第19話 決闘の応援

見学席には既に人が埋まり野次を飛ばしたり賭けをする者もいて騒がしかった。人の多さに震えてくるがニルス様がくれた薬を飲んでだいぶ楽だし隣にマリーもいてあまり人が見えないよう日傘を貸してくれた。


天候は悪く雨が降り出しそうで黒雲が集まっている。


「では!2人とも準備はいいな?ルールは相手が降参と言うまでと気絶させた方が勝ちとする。また、絶対に相手の命だけは奪ってはいけない!大怪我をして戦えなくなっても負け。剣が折れたり遠くに吹っ飛ばされても負けとする。


双方いいかな?」


「了解した」

「おっけー!」

と言う2人は改めて少し離れて向き合う。


「では……決闘開始!!」

ヘルベルト王子は手を上げそれを振り下ろした。

2人は剣を構えて睨み合いクリストフ王子が先に走り剣をニルス様に振り下ろすが、ニルス様は数歩後ろへと飛びそれを避け剣は空を切る。


「ちっ!臆病者め!やはり俺に負けるのが怖くて避ける訓練でもしてきたか?はは!」


「……」

ニルス様は何も言わない。

再びクリストフ様が剣を向け素早く左右に避けて当たらないようにしていた。


「どうした!?おらおら!」

しかしそこでガキンと剣を交えた。少しだけ火花が散った。剣を押してニルス様が踏ん張った。


押し負けそう!


「このまま剣を折ってやる!!」

クリストフ様は力を込める。


「ぐ…」

と耐えるニルス様の包帯の手からは血が染みて垂れた。


私は席を立ちおろおろした。すると横にいたマリーが何か手渡した。小型の石みたいなもので


「イサベル…これに応援を言いなよ!あの近くにもう一つ石を置いたからそっちから声が伝わるよ。


新しい試作品の拡声魔道具なんだ!」

と言う。私の声はここからじゃ届かないからこれは丁度いいのかも!?


「…ニルス様!!頑張って!負けないで!!お願いします!!」

と言うと近くから反復する様に私の声は石に届き、ニルス様は何とか必死に押し返しガキンと火花が散った。

ニルス様ははあはあと息切れをしていた。

クリストフ様は


「ほらな!体力のないお前じゃ無理!降参しろ!」


「誰かするか!」

と剣を握る。血が剣に滴る。


「じゃあ!俺のとっておきを見せてやる!!炎よ!敵を焼く力を我に与えよ!」

そう言うとクリストフ王子の剣が赤く光り炎を纏う!!


「魔法剣か…」

とニルス様は怯む。


「イサベルちゃんの唇は俺のもんだ!」

と気持ち悪いことを言ったので背中がゾワッとした!!


「やだ!ニルス様負けないで!!どうせするならまだあなたの方がマシです!」

と言うとニルス様が赤くなり


「アホか!」

と言い剣を構えて向かってくるクリストフ様に備えた。


「これで終わりだああ!」

と炎の剣が襲うその瞬間に…ブツっとクリストフ様のベルトが切れバサリと下へ落ち足がもつれクリストフ様は転倒する!

皆は呆気に取られた。パンツが丸見えになって尻餅を着いたところをニルス様はチャンスとばかりに襲いかかりクリストフ王子の炎の剣を


「このクソ王子があああ!」

と真っ赤に染まった手で思い切り叩き込んだ!!

ガキンガキンと連続で体勢を崩したままの王子は防戦するがどうも力が入らないようだ。私のかけた防御力低下の効果も出てきたようだ!


「くっそ!何で力が入らない!?」

そこでニルス様が渾身の力で振り下ろしクリストフ王子の剣にヒビが入りついにボキンと折れた!!


「なっ!バカな!?王家の魔法剣が!!?」

信じられない顔で見る王子!

しかもパンツが見えて間抜けな姿を晒し皆が堪え切れず笑う者もでた。


「そこまで!!勝者!!ニルス・ダーヴィト・シャーヴァン!!」

とヘルベルト様が勝敗を告げ歓声が上がった!

ホッとしたと同時に大勢の声でクラクラしてきた。

でもなんだか感動した。

そしてハッとした。ニルス様の手が真っ赤だ。

はぁはぁと息を切らしニルス様はこちらを見た。

こっちに歩いてくる。私も見学席からそちらに向かう。なんだかわからないが涙が溢れて頰に落ちた。


「何を泣いてる!?あんな奴なんか楽勝で勝ったな!」


「苦戦されておりましたね」

と言うと苦い顔を浮かべる。


「勝ちは勝ちだ!!これでいい!」

といつもみたいに顔を背けたニルス様に私は飛びついた。一瞬ビクっとしたニルス様は


「な、なんだ!?」


「人の目がたくさんあり怖い…のです」

と言うとニルス様が


「し、仕方ないな…」

と言い…向き直り私の事をギュッと抱きしめた。すると周囲から凄い歓声がまたした!


「はいはい!決闘は終わったよ!散った散った!!」

とヘルベルト様とマリーが追い払い、


「くそー!俺のイサベルちゃんがーーー!」

とクリストフ王子はまだ負け惜しみを言うのでニルス様が


「やかましい!俺の勝ちだ!グダグダ言うな!もう金輪際俺の婚約者に話すことと触る事を禁じる!」


「おい、聞いてねえぞ!?」


「決闘に勝った俺には権利がある!」


「ちっ!卒業式で皆の前でイサベルちゃんと婚約破棄イベントする癖によ!」

と言うとニルス様は


「…そんなものするか!決闘までしたんだ!恥かしくて破棄なんかできるわけないだろ!」

と言う。え?しないの?


するとヘルベルト様がクリストフ様の首根っこを持ち


「ほら行くよ!君もしつこいね?」

と引きずられる。


「おい!そうだ!不正じゃないのか!?さっき力が出なくて!きっとあいつがズルしやがったんだ!」


「はいはい、言い訳はいいよ。それより早くズボン履きなよ」


「あ!ズボンは!?俺の!なんだってベルト切れたんだ!?誰かの陰謀だ!やり直したら勝てる!」

とぎゃあぎゃあ言いつつも連れられていき、やっと静かになった。

抱き合っていた私達はやっと照れ臭くて少し離れる。


「あ、手が!ニルス様直ぐに医務室へ!」

と怪我に気付く。うわあ!包帯真っ赤だ。


「………ふん、こんなもの痛くない」


「嘘です」


「痛くないって言ってるだろ」


「いや、凄く痛そうですけど!見てるこっちも痛くなりそう…」


「わかった!後で行く!!」

と言うとニルス様はふんと言う。全く素直ではない。いつも通りだけど。


「私の応援が効きましたか?」

と言うと


「なんかもじゃもじゃ聞こえたな…。別になくても勝てたかもな!」

と強がりを言う。結構負けそうだったくせに!


「これ、マリーの魔道具ですの。試作品です。小石に見えるけど、もう一つは決闘してた場所にマリーが置いていたみたいです」

と魔道具を見せると


「まぁお前の声だと魔道具がないと届かないよな小さ過ぎて…まぁどっち道勝ったな!」

となんかチラチラとこちらを見るニルス様。


「何か?」

と言うとニルス様は


「お…俺にもなんかくれ!勝ったんだし!」


「え?何をです?」


「その…あのクソ王子…の言った………くっ!何でもないやっぱりいい!俺は医務室に行く!」

とくるりと背を向けた。

私は呼び止めた。


「ニルス様…」


「なんだよ!?」

と振り向く彼に私は背伸びをしてちゅと頰にキスをしてやった。するとみるみる赤くなりニルス様が固まる。


「それでは…私はこれで失礼します。お疲れ様でございました!!」

と頭を下げ私は放置して帰ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る