第46話 小さな幸せの時間(ニルス)

すんでのところで追っ手達から逃げおおせてこの集落へとやってきた。爺さん婆さんや中年が中心で若者はほとんどいないようだった。


村長に事情を説明すると快く匿ってくれるようだ。村で普段は使ってない家を貸してくれたのでそこへ暫く身を隠すことになった。


最初は汚くて掃除を二人でした。こんな事使用人達がするべき事だけど今はいない。イサベルは積極的に動いたので俺も頑張って綺麗にした。

部屋が綺麗になると落ち着く。元々俺は綺麗好きなのだ。


昼間俺は村の畑仕事を手伝い、イサベルは体の悪い老人達の世話をした。畑でクワとかあまり持ったことのない俺は汗だくで頑張った。最初の頃はそれこそ手に豆ができて…農民達はこんな苦労をして野菜などを作っているのだと当たり前だが今まで食べてきたモノ達に感謝する。


イサベルは村に生えている薬草で空いた時間に傷薬などを作っていた。俺が怪我すると回復魔法と薬草と両方使い治療する。

大袈裟だが回復魔法が使えるとはいえ、まだ自信のないイサベルは念のためと言い聞かないのだ。


朝と夜におはようとおやすみのキスを頰や額にするようになった。…なんだかまるで夫婦みたいだ。心が暖かくなるし畑仕事から戻るとイサベルはエプロンをつけ普通の食事をつくり待っていて…なんかもう本当に結婚しているようだ。


結婚したら侍女や従者がいるだろうけどここには当然いなくて二人きりで部屋が別なのが助かる。

実はたまに唇にも軽く挨拶程度にする時もある。

あんまり長いことキスをすると俺はもう理性が切れてイサベルを襲ってしまうかもと思い、頑張って耐えている。

嫌われたくないしな。


しかし村の老人達は結構茶化して来る。この村で子供を作ってしまえばレオポルト様も許してくれるかもとか…。まぁ、ひ孫が嫌いな祖父は早々いないだろうが、結婚前に手を出したと知られたら俺は間違いなく殺されるだろう。


だが、イサベルはサラがいないから時折髪を下ろしており大変可愛い。この村に若者が居なくて良かったと心底俺が思ったか。

イサベルは容姿に優れているし頭もいいから吸収が早い。流石薬師を目指しているだけあり聡明だ。


後、胸も普通よりあって…てダメだ!不埒な目で見ては!しかしながらおやすみとおはようの軽いキスをする時に自然と身体が近づくからたまに何というか当たる!やわらかな胸が!

大変幸せで貴重な瞬間だ!


はっ!また邪心が!


ある日村の中年のおっさんが俺が休憩してると小瓶を手渡してきた。


「何ですかこれは?」


「おお、若いから知らんのだね!!ふふへ!そりゃ夜に元気になれる薬さ!しっかり励んでくれ!あんたさんみたいな若い美丈夫ならあの綺麗な婚約者さんも直ぐに夢中になるよ!」

と言われて小瓶の正体に気付いて真っ赤になり最初突き返したがいつの間にかポケットに入れられていて仕方なく俺は自分の部屋に隠すしかなかった。


もしお祖父様の説得とかが上手くいかなかったら…このままここで隠れ住みいずれ本当にイサベルとずっと一緒に暮らし子供とかできたら……それもまたいいなとかつい考えてしまった。

俺には公爵家を継ぐ事が決まっているのに…。


ハンからの手紙でもなんか後押しするように


「さっさと子供でもこさえた方がいいのかもしれません。レオポルト様もひ孫には優しくするのかも!?」

と書かれていた。


だからひ孫には優しくなると思うが俺はたぶん殺される。それもこれも若い頃のアルトゥールお祖父様に俺がそっくりでなければ半殺しくらいで済んだかもしれないが…。

やはりイサベルには手を出してはいけない!

でもなんか奥さんみたいにしていると本当に新婚みたいで顔が緩みそうになるからしっかりしなければ!


そんな時に街へ行商に出ていたおばさんが村に慌てて戻り魔物に襲われたと報告があった。

娘さんのお土産を置いて逃げたらしい。この近くに魔物が出たとなれば…普通ならギルドの冒険者が派遣されるだろう。


この村の財政から言ってそんなに多く報酬は出せないだろうからせいぜいDランク冒険者だろうなと思ったら頼りなさそうな奴等がやってきた。

アレスという奴はやたらとイサベルを見てニヤけた。

まぁ、こんな田舎の集落にとんでもない美女がいたらそうなる。エイビンとかいう根暗そうな魔法使いはそれほど興味はないらしい。

白髪三つ編み女の方は俺を見て気に入ったのかやたらベタベタ触って来るから鬱陶しい。


イサベルが少し妬いてくれたのか機嫌が少し悪くなったのがわかった。くそ、可愛いな俺の婚約者。


しかしDランク冒険者はのこのこと戻ってきて泣きながら討伐失敗したと言った。魔物が2匹いたとか言い訳していたがそれくらい冒険者なら倒せよ!と思った。


「もういい!俺が行く!」

と言うとイサベルが心配して


「えっ!?ニルス様大丈夫ですか!?ハンさんもいないのに!」


「…お前また…俺だって少しはやると言うかそこのアレスよりはできる」

と言う。こうなったら絶対倒してやる!!お祖父様みたいな筋肉ではないが最近畑仕事で少し力がついてきた。あんなムキムキにはなりたくないが魔物は倒さないとな。

女が飛びついてきたのを引き剥がすと

アレスは村に残りイサベルを俺が守ると言っていた。

冗談じゃない。俺が居ない間このスケベ顔の野郎にイサベルが襲われたらと思うと…。


しかしイサベルは自分もついて行くと言いだした。

最初は反対したがイサベルを村に残すのも心配だったので仕方なく連れて行くことにした。


「俺から離れるなよ」

とか言うくさい台詞が出てきて俺も昔と変わったなと思う。ともあれ討伐に向かう為準備を始めた。

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