第10話 夜会がはじまったようです。
そうやってドレスの手直しをしてもらったり、勉強を進めたりしてあっという間に2週間が過ぎた。
「明日は夜からのスタートですので、昼から準備をさせて頂きます。昼食を早めに用意致しますので、それ以降は食べることが出来ないので注意してくださいね」
「朝6時起きじゃないだけマシよね。頑張るわ」
そうして翌日の昼食後に、お風呂に入れられマッサージを施され、どんどん準備が進んでいく。私はもうローラン達に身を任せ、何も考えないで準備をしてもらう。今何時だろうとか夜会まであと何時間とか考えたら負けなのだ。
今回のドレスは前回と打って変わって清楚なイメージだ。薄いグリーンの色味のAラインドレスで胸元もしっかり覆われている。全体的に蔦の刺繍が施されており、その蔦に白い小花が沢山刺繍されている。それに合わせ、ハーフアップにされた私の髪にも白い小花が飾られている。首には小粒のパールが連なった2連ネックレスをつけており、これも国から支給されているそうだ。このドレスとアクセサリーの為に初めて依頼をこなした。
依頼は簡単なもので、今までの落界人の作った魔道具の再現だった。見本と材料を用意してくれているので、私でも簡単にイメージすることが出来て問題なく作れた。少し改善した方が良いところは改善していくと、とても喜ばれて臨時で追加報酬までもらいウハウハだ。こんなに簡単なことならお安い御用。
「出来ましたわ。今日のエスコートはミラー様がしてくださる予定なのでこのままお待ち下さい」
「分かったわ」
そうして暫くすると、ミラー様が部屋にやってくる。
「準備は出来たかい? おぉすごい綺麗だ。この前と大分印象が違うがその色もとても似合っているね」
「ありがとうございます。ミラー様も素敵ですね」
ミラー様は白いスーツに、青色のマントを羽織っており“ザ・王子様”といった感じだ。
「ありがとう、それでは行こうか“お姫様”」
もうそんな年齢じゃないのだが、やはりお姫様扱いをされると嬉しい。スマートな彼は私のことも自然にエスコートしてくれる。王太子という身分のせいか、実年齢よりだいぶ落ち着いた印象を受ける。
「先に招待客が中に入っていくから、我々は一番最後の入場になるよ。父上が君の名を呼ぶから、父上の前まで進み頭を下げて待つんだ。あとは父上が顔を上げるように告げたら顔を上げ、招待客へのお披露目を終えたら席に着いて、あとはひたすら挨拶をするだけだから」
「挨拶するだけってそれが気づかれしそうだよ。みんなの前で紹介されるのも緊張する。今までこんなに注目されたことないもの」
「大丈夫だよ。注目されるのなんてほんの一瞬だけさ」
そうミラー様と控室で話していると、ざわめきが大きくなり、招待客が順番に会場に案内されている様子が伝わってくる。
「さあ、そろそろ行こうか」
ミラー様にエスコートされ、会場の扉の前に立つ。
「落界人、山本由莉様のご入場です!!」
そう入り口で高らかに宣言され、ざわざわとしていた会場が一瞬で静まり返る。大勢の人が私に注目しているのが伝わって足ががくがくと震えてくる。
「大丈夫だ。みんな君を歓迎しているよ」
そうミラー様が耳元で呟き、エスコートする手を力強く握ってくれる。
「僕に頼っていいから力を抜いて。君は僕に身を任せばいい」
そう言って引いてくれていた手を腕にかけてくれる。ミラー様にしがみつくような体制になってしまったが、そのおかげで足の震えがあってもなんとか一歩踏み出せそうだ。
そのまま彼と腕を組んで王様の前まで進み出て頭を下げる。
「頭を上げよ」
「はい」
「王の名において彼女山本由莉を落界人として保護する。彼女はこの国にとって有益であることを証明された。今日は由莉殿の歓迎会だ。心置きなく楽しんで欲しい」
「大変光栄でございます」
そう言って頭を下げると、割れんばかりの拍手喝さいが起きる。
驚いて頭を上げると、ミラー様が微笑んでいる。
「ほら、言ったでしょう。君は歓迎されているんだよ。落界人がもたらす恩恵は大きいからね。君を悪いようにする人は居ない。だから安心してくれ。もし居たとしたら僕が排除しよう」
そう冗談めかして言うのだが、目が割と本気だと感じた。ミラー様の裏の顔を見てしまった気がするが、緊張していた私はやっと安心することが出来たのだ。
お披露目が無事に終わると次は挨拶回りが始まった。私はミラー様の一歩後ろに居て、彼が必要だと判断した人だけ紹介され、挨拶される。
「ミラー様ご無沙汰しております。今日はユリ殿をエスコートされているのですね。ぜひとも紹介していただきたい」
「申し訳ございません。彼女はこういった場に慣れていない為に紹介はまた次回にして頂きたいと思っておりまして、それよりあなたの領地では最近……」
こうやって私に挨拶をと言ってくる人も上手に話を逸らしてくれている。僕が守ると言ってくれたのは本当だったのかと少しミラー様に好感を抱く。
「ミラー殿この前ぶりだな。わしにも改めて紹介してくれるか」
「はい喜んで。ユリ殿、こちらは騎士団の管理局の局長である、ザック侯爵だ」
そう言って紹介されたのは、あの議会にもいたおじさんだった。お腹が出ており、騎士とは程遠いこの人が騎士団の一番偉い人だと思うとこの国は大丈夫なのかと思う。それにこの人は私のことをいやらしい目で見ていたおじさんだ。少しいたずらしてやろう。
「初めまして、ユリと申します」
「君は気づいていないかもしれないが、私もあの議会に参加していたんだよ。今日はあのドレスを着ていないんだな。ぜひあれをまた来て欲しい。別に夜会ではなく、私の屋敷で個人的なパーティーを開いても良いな」
うん、少しのいたずらじゃ済まなそうだ。
「侯爵、ユリ殿の独占は困りますね。誘うときはぜひ私も一緒に伺いたいと思います」
そうミラー様が牽制してくれて、侯爵は冗談だと笑いながら去って行った。私はさっそく侯爵がみんなの前で恥をかくようにイメージを必死に送る。
チートスキルが上手く使えたようで、侯爵が会場の中心までいくと突然ベルトが弾け飛び、ズボンが下がってパンツ姿をみんなにさらけ出す形になった。慌ててスタッフのメイドがタオルを持って駆けつけるが、彼はクマさんパンツをみんなに見られてしまい、真っ赤になっている。
「まあなんて可愛らしいのかしら。良い趣味をしてるわね」
「本当、性格もあれくらい可愛かったら良いものを」
「ベルトをけっちて新しいのをつけないからあんなことに」
「侯爵家なのにケチなのね」
「あの年であのパンツの趣味はちょっと」
「ロリコンとか?」
あちらこちらで噂しているのが聞こえてくる。
うん、上手くいった。あれくらいのいたずらなら問題ないだろう。そう私が満足していると、隣のミラー様が小刻みに揺れている。
「プッ、くく……。もう勘弁してくれよ。あれは君の仕業だろう? まさかあんないたずらを仕掛けるなんて思わなかったよ。侯爵が去るまで笑わないようにしていたせいでお腹が痛い」
「だってバナナの皮で転ぶ程度ではあのセクハラ野郎へのお返しとしては弱いと思って。でもまさかあんな可愛らしいパンツを履いているとは思わなかったから、ふふ」
「ああ意外だったな。俺も今度から下着の柄にも気を使わなくては。君に同じ目に合わされたらたまらない」
「ミラー様にはそんなことしないですよ」
「そう願いたいな。だけど今後はもっと気をつけて能力を使うんだ。今回は回収したベルトが切れていたとこちらで上手く処理しておくけど、急におかしなことが続けば君がやったと疑われて恨まれるかも知れないんだ。気をつけて」
そう軽く怒られるが納得する。確かに私の仕業だとバレたら厄介だ。頭の上から急にタライが落ちる等も考えたのだがそっちにしなくて良かった。そんなことをしたら確実に私の仕業だとバレていただろう。
その後もミラー様の後ろで微笑んだり、挨拶を繰り返してようやく人の波が去って行った。
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