第3話:キスは気持ちがいい

 すごい状況だった。

 俺はあぐらをかいてキョウコさん知らない女の家でフローリングの床に薄いピンクの座布団を敷いて座っている。


 そして、俺の両肩に手を置いたキョウコさんは膝立ちで俺の目の前にはおっぱいが存在感をアピールしまくっている。黒髪のロングでだばーっと長い髪の毛は一見無造作だけど、キマッている。


 顔立ちも美人だし、目も大きいし、同級生の女子では見たことがない感じで化粧もしている。そして、なんかすごく良いにおいがする。香水みたいにきついにおいじゃなくて、ふんわりいい匂い。


 さらに、タンクトップとヒラヒラのショートパンツだけっていう薄着。お酒を飲んでいるためか、少し桜色に染まった頬と肌。しかも、さっき「好き」って言われなかったか?もう、間違いを起こす未来しか思いつかない。



「年上じゃダメかな?」



 キョウコさんはそう言って俺を見つめた。

 ここで俺は気づいた。キョウコさんは試している。俺を試しているわけではなく、自分を試しているのだ。別れ話をしてきたというカレシにフラれたことから自信を失っているのだろう。


 キョウコさんは忘れてしまっているのか、まだ気づいていないのか、美人で優しくてえっちなお姉さんは最高なのだ。そのカレシとやらは、別の女性が気になるのならば、そちらに行けばいいだけのこと。俺がここで大肯定することでキョウコさんは立ち直れる。



「全然ダメじゃないです。大好物です!」



 キョウコさんは、頬に手を当てて真っ赤になってしまった。ようやく自分の価値に気付いてくれたようだ。



「カツくん、キスしたことある?」


「あ、いや……」



 そう言えば、花音かのんとはキスもまだだった。それはもう終わったことだ。どうでもいい。



「じゃあ、お姉さんとキスしてみよっか」



 そう言って、キョウコさんは肩に置いていた手を俺の後頭部に滑らせた。大人の女の人と顔が近い。そして、頭は左右から両手が回されていて他の物なんて何も見えない。キョウコさんのことしか考えられなくなっていた。


 キョウコさんは上気して少し赤い顔をしていた。彼女も恥ずかしいのかな、と考えると俺も何かしなくてはと思い、彼女の腰に手を回した。驚くほど細い身体。俺の腕にすっぽり収まる程細かった。なんだか俺が守らなければ彼女はダメになってしまうのではないかと思えるほど華奢な存在だった。


 そのうち彼女の顔が近づいてきた。ここまでくれば逃げることはない。ただ目はつぶるべきか、あごは傾けるべきかなど考えているうちに、キョウコさんの唇は俺の唇に重ねられていた。



「んっ」



 悩ましい声がキョウコさんから漏れる。多分俺のナニは過去イチガッチンガッチンだ。


 キョウコさんが俺の頭に手を回したまま、顔を少し離す。少し笑みを含んだ表情で上目遣いにこちらを見ている。俺のファーストキスはチューハイレモンのにおいがした。



「どうかな?キスの感想は?」


「……大変よろしいです」



 なんだその感想は!?言った後に我ながら変なことを言ったと思った。それでも、キョウコさんは目を細めて笑ってくれた。



「次は、大人のちゅーをしましょう」



 そう言って、キョウコさんの顔が再び近づいてきた。今度は不思議と目を瞑っていた。なんだろう、元々誰から教えられるものでもないはずなのにそうしてしまうのはDNAに書かれていることなのだろうか。


 柔らかいキョウコさんの唇が俺の唇に強く押し付けられた。唇は力を入れない方が柔らかく感じて俺は好きだった。そうして欲しいから、俺は唇に力を入れず、キョウコさんの唇に押し付けていた。


 次の瞬間衝撃的なことが起きた。何が起きたのか一瞬分からなかった。驚きで目を開けたらキョウコさんの顔はまだ目の前にあり、それが何なのか分かった。キョウコさんが舌を入れてきたのだ。


 俺の舌に絡めたり、歯茎を嘗め回すように這いまわった。俺は自分の腰の辺りが痙攣していることに気が付いた。激しい快感だった。なんとなく、「キスはいいもの」と思っていたけれど、「キスは気持ちがいいもの」だった。


 その後、キョウコさんの唇と舌は俺の首筋に移動して、俺は抱きしめられたまま首を舐められている。強烈なメスのにおいと快感が俺を襲う。俺はどうしていいか分からずに、無意識にキョウコさんの背中を撫でまわす。ブラジャーの感覚はなく、やっぱりノーブラだった。その胸は今俺の胸に形が変わるほど押し当てられている。


 彼女の後頭部に手を回して撫でた時に「あっ」と声が漏れた。キョウコさんも感じている。大人の女性が感じている。高校生の俺が触っただけで感じている。そう思うと無性に喜びが沸き上がり、自分が肯定されたような気がした。


 その後は、驚くほど自然な流れで二人ベッドに移動して、お互いの服を脱がせ合った。身体の全てと思えるところにキスをされ、キョウコさんの身体の全ての場所にキスをした。彼女に手解きされながら、俺の初体験は終わった。


 俺は童貞を喪失した日、2度目、3度目と回数を重ね何度も何度も愛し合い、気付けば外の日差しは傾き、昼を過ぎて夕方に差し掛かっていた。




 ■■■加賀見恭子かがみきょうこサイド


 思えば、本当にバカなことをした。全然考えが回っていなかった。「ここで電車にはねられたら会社に行かなくても怒られないなぁ」とそれしかなかったのだ。完全なる思考停止。寝不足なども影響があったかもしれない。


 カツくんがいなかったら今頃私はこの世にいない。それどころか、電車事故は被害額が大きいというし、両親にすごく迷惑をかけてしまっていたに違いない。


 自己嫌悪と恥ずかしさと絶望感から駅では座り込んでしまった。それこそもうダメだと思っていた。再起不能だと。竜二(元カレの名前)にフラれてこの世の終わりのような気になっていた。


 元々モテる方じゃないので、やっとできたカレシだった。どう付き合っていいのかよく分からずに、悩むことが多かった。そのせいもあってか5股が分かったときはすごくショックだった。しかも振られて。私の方が浮気相手だったということだろうか。


 ただ、神はいた。私に天使を遣わせてくれた。

 私のズタズタになった心を優しく包む存在。カツくん。考えてみれば竜二はクズだった。デート費用は全て私が出していたし。


 過去に何度か殴られたことがあったので、怖くて逆らえなかったところもあった。私としてもモテないから初めてできたカレシに対する執着もあった。


 カツくんに会った瞬間、竜二のことを何故好きだったのか、なぜ付き合ったのか分からなくなった。竜二に好きと言われたからからだっただろうか。


 カツくんは違う。かっこいい。若い。ただ、そんな子はそこら辺にいくらでもいる。あの目。全てに絶望している目、誰も信じない目。



 なんとかしてあげたい。



 そんな母性が私の中からドバドバ溢れる。

 部屋を掃除して、着替えた後、まだカツくんがちゃんといるか心配だったから玄関ドアのスコープから外を見た。


カツくんは廊下から下を見ていた。きっとまたあの目だ。もしかしたら、自殺を考えているのかもしれない。私は救ってもらった。カツくんがいれば私は大丈夫。今度は、私が彼を救う!


 そして、カツくんは絶対に落とす!初めて絶対に付き合いたいと思った男の子。この溢れる母性は恋ではない。すでに愛。初恋ならぬ初愛はつあいだ。


 彼のあの目の理由を聞きだして、彼の抱えた問題を解決してあげたい。心から癒してあげたい。でも、束縛してはダメだ。彼から私の方を向いてもらえるようにしなければ。


「白馬に乗った王子様」はいつまで待っていても迎えになんて来ない。理想の推しがいないなら、自ら育てるのみ。育成ゲームで培った感覚と10年間の社畜生活の経験を活かして彼をドロドロに溶かして、私無しではいられない身体にしてしまえばいい。


 私は恥ずかしがり屋でここ一番行動がとれないところがある。色気も足りないかもしれない。


 ここは大人の裏ワザ「お酒の力を借りてグダグダに何とかする」を使うしかない!カツくんは高校生。所詮は高校生。大人のズルさとエロさを最大限に使いまくって、まずは私が落ちる!そしてカツくんを落とす!


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