04.少し強い思いをのせて

 【非能力者区画】


 さーて、色々考えたは良いけど、実現できるかどうかわからないんだよなー。

 実行しようとは思うけど、まずは相手の陣地(能力者区画)に乗り込まないと何も出来ない。

 別にここで色々デモ活動していても実行犯からしてみたら、虫が騒いでるみたいな感じなんだろうし……


 まあ、何もしないってわけじゃないんだけどね?


 ってことで行動してみますかね。


 


 

 そんなわけで、やってきました非能力者の国会。

 ここではこれからの方針などが考えられている。

 それが効果があるのかは置いといておこう。うん。  


 で、私が何しに来たのかというと、意見を提出しにきた。


 まあ、ね?

 私一人じゃ流石に何も出来ないって事はわかってるから作戦だけ考えて実際にはお偉い方々にやってもらおうっていうことですよ。


 うん。わかるよ。

 みんなの言いたいこともわかるよ?

 あんなに色々豪語してたんだから一人でやれって言いたいんでしょ?


 でもさ、考えてもみてよ。

 この魔境みたいなところで、一般人一人じゃなんにも効果ないって。

 だからこういう影響力の持ったところで大量の人数で一気にやってもらったほうが良いんだよ。


 で?来たは良いけど……何処に行けば良いんでしょうか?


 ……あっ、普通にそれっぽいところあったわ。


 そこには

 《非能力者相談所》 

 と書かれた看板が置いてあった。


 さて、行きますかね。


 


 「こんにちは。非能力者相談所です。今回はどのような要件でいらっしゃったのでしょうか?」


 なんか二十代前半みたいなお姉さんにそう言われた。


 「えーっと、実は……!」


 つい顔に出てしまった。 

 お姉さんの名札にご親切に『能力者』であることと能力効果とかも書いてあったんだもん。

 これはしょうがないと思う。きっと。



 え?なに?

 もしかして、ここって能力者が非能力者に向けて相談所を開設してんの?

 ……意味わからん。 


 ワンチャン、スパイの可能性も普通にあるからここは一旦帰ったほうがいいな。


 「あ、やっぱなんでもないです。すいません」

 「え?あ、あぁ、そうですか。また、何か気になることがあればご相談下さい。」


 そう言うとお姉さんは訝しげな目で私を見てきた。


 そんな社交辞令みたいなこと言わなくても……

 それにやめてっ、そんな可哀想な人を見るみたいな目線で見ないでっ!

 心に来るから!


 悲しい気持ちになりながら私は家に帰った。





 んーーんーーんーー。

 まさかあんな近くにスパイらしき人がいるとは……


 これじゃ国家に助けを求めることも出来ない。


 これは……一人でやるしかないのか?

 うん。そうなるだろうな。


 ってことは細かい予定とか物資とかも自分でやらなきゃいけないんでしょ? 

 ……やるとは言ったよ?

 言ったけどさ? 

 いくらなんでも難易度鬼畜すぎやしないですかね?


 まあ、それでもやるんだけどさ。


 少し強い思いを乗せてそう言った。



 【能力者区画】


 兵に志願した俺だったけど、まあもちろん合格だった。

 一応、試験とかもあったんだけど、もともと運動には自信があったし勉強もそこそこできたから余裕で合格できた。


 それで、俺が配属されたのはスパイ部隊みたいなところ。

 任務内容は、非能力者区画に行って現地の状況を報告したり抑制したりする感じ。


 まあ、新人の俺は実際に非能力者区画にはまだ行ったことなくて雑用みたいなことしかまだ出来てないんだけどね……


 あ、いちばん大事なこと忘れてた。 


 入隊した直後に先輩に

 「非能力者区画ってどんなふうになってるんですか?」

 って聞いた。


 そしたら、

 「俺から言えることはない。でも、非能力者区画に行くときは覚悟しておいたほうが良い。自分のやってることが……やっぱりいいか。とりあえず行った時に知れば良い。それまでは、雑用頑張ってくれよ!」

 と言われた。


 そのとき、(え?何?そんなにあっち側って大変なことなってるの?)って思った。


 で、その時に自分の行動で非能力者の36億人の情報が筒抜けになってしまうことになるってことに気づいた。

 これは、人の命を握っていると言っても過言ではないだろう。

 しかも何も悪くない人たちの命を。

 なんとなくの好奇心で入った兵だけどようやくことの重大さを感じた。


 その重大さを感じてでも、俺はこの世界の秘密を知る事は大事だと思う。

 それが非能力者のためにもなると信じて。


 


 


 それからしばらくして、仕事で非能力者区画に行くことになった。

 詳しい任務詳細は、反能力者の軍団が現れたのでそこの情報を掴めとのことだった。


 なんか、その軍団はあんまり戦いを好まないらしく、こちらが反撃される心配はほぼないそうだ。 

 多分最初の任務だから簡単なものになったんだろうな。 


 ラッキー。


 滞在期間は一週間だから、その間に色々とあっち側の区画について調べてみますかね。


 



 さーって、来たけど……

 何だここ?

 殆ど、スラム街じゃねーか!


 しかも電波も繋がってないし、家も粗末で密集している。


 これが、差別……

 能力者の俺が言うのも何だけどこれは流石にひどいと思う。


 これは……

 今のままの能力者側についていて良いんだろうか?

 こんなに非能力者がひどい仕打ちを受けていることを知った俺はそんなことを思った。


 んー、どっちにつくのが正解なんだろ。

 俺的には非能力者側につきたい。

 好奇心で兵になった俺が言うのもなんだけど、客観的に見たら非能力者に上から目線で「可哀想だから」みたいな感じになってるけど少し俺の家庭とも重なるところがあって放って置いたら一生後悔すると思った。


 でも今、俺は、能力者側の兵に在籍している。


 もし俺が非能力者側についたら能力者側との板挟みにあってしまう。 


 その時、どこからか女の子が泣いている声や、怒声が聞こえた。

 ふとその方を見るとどうやら配給されるご飯が量が少なく、ご飯が奪われそうになっている。

 結果的に男が小さな女の子の分のご飯を取ってしまった。


 つい、男に声をかけると男からこんな声が帰ってきた。

 「能力者がこんなことしやがったせいで、今までの努力も地位も何もかもおしまいだ。別に能力者が弱肉強食の世界を作ってるんだったら俺はそれを推進してるんだから良いことじゃねーか。何が悪いんだよ。」

 その男は俺が能力者だと知ってか知らずかそんな事を言った。

 男の顔はどこか泣きそうに見えた。

 俺は返す言葉が見当たらず黙り込んで逃げるように走り去ってしまった。


 何も知らなかった。 

 そのくせに、自分と重なるからっていう理由で勝手に哀れんで助けてあげようとしていた。


 何ていう身勝手さなんだろう。

 考えただけで恥ずかしい。 


 いつの間にか俺は優越感に浸っていたんだろう。

 世界の半数にはない特別な力を手に入れたことで。

 それも偶然なのに。


 でも、それでも俺は非能力者を助けたい。と思った。

 自分勝手だってわかっていても、それでも俺は非能力者を助けたい。

 だから俺は非能力者側につく。

 それが、俺の非能力者への誠意だ。


 ……これからどうするか。


 ほんとにどうする?

 このままじゃ、ほんとに板挟みにあってしまう。


 うーーん、もう能力者側のことは忘れることにするか。


 そのためにも先輩に連絡しよう。

 別に先輩に何を言われたって兵はやめるけど、一応言っておかなきゃだからね。

 少しの間しか関われなかったけど先輩いい人だったなー。

 パワハラとかもなく真摯に俺みたいな新人にも向き合ってくれるような人だった。


 まあ、それでも非能力者側につくんだけどね。


 少し強い思いを乗せてそう思った。

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