第45話 小さな幸せの時間

私達はあの後結局逃げて逃げて馬が朝疲れた頃に小さな集落の村に辿り着いた。

若者はほとんどおらず、村長に話をしてしばらく匿ってもらうことができた。


ニルス様は礼を言い、村の畑仕事を手伝い、私も村のお婆さん達の世話をして過ごすことになった。村長に空いてる家を当てがわられ掃除をして使わせてもらうことにした。

ニルス様と夜は別々に眠ることにした。それでも頰や額におはようとおやすみの軽いキスをし、まるでもう夫婦かのように思えた。


ニルス様は


「ちゃんとお祖父様達の決着が着いたら戻ろう。そ、それまでは君に手は出さないと誓おう!」

と真面目な彼は宣言した。


「は、はい…」

と少し残念な自分がいたがそれでも幸せに時間だけは過ぎて行く。昼間はお互い自分の持ち場で仕事をして夜は別々な部屋で眠りに着いたけど村ではおじいさん達にもはや仲のいい二人と噂になり


「別にこの村で子供を産んじまった方がいいんじゃないかね?その方が早いよあんた達?ほら、これをあの人に飲ませてやればもう下は元気になるよ」

とそっちのお薬を無理矢理貰い私は困り結局戸棚の奥にしまう事となる。

それはニルス様も同じのようで何故か何か貰ってきたようだが、コソコソと私に隠れて隠したりしていたから同じようなものだろう。


落ち着くとニルス様は従者に向け手紙を書いて送ってもらう。従者からも報告の手紙が来た。未だ話は平行線を辿り、頑固なバルバラお祖母様にレオポルトお祖父様はまだ騙されていると言い聞かないらしい。


「全く…困ったものだ…。これでは当分戻れない…。すまないイサベル。不便だろう、この村には何も無いし」


「いえ、ありますよ。ニルス様との幸せな時間です!」

と言うとニルス様は真っ赤になり


「なっ、なっ!そ、そんなことは言うな!」


「えっ!?何故ですか?」


「君は…ほら、一番は研究だろ?薬師になりたいんだろ?ちゃんと復学して資格をだな…」

と言うが照れて語尾はモゾモゾと聞こえない。


「とにかく私は幸せです。早くお祖父様達が納得してくださればいいのに…」

と私はニルス様の座る椅子の横に腰掛け少し近寄ってみた。


ニルス様は照れておりやはり幸せな時間だと思う。


そんな中、どうやら村の近くで魔物が出たと街へ行商に出ていたお婆さんが慌てて帰ってきた。


「ひぃひぃ!この先の橋の向こうじゃ!娘に送る土産を落としてもうたよ!!変な一つ目ギョロ目の魔物じゃ!怖い怖い!街からギルドに派遣してもらうか?」

と村長達と話し合いが行われた。


ここから近い街のギルドから2~3人の安いDランクパーティーを派遣してもらうことになった。


「彼らがこちらに滞在中、俺達のことは村長の孫と婚約者と言うことになった。イサベルすまんな」


「いえ、正体がバレないよう気を付けましょう」

と私達は警戒して冒険者達を迎え入れる準備を整えた。普段私達が使っている家が冒険者用の宿泊所だったらしいので急いで村長の家に荷物を運び移した。


村長の家は部屋が息子のものしかなく二人で使うことになり距離が近くなった。


「す、済まない、俺はソファーで寝るから」

とニルス様が言うので


「いえ、そんな!私の方がそうしますわ!」

とベッドの譲り合いが続くが結局はニルス様がソファーを使うことになった。


数日後に何とも弱そうな冒険者パーティーが現れた!!流石Dランク!!ニルス様も少し大丈夫かとぼやいていた。


「どうもー!剣士のアレスです!」

と弱そうな茶髪でだらしない顔の剣士さんと


「魔法使いのエイビンだ…よろよろしく…」

とボソボソと黒いフードを被った気弱そうな男の魔法使いさんに


「シャクナです!よろしくぅ!あたしは感知魔法が使えるの!よろしくぅ!あ!いい男がいる!!結婚して!!」

とニルス様に握手しに来たが


「済まないが先約がある」

と私の手を握った。


「あらーー!こんな田舎に美男美女!!」


「ほんとだ!すっげえ美女!めっさ綺麗だなぁ!お茶したいなぁ!」

と剣士は軽い。ニルス様は呆れ果て


「おい、冒険者!金で雇われたんだからさっさと魔物を退治しに行けよ!俺の婚約者を見るな!」

と釘を刺していた。


「……はーい!さっさと片付けてきちゃおー!」

と元気な女の子が言い、だらしない男達は付いて行く。


「大丈夫かあれは?」

とニルス様が言う。


「とりあえず夕食を作り待っていましょう」


「…俺は肉を捌こう」

この数日程でニルス様は獣を捕まえて捌けるほどには逞しくなったと思う。絶対学園にいた頃は無理だったと思う。

でもたまに


「なぁ…イサベル…俺筋肉ついてないよな!?」

と青ざめて確認に来る。余程アルトゥール様みたいになるのが嫌なんだろう。


「大丈夫ですよ、うふふ…」

と笑ってしまう。


それから…一日経ち、あれおかしいな?と村の人達がざわついた頃Dランク冒険者の皆さんが帰ってきた。ボロボロだ。あちこち魔物に噛みつかれたらしい。歯形がつき泣いていた。


「お前ら…」

ニルス様が呆れ、


「だって簡単な仕事だと思ったんだよ!!案外すばしっこくて捕まんなくて!!捕獲網も破けちゃってー!」

と剣士は泣きながらボロ網を見せた。


「しかも二匹いた!!一匹だと思って油断したんだもんー!」


「連携が取れなかった。真っ先にアレスが俺たちを置いて逃げて隠れたからアレスを探してた」

と言う魔法使い。

何でこの人達冒険者してるんだろ?


「もういい!俺が行く!」

とニルス様が言う。


「えっ!?ニルス様大丈夫ですか!?ハンさんもいないのに!」


「…お前また…俺だって少しはやると言うかそこのアレスよりはできる」

と言うと感知の女の子の目がハートになりニルス様に飛びつく。


「んじゃ!あたしも行くう!ねっ!!ニルス様あん!!」

と猫撫で声を出したのでニルス様が嫌がり


「やめろ!!」

と引き剥がした。


「わ、私も行きます!回復魔法少しなら…後、薬草も作って持っていきましょう!」

と言うとニルス様は


「イサベル危険だろ?お前はここで待って…」

と言うとアレスさんが


「そうだよ!イサベルさん!俺とここで待ってよう!仲間達よ!後はよろしくぴ!」

とアレスさんが元気よく返事をしたのでニルス様は


「やはり心配だからイサベルは俺から離れるなよ?」

と同行を許された。白髪の二つ編みのシャクナさんは


「うわっ!言われたい!あたしもいい男にそんなこと言われたい!いーなー!イサベルちゃん!!」

と羨ましがられなんか騒々しく再び村の外へと向かった。

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