第24話 床下に落ちた指輪

ニルス様は少し赤くなり


「遅くなった…これは公爵家の嫡男に受け継がれるべき、代々公爵家の妻となる者に渡す由緒正しき指輪だ!」

と箱を開けるとキラキラした緑の石とその底に家紋が浮かび上がる不思議な指輪だった。


「これは魔法防御の効果も伴っている。多少は危険な目から守ってくれるんだ」


「まあ…凄い!」

と驚いて指輪を見るとニルス様が私の手を取り


「イサベル…俺はお前のことが好きだ。愛してる。卒業したら結婚してずっと側にいて欲しい」

といい顔で言うからとてもドキドキしてまともに顔が見れない!ニルス様ってこんなにカッコ良かったかな?いやカッコいい!!


これはもう間違いなくプロポーズであった!

どうしよう?ニルス様が卒業すると同時に私も退学して結婚して公爵夫人となる!?

透明薬も許可があれば作っていいと言う。


でも…でも…

あれ?それって結局結構私自由になれてない…。


結婚とは退屈で…妻の役割は子供を産むこと…男児であれば後継ぎを残すことである。

ニルス様の事はたぶん好きだし指輪も嬉しい。凄く。


でも…なんだろうか?この…自由の無さ。いや、言えば研究も好きな事もしていいとニルス様なら言うだろう。


……。

今だってとてもドキドキしているのになんだろうか?


私は…学園を退学するのか。結婚の為に。


……。


「?イサベル…その…返事は?」

と聞かれる。もう指輪を箱から出し私の指にはめかけている!!私は驚き手を引いた!!


「は!?」

驚くニルス様。


「…あ…ち、ちが…」


「はああああああ!?」

と青ざめるニルス様。ヤバい。


「ちが!違うんです!こ、これを嵌めてしまったら!!わ、私の何もかもが奪われる気がして怖いんです!!」

と言うとニルス様は


「何もかもって…そんな…そんなに俺が嫌いか?」


「嫌いではないんですが!!卒業したら私も退学して直ぐに結婚とか!!なんか違うと思って!!」


「……な、何かやりたいことなら結婚しても出来るだろ?」

とニルス様が言うと


「……それはそうですが!!」


「なら観念して指輪を嵌めろおおおお!!」

と手を持ち、指輪を嵌めようとするから私はそれを頑張って静止しようとする!


「くおおおおお!!」

「ふぬうううう!!」

と指輪を押したり引いたりしている。


「俺のことが嫌いじゃないんだろ!!?」


「はい!嫌いではないです!!でも!」


「まさか!他に好きな男がいるのか!?」


「いませんんん!ニルス様以上にカッコいい人はいないと思います!!」


「ならいいだろうが!!!」

とググッと指輪を嵌めようと再び指を押し痛みが走る。


「痛っ!!」


「!!」

ニルス様は指を緩めてしまい指輪がはずみでピンと上に跳ねた。


空中でクルクル回りニルス様がキャッチしようとしたが取りきれず床に落ちてごろごろと指輪が転がり……コトリと床に空いた小さな穴に落ちた!!


「……………」

「……………」

しばらく二人とも固まった。


「は?え?なんか隙間に落ちた…」


「あ…ええ?あんな所に丁度穴が空いていたかしら?」

ニルス様は穴を除いたが見えず、ランプを照らしたら少しだけ見えた。


「なんか…棒みたいなのないか?」


「ええと…」

と探してまち針を渡してみた。

ニルス様はガリガリやっていたが奥に引っ込み中々取れなくなった!!


「……取れない。業者を呼ぶしかない。床を切って取るしかない」

と言う。


「あ…は、はい…ご、ごめんなさい…」


「お前…何が不満なんだよ?」

と怒るニルス様。そりゃ怒るよね。


「……だって…結婚したら自由がない…私まだ退学したくないです!私…薬師になりたいのです!!退学はしたくない!!」

と涙がポロンと出る。


「……薬師…」

ニルス様がポカンとする。

ボリボリと罰の悪い顔をしてため息を吐いた。


「わかったよ。もう泣くな。退学はしなくていい」


「本当ですか?」


「ああ…。なりたいものになればいい」


「で、でも…怒らないんですか?」


「俺がお前と結婚できるのは一体いつかはわからないがお前のタイミングが合う時でいいよ。それまで待つ!」

とニルス様は言う。


「……そんな!ニルス様程の人が独り身でいると女の人が寄って来られて私の事は直ぐ忘れてしまうじゃないですか!?」

と言うと


「ああ!!!?…どっちなんだ!お前は!!それに俺はそんな軽率な男じゃない!!


全く!俺は何度お前が好きだと言えばいいんだ!!お前は全く言ってくれないのに!!


俺は待つと言ってるだろうが!お前意外と結婚するか!」


「ひ、人の心は変わると言いますか……」

と言うとニルス様は怒り出した。


「…変わると思っているのか?」

なんかもう血管が浮いてきて怖い。

指輪も床下だし。


「そう言えばデートってヤツをしてなかったな。…でもお前は人混みが嫌いだから街へ行けないから森で馬に乗り兎か狐でも狩…」


「兎ちゃんと狐さんが可哀想です…」


「ゴホン…森にピクニックだな…」

と言い直した。


「二人で一緒にいてお前が俺を好きと言わないで心変わりしたならもう諦める!」

と言われた。ええ!?


「それならいいか?」


「う…はい」

と返事をした。


「指輪は業者をよこして取らせるからな」

と言い、ニルス様はその日は帰っていく。

うーん私ってもしかしたら面倒くさい女なのかも。でも自分の気持ちをはっきりさせないうちから結婚なんて…今は考えられなくて。


ちゃんと考えなきゃ!

と私は思った。

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