故か今カノと元カノを連れて、今カノの家で期末のテスト勉強をすることになった。


 ……という夢なら今すぐ覚めてくれ。



「カツくんのピスタチオ気になってたのよね。一口頂戴?」



恭子さんが俺のケーキに興味があったらしい。



「いいけど」


「(むぐむぐ)おいしい!これ!ピスタチオの風味が活きてる!」


「……将尚、私も一口」


「いいけど」


「(むぐむぐ)」



 花音は無言で親指を立てた。美味かったらしい。こういうところやっぱり女の子だなぁ。花音はいつでも清楚華憐。大人しくしていたらめちゃくちゃ可愛い。


 なにこれ?収まったの?それとも嵐の前の静けさ?とっくに俺の理解を超えていて、現状すら把握できない。期末の勉強の方がよっぽど現状が分かっている。心の「バーチャート工程表」出て来い!「バナナ曲線」出ろ!誰か俺が今どういう状況なのか解説してくれ!


 ケーキとお茶を平らげた後、舞台は恭子さんのマンションに移ることになった。

 ちなみに、支払いは本当に3人分、恭子さんが出してくれた。またクレジットカードで支払っていた。なんか、カッコイイな大人。花音も俺と同じようにクレジットカードを見ていたので、同じように感じたのかもしれない。


 俺と花音でお礼を言うと、恭子さんは「いいの、いいの」と太っ腹だった。花音にも気持ちよくおごってあげるところを見ると、仲が良くなっているのかな……


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