第8話 王様に認められたようです。

 化粧が終わると手直しが終わったドレスを着せられる。私のサイズにぴったり合わせてくれており、これなら胸元からポロリする心配はないだろうと一安心だ。ただお辞儀をすると谷間を思いっきり協調してしまうが、もうそれには目を瞑ろう。


 鏡を見せてもらうと、全身整えられた私は普段の数倍綺麗だった。この姿であの美形の勇者の隣に並んだら、もう少しつり合いが取れていただろうかとどうでも良いことを考えてしまう。

 あの生活をしていた頃は髪も肌も手入れをしていない残念な姿で、彼の隣に立つと自分は周りからどう思われるかのかと実は気にしていた。彼は今頃どうしているのだろうか。まだ一人でテント生活を続けているのだろうか。



「さあ出来ました。とっても綺麗で素敵ですよ」


「ありがとう。今は何時なの?」


「今は12時ですので、あと30分程でこの部屋を出ます」


「そうなの、あっという間だったわね。……待って、私王様に会うのにこの国のマナーとか何も知らないのだけど!?」


「……。……30分ありますから問題ありませんわ。ええ、問題ないです」


 今かなりの間がなかったか。しかも問題ないと2度言った。うん、これは大問題であるに違いない。

 その後30分のスパルタ指導にあり、フラフラになりながら王様の待つ謁見室に向かった。ローラン曰く、落界人にそこまでちゃんとしたマナーは求めないはずだから失礼な物言いをしなければ大丈夫とのこと。

 ……だったら30分休ませて欲しかった。慣れないドレスとコルセットに私の弱小体力はもう0に近いに違いない。


 なんとかマナーを頭に押し込み、現在は王様の待っている議会室の前。一応リア様も一緒についてきてくれるが、彼はあちら側の人間。ここからは私一人で戦わなきゃいけない。

 万が一善人の落界人と認められなければ私は一生牢獄での生活が待っているのだ。3回深呼吸をして、心を落ち着かせる。大丈夫、私は大丈夫、いくぞ。リア様に目線で覚悟が決まったことを伝えると、警備の騎士に合図を送り扉が開かれる。


 一歩踏み出すと、そこには10人近くの人が列席していた。思ったより少なく、多少気持ちが軽くなる。リア様に続いて進み、立ち止まると私も頭を下げて王様の発言を待つ。

 基本王様が何か言うまで私は発言してはいけないそうだ。発言も基本は王様が聞いたことに対して答えることだけが許されている。


「そなたが落界人か。名を教えてくれるかい」


「山本由莉と申します」


「そうかい、うむその胸の紋様を見る限り間違いないようだな。リアの鑑定では善人で間違いないとのことだが、カードを見せてもらえるかい。それでそなたのスキルが明らかになる」


 胸を見られるのは不快だが、王様の視線はいやらしくなく胸からすぐに視線が外れる。何人かは胸ばかり見ている気がするので、そいつらの顔を覚えて後で後悔させてやるとひそかに誓う。私の異世界チートさえあれば、そんなやつらの顔を覚えることなんていとも簡単なのだ。


「承知いたしました。『スキル開示』、そちらに行ってもよろしいでしょうか」


「構わない。見せてくれ」


 王様の許可を取ると、彼らが座っているテーブルに近づき王様に直接手渡し私は1歩下がり頭を下げて待つ。

 近づいてみて分かったが、ほとんどおじさんで囲まれている中、1人だけ若い男性が座っている。それも王様の隣だ。もしかして王子様とかだろうか。

 すぐ頭を下げてしまったのでよく顔を見られなかったのは残念だ。リアル王子さまはどんな顔をしているか気になってしまう。



「確かに確認した。彼女は善人の落界人だ。あなたはこの国で保護させてもらう。詳しい説明は後で案内の者を遣わそう。何か質問はあるかね」


「いいえ、御座いません。ご配慮を感謝致します」


 そう答えるしかない。質問も何もまだちゃんとした話をされていないのだから。


「ではこれで落界人に関する議会を終わりとする。リア、ユリ殿を元の部屋まで案内してくれ。以上解散!」


 そう王様が告げると、テーブルに座っていたおじさんがぞろぞろと後方の扉から退出する。最後までいやらしい目線を向けていた人の顔はしっかり把握した。


 リア様に案内され元の部屋に戻ってくる。


「無事に認められて良かったですね」


「ええ、ありがとう。それで今後の私はどうなるの? 国で保護してくれるとか言っていたけど」


「それについては別の者から詳しい説明があるはずです。私も詳しいことは聞いていないので。僕は基本王宮の魔術師課にいるので何かあればそちらへ来てください」


「分かった」


「あとこれを渡しておきますね」


 そう言われてリア様から渡されたのは1冊のノート。


「これは?」


「これは過去の落界人の人が作った魔法アイテムで、異世界チートについて知りたいことを思い浮かべると答えてくれるノートです! どう? 凄いでしょう!?」


「そんなものを私がもらって良いの?」


「はい、落界人以外には使えない仕様になっているみたいなので、我々が見てもただの真っ白なノートにしか見えないんです。本当に残念なんですが」


「分かったわ。ありがとう」


 そういうと彼は部屋から去り、1人取り残される。



 ローランを呼びあのドレスから部屋着へと着替えさせてもらうと、案内人を待っている間にさっそく試しにもらったノートを開いてみる。


「うーーん、悪いことをしたらダメと言われているけど、あのおじさん達を少し困らせたりすることは許されるのかしら」


 そう言いながらノートを開くと、文章が浮かび上がってくる。


『人を殺したり呪ったり、お金を奪ったりの犯罪行為は異世界チート剥奪の対象となりますが、相手をバナナの皮で転ばせたり、くしゃみが止まらなくさせたり等のいたずら行為は咎められません。要は犯罪に問われないレベルなら何でも可です』


 いたずらの例えがしょうもないのだが、これを作った落界人の性格なのだろうか……。


 トントントン

「ユリ殿、扉を開けても大丈夫だろうか」


 どうやら案内人が来たみたいだ。私が返事をすると扉を開けて男性が2人と侍女がやってきた。


 男性の1人は先程の会議でも見た王子様らしき人だ。彼が案内人なのだろうか。



「一応初めましてかな。僕は先程の部屋で君を見たんだけどね。僕はこの国の王太子のミラーだ。よろしくねユリ殿」


 そう言って手を差し出してくれるので握手を交わす。リアル王子様は、本当に金髪青目であった。目鼻立ちも整っており、この容姿なら誰も文句を言わないだろう。身長も170後半位だろうか。しかし彼の顔を見ているとデジャブ感を感じる。あの勇者の時と同じだ。


 この世界の人みんなにデジャブ感を感じている訳ではない。リア様の時は何にも感じなかった。勇者とこの王子とで何か共通することがあるのだろうか。何か大切なことを忘れている気もするのだが思い出せない。


「彼は私の側近のマークだ。よろしく頼む」


 そう紹介されると、金髪茶目の男性が頭を下げる。彼は先程の会議には居なかった。身長は170センチくらいだが、顔立ちは整っていてこちらも人気がありそうな人だ。


「では君の保護に関して話しても良いだろうか。お茶を頼む」


 そうローランに告げると部屋のテーブルに座るミラー様に従い、私も反対側の椅子に腰をかける。マーク様は立ったままでいるらしい。


「まず君はこの国に留まる限り自由に過ごしてもらえる。住居もこちらの城の部屋を使ってもらって構わないし、他の部屋が良いなら言ってもらえれば君の望む部屋を用意する。もちろん城の外で生活するのも自由だが、その場合は自分で住処も生活費も用意してもらわなければならない」


「つまり城にずっと居れば生活を全て保障するけど、外に出るなら自力で過ごせということ?」


「君はハッキリ物を言うタイプなんだね。簡単に言うとそうだ」


 生活を全て見てくれるのは助かるが、それでは国の飼い犬状態になるのではないか? 果たしてそれが良い生活と言えるのだろうか。


「城での生活を保障する代わりに、君には時々魔道具を開発してもらったり、その力を国のために貸してもらったりを頼むことになる。もちろん人殺しなどの悪事に利用することはないから安心して欲しい」


 確かにそんなことを任せられるならこの破格の待遇も納得出来る。何せ私は最強の異世界チート持ち。手放したくはないだろう。


「別に外での生活でも、たまに国からの依頼を頼まれてくれるならその都度報奨金といった形であなたの生活をサポートする予定だ。まだどうするか決める必要はないから暫くは城に滞在してゆっくり決めていけば良いよ。何か質問はあるかい?」



「いつまでに決めなきゃいけないとかあるんですか?」


「いや、何も期限はないよ。ただここにいる間は時々依頼をするかも知れないからそれを受けてくれることが条件かな。こっちの生活に慣れるまでは依頼もないようにしておくよ」


 確かにただで滞在させてもらうのは申し訳ないからそれは別に気にならない。


「あとはこの世界についても知ってもらわなきゃいけないと思うから、とりあえず1ヶ月はこの城に滞在して欲しいかな。その間に講師を呼ぶから色々学んで決めたら良いと思うよ」


「分かりました。色々ありがとうございます」


「何かあればこのマークを通して伝えてくれ」


 そういうと2人は去っていき、ローランがお茶を入れ直してくれる。


「この後はどうなさいますか? 軽食を用意しておりますがいかがです?」


「ありがとう。運んで欲しいわ。でもその後は暫く一人にして欲しいの」


「承知いたしました。では一度失礼致します」


 そう言って軽食を運んでもらうと、ローランは退出し一人になる。

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