第44話 懺悔は遅かった

急いで雪を山小屋にあった鍋に入れて湯を沸かした。暖炉の前にアンナ先輩を寝かせた。


「……まさか助けるのか?」

とニルス様が言う。


「……だって…死にそうですよ?何があってこんな所まで?」

アンナ先輩の腕をめくると明らかに暴行の痣がたくさんついていた。


「酷い…回復されてない…」


「…アンナは君を殺そうとした女だぞ?」

とニルス様は言う。

冷えた足にお湯に潜らせた布を当てる。

毛布をかけて私はアンナ先輩を抱きしめてやった。


「…起きたらまた殺そうとしてくるかもしれないぞ!?」

とニルス様が言う。


「…そうしたらニルス様が守ってください!今は助けましょう!」

と私は頑張ってアンナ先輩の体温をあげようと背中をさする。

そうして午前中が過ぎようとしていた。

ようやくアンナ先輩は眠り、私は起き上がるとニルス様がなんとスープを作っていた。


「ニルス様!?スープなんて…材料は?」

すると舌打ちし


「アンナの荷物から出てきたよ…」

といくつかの野菜が入っていた布袋を見せた。


「まぁ…それで…」


「たぶんこいつラグナ修道院から逃げ出して来たんだろう…」


「ラグナ修道院」

戒律が厳しいとは聞いていたけど。


「身体の痣からしてあまりまともな修道院ではないのはわかる。だが…こいつは罪を犯した。野放しにできない。気が付いたら拘束する」

とニルス様は言うと私にスープを勧める。

一口飲むと


「あ、美味しいですね!」

と言うとニルス様は


「…そうか…良かった」

と言うとアンナ先輩が匂いに釣られたのか


「うっ…」

と覚醒した。


「アンナ先輩!!」

と駆け寄るとアンナ先輩は私を見て


「ぎゃあ!!お前っ!悪役令嬢!!」

と言い突き飛ばされた。ニルス様は私を受け止めて剣を抜きアンナ先輩の方に突き出した!


「貴様!助けてやったのによくもイサベルを!!」

と言うとアンナ先輩は初めて小屋を見回した。


「私は…助かった?」

と言い茫然としている。


「今更懺悔しても遅いぞ!アンナ!イサベルがお前を助けたんだ!!お前なんかをな!!」

と言うとアンナ先輩は私を見る。


「…何故?助けたの?」


「ええ?だって死にかけていたから…」


「……私あんたを殺そうとしたのよ?」

もっともである。


「……はい。それでも…目の前に死にかけている人がいたら助けるでしょう?」


「私なら助けないわよ!馬鹿じゃないの?自分を殺そうとした人間を助けようとするなんて…悪役令嬢として失格だわ!」

となんか失格にされた。


「おい!助けてもらっといて人の婚約者をよくも悪役令嬢などと!!許せん!こいつ雪に埋めてやろうか!」

と怒るのを何とか諫める。

するとそこへグウウとお腹の音が鳴る。

私はスープをわけてあげると


「何で……」


「イサベル…優しすぎるだろ」


「元気になって頑張ってくださいね」

と言うとアンナ先輩は涙を流してバクバクとスープを食べた。


食べ終わると私達に向け頭を下げた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…私…私は…間違っていたわ…。貴方は悪役令嬢なんかじゃないわ…私の方が余程悪い女だわ…。人を騙したり男を操ったり邪魔者を排除しようとしたり…人を笑ったり蔑んだり…だから罰が当たった…。


ラグナ修道院は実際に酷い所だった。掃除は同じ所を何時間もさせて少しでもサボると鞭が飛んで…特に新人が入るといじめはキツくなる。精神も身体もボロボロで何度死のうとしても神の誓いで自ら死ぬことは許されない力が働いている…


逃げ出すしかなかった。ごめんなさい。ごめんなさい」

とアンナ先輩は泣き続けた。

私は


「もういいのです。謝ってくれた。きっと神様も許してくれるはず。ニルス様…彼女をまともな修道院へ送ってあげられないのですか?」


「イサベル……それは…俺たちだって今は逃亡の身だぞ…他人の心配をしている場合じゃない」


「でも…」

と言うとニルス様は


「ちっ…婚約の件が片付いたら何とかしてみるが…」

と言うので嬉しくなる。

アンナ先輩はそれを聞き


「逃亡中?結婚を反対されたの?」

と言うとニルス様は苦い顔をした。


「お前には関係ない!」


「待って!誰か来るわ!!」

とアンナ先輩が言い、そっと窓から覗く。


「チッ不味い!追っ手だ。見つかると終わりだ」

するとアンナ先輩はゴソゴソとポケットを探り小瓶を出した。


「万一の時にひっそり持っていたのよ。元々私の鑑定魔法で作ったモノだけど…これを飲み裏から出て逃げなさい。私の分はないから…いいわ。私は…貴方達が逃げて幸せになる事、上手くいくよう祈っているわ」


「アンナ先輩!」


「早く行きなさいよ」

と言うとアンナ先輩は小瓶を押し付けた。


「ちっ!仕方ない!イサベル…これを飲んで行こう」

と薬を飲み干すと身体が消える。


「アンナ先輩!ありがとうございます!必ずいつか!」

と言い私達は裏口から外へ出て馬小屋に向かい馬に跨って森の奥へと逃げたのだった。

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