第42話 お祖母様達の説得
「まさか…こんなに早く持ってくるなんてね…どうやら頭はいいみたいね…はぁぁ…」
とあれから治療を終えて帰宅した私達はお姉様の元に指輪を持って行った。
「約束です…カミラ様!これで俺とイサベルさんの婚約は続行という事で協力してもらえるんですよね?」
「そんな事言ったかしら?」
と言うお姉様にキースさんが
「嘘はダメですよ!カミラ様!」
とちょっと怒りカミラお姉様は折れた。
「わかったわよう…」
「やった!!これで婚約破棄しなくても済む!」
とニルス様が喜んだが、お姉様は
「あら?それはどうかしら?私が良くてもお祖母様とお祖父様が承知しないと思うわよ?何せニルス様?貴方…アルトゥール様の孫だしそれにアルトゥール様の若い頃にそっくりだからね?お祖母様達にとって天敵なのよ貴方」
と言う。
「そ、そんな!見た目で判断しないで頂きたい!」
「そうですわ。お姉様!ニルス様はニルス様です!」
するとお姉様は手を組み
「まぁイサベルも若い頃のお祖母様にそっくりだしね…。一応約束だから協力はしてあげるけど無理なら諦めてね」
と言う。
「そんな……」
とガクリとする私にニルス様が
「弱気になるな!説得するんだ!絶対に俺はイサベルと結婚する!」
と言う。
カミラ姉様は
「うるさいわね…。とにかく次のお休みにお祖母様の元へ行くわよ?ニルス様…覚悟なさった方がよろしいわ。どんな事があるかからないから」
と言うとニルス様は
「どんな試練だって乗り越えて見せます!!」
と言った。お姉様はため息をつき
「はぁ…全く…しつこい。仕方ないわ。私もキースと結婚報告に行くしあまり修羅場になって欲しくないけど…レオポルトお祖父様に首を絞められないよう気を付けておきなさいね?」
と言われたニルス様は青ざめた。温和なレオポルトお祖父様がまさかそんな事をするわけないわよね?
とこの時の私は冗談だろうと思っていたのだった。
*
次の休み…ニルス様はアルトゥール様ときっちりしてやってきた。何故アルトゥール様も?と思ったが婚約に関してだから仕方ない。
「わしがついとるから平気じゃよ?イサベルちゃん!」
と手を握ろうとしてニルス様が止めた。
「お祖父様…」
と睨みアルトゥール様は
「おお怖い。手ぐらい良いではないか?全く嫉妬深い孫じゃ!」
と言う。お姉様は
「やはり爺さんになってもいやらしいわね…」
と眉を潜めていた。
私達はとりあえず馬車に乗りゾロゾロとお祖母様達に会いに行くことにした。アルトゥール様は
「久しぶりにバルバラに会えるが、レオポルトにも会わないといかんのか…。あいつさっさと死んで地獄に落ちとけばいいのに…」
と物騒な事を言っていた。
ニルス様はもはや無言で目を瞑る。片手は私と繋いでいた。
馬車が峠の方に差し掛かると何やら騒ぎが起きて人だかりができていた。
「何かしら?」
カミラ姉様が馬車を止めて従者達が聞きに行き、報告をされた。
「この先の崖で馬車が転落したとの事です。……落ちたのはラグナ修道院からの遣いのサージャとか言う若い娘らしいのですが、手酷い怪我で間もなく息を引き取ったと…」
と言う。
「まぁ!神よ!!」
とお姉様が手を組む。ニルス様が…
「ラグナ修道院…そんな遠くから…と言うか……」
と考えるニルス様だが私も同じ事を思った。アンナ先輩の入れられた戒律の厳しい北の地にある修道院の名である。
「まさかな……」
とニルス様は考えていたがとりあえず私達はそのままお祖母様の所へ向かった。
*
そうしてひっそりとした地に侯爵を引退したお祖父様とお祖母様のいる邸に辿り着いた。少し寒いこの地は雪が少しだけチラついていた。
カミラお姉様は迎えてくれた従者達に笑顔で挨拶をする。すると奥からバルバラお祖母様とレオポルトお祖父様が見えた。
「おお!!カミラ!イサベル?イサベルとは久しぶりに会ったが大きくなったの!学園は楽しいかな?」
とレオポルトお祖父様が私を抱きしめた。
そして奥にニルス様とアルトゥール様を見ると温和な顔が厳しくなったのを見てギョッとした!こんなお祖父様初めて見た!!
「ん?君はもしやカミラの婚約者の青年かな?」
とキースさんに話しかけて握手した。
キースさんは
「は、初めまして!キース・ガーランドです!しがない庶民出身なのですが…こないだあの爵位を買いまして…その節はその…」
と挨拶するがレオポルトお祖父様はにこにこして
「まぁ、カミラと結婚するから一応貴族の称号はいるじゃろと手配さしてもろうた。その為のカミラの借金じゃからの?それに次期女侯爵の婿殿になるのじゃから遠慮せずとも良いよ」
とニコニコとレオポルトお祖父様は挨拶した。
ほっとしたキース様とは正反対にイライラしながらアルトゥール様は叫ぶ。
「おいおい!ジジイ!わし達を無視しおって!!」
と怒るとレオポルトお祖父様はまたキッとして
「どちらでしたかな?歳をとると物忘れが酷くて…」
「ギィー!アルトゥール・パブロ・シャーヴァンじゃ!こっちは孫のニルスじゃ!」
と筋肉を揺らして怒るとレオポルトお祖父様が
「……まぁ呼んでおらんので帰ってくれませんかの?」
と言う。お祖父様達は火花を散らしていた。バルバラお祖母様はニルス様に
「貴方…アルトゥールの孫なの?本当に若い頃にそっくりね。嫌だわ…。孫に変な事してないでしょうね?アルトゥールは若い時何度も私を襲おうとして、その度にレオポルトが守ってくれたのよね。アルトゥールは強引過ぎて引くレベルでね…。一時期彼に監禁されたことも…」
と言うとニルス様が頭を抱え謝罪した。
「あの、祖父が大変な事を!本当に申し訳ありません!!俺は祖父とは違いますから!!」
と言う。バルバラお祖母様はおやという顔をして
「まぁ…性格はどうやらまともみたいね。あれの孫にしては」
と言うから
「失礼ですわよ?お祖母様!!」
と私はニルス様を庇う。レオポルトお祖父様は怖い顔をして…
「とにかく…孫との婚約を解消してほしい!もう孫には最高の相手を紹介しようと思っておったのじゃ!!隣国のクリストフ王子様じゃ!!」
とそこへ階段の上からなんとクリストフ王子が歩いてきたではないか!!
「き、貴様!!」
とニルス様が警戒する。しかしクリストフ王子は
「どうも…お久しぶりでございます…イサベル様…」
と礼儀正しく挨拶した!!絶対演技!!
引くほどだ!!
「此度の事、クリストフ王子から聞き及んでおる!そのアルトゥールの孫のニルスに一杯食わされまんまと国に強制送還されたと」
それにニルス様は
「は!?よく調べたのですか?この方が起こした事を!イサベルさんを襲ったのはこいつですよ!!」
と言うとレオポルトお祖父様が
「いや、嵌められたとクリストフ様は申しておる。わしもそう思う。アルトゥールの孫を信用などできんよ!!イサベルを無理矢理に犯そうとしたのは貴様だと聞いておる!君は洗脳魔法が使えるのじゃろう?」
と睨む。
「使えません!出たら目だ!!」
するとクリストフ王子は
「往生際が悪い。俺の運命の人にあんな酷いことをしておいて!しかもイサベル様を洗脳までして何が楽しいんだ?このクソ野郎!」
と言う。それはそっちである。
「お祖父様!信じて!私はクリストフ王子に襲われたんです!!私はニルス様に助けていただいたのです!!」
するとレオポルトお祖父様は
「なんという事か。まだ洗脳が解けておらんのじゃな!?」
「とにかく貴方達の婚約はもう時効よ!!イサベルを返してもらうわ!」
とバルバラお祖母様も言ったのだった。
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