第十話。もっと得る

録画の早送り、早戻し機能などから相手を止める動きを獲得することもできた。しかし現時点で幽体の俺はそれを相手に使うことはできない。自分自身に対してロケット能力などで移動することはできるのだが、そこら辺のところが今のところあいまいなのが不満点ではある。しかし泳ぐこともできるようになったり、空も飛べ土の中も潜れるようになった今ではそんな些細なことはどうでもよくなりつつあった。俺自身が誰も見たこともない世界の景色を生で実際にみられるのだから、どこか神視点にいるような感覚になった。しかしそれはある種の諸刃の剣であり、その感覚に浸りすぎると、現実味がなくなりゲーム感覚になってしまい、戦争を画面の中で操作するような危うい感覚になってしまうかもしれないし、そうなるのも絶対に嫌だったので、あまり調子に乗らないように気を付けるようにした。いよいよ今日がこの世界の最終日となった。天使と悪魔が再び俺の前に姿を現した。

「どうだ? 異世界へと行く準備は整ったか?」

「少し待ってくれ」

 俺はいうと、分身の能力を使った。切られても再生する生物の能力を使い、俺は自身の体をもう一つ作った。

「な、なんだこれは……」

 いや、悪魔が驚いているよ。

「えっと、この分身の俺はこの世界に残そうと思います。で、俺は異世界に行きます。んで、俺はこの分身の俺と通信の能力を使って常にやり取りをして、常にお互いに能力の受け渡しをしたいと思います」

「そんな無茶な」

 天使が言った。

 輪廻転生はこの世界の誰しもが持っている能力だったので、それを分身に与えることで、分身が今度は肉体をもって生まれるのだが、今度は今の分身したばかりの幽体の体とは違くなるのではあるが、存在自体は同じである。姿かたちは違えど、それに肉体の変化であれば、擬態や変態能力、物まね能力で限りなく近くになれるし、というかクローン能力で同じになれることを今思い出したのでそうすればよいだけなのである。だが、産んでくれた親の体を変えてしまうという疑念がわいたが、あくまでそれは能力で変身するので、戻ることも可能だからある種のスーパーマンのように一時的に死ぬ前の俺の姿になればいいだけだと思ったけど、そもそも俺は死んでいるのだから死ぬ前の姿に戻ったところで意味はないし、そもそも死ぬ前の体にそれほど未練もなかった。特別イケメンでもスポーツができたわけでもないし。というわけで、死ぬ前の元の体に戻る必要というのはなくて、幽体の今の俺の来世の異世界の俺と分身の俺が通信と能力の受け渡しができれば姿が違えど問題はないのであった。

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