第7話 私の見た目は悪役令嬢寄りみたいです。

 夕方になると、夕飯を運んできてくれる。

 今日の料理は鮭とコーンのクリームパスタとサラダとスープ。この国の料理はイタリアンに近いのかも知れない。量が多いかもしれないと懸念していたが、そんなこともなくすべて美味しく頂くことが出来た。


「美味しかったありがとう。この世界のご飯でも大丈夫そう」


「それは安心致しました。では明日からこのように用意させて頂きますね。量も不足はなかったですか?」


「ええ、ちょうど良かったわ。でも朝ご飯はこれよりも少な目にしてもらえると嬉しいかも」


 私は低血圧で寝起きはあまり食べることが出来ないのだ。


「承知しました。では明日の朝7時にこちらに参ります。明日はまず湯船につかって頂き、全身マッサージをし、その後朝食を軽くとって頂いてから衣装合わせ等を行ってまいります。13時から王様との面会となりますので、それまでには準備を完了しなければなりませんので、ご協力ください」


「7時……結構早いのね。頑張るわ」


 この時の私は王様に会う為の準備がどれほど大変か分かっていなかった。この時準備の詳細を詳しく聞かなかったことを激しく後悔するのだった。



 ◇


 翌朝7時になると、ローランに起こされる。本当はちゃんと起きていようと思ったのだが、朝に弱い私には無理だったみたいだ。


「ユリ様、起きてください。支度をなさいますよ」


 そう言って優しく起こされたが、そのあとはスパルタだった。まず寝起きのぼーーっとした状態でお風呂に入れられる。しかも全部脱がされ、全身を洗われる。脱がされる時から激しく抗議して逃げようとしたのだが、いつの間にかローラン以外の侍女が増えており、無理やり脱がされ湯船に落とされた。

 そして昨日とは別の石鹸、シャンプーやコンディショナーをつけて入念に洗われ、入浴後には香油を髪や全身につけて磨かれた。髪はドライヤーのような物で乾かしてくれる。私は精神力が0になっていたので、チート能力を使っている余裕もなかった。


 全身磨かれ、お風呂から上がった頃には口から魂が出かけていた私だがそんな暇は与えられなかった。朝食が運ばれてきたのだが、片手で摘まめるサンドイッチをせかして食べさせられる。


「この朝食を食べていただかないと、次に食事を取れるのが面会後の15時頃となっております。その時間にアフタヌーンティーを用意しておりますので。今食べなくてもこちらとしては構いませんが、15時まで何も摘まめないのでその覚悟はしておいて下さい。ちなみにあと30分で次の準備に入らなければなりませんので、食べるなら30分以内に終わらせるようお願い致します」


 そんなことをローランに真顔で言われ、私は休む間もなく泣く泣く朝食を食べた。

 口調は丁寧だが、言っていることは鬼畜だ。脅しが入っていたと思う。サンドイッチはさすが王城のシュフが作っていると感じるもので、野菜がフレッシュで大変美味しく頂いた。




 次にされたのは衣裳合わせだ。衣裳部屋にあったものから、別に取り寄せてもらったものまで十数種類あり、それを1着1着体にあてて選別されていく。ここも私の意志は関係なく、ローランと3人の侍女でああだこうだ言っている。

 ……あれ、私って王様の客人よね? 結構偉い立場じゃなかったっけ? と思うがされるがまま口を出さない。出したとしてもおそらく意見は採用されないと私の勘が告げている。


「やっぱり薄い色のドレスで黒髪を生かす方が良いのではないでしょうか」

「いえ、この肌の色白さを目立たすには濃い色のドレスではない?」

「身長がおありなのでスレンダーなドレスでスタイルの良さを出すのもありですわ!」

「そうね身長だけでなく胸もおありだから胸元もざっくり開いているのも良いわ!!」


 うん。とても盛り上がっている。最後の意見はぜひとも却下して欲しい。初対面の人相手にそんな誘惑するような恰好で出たくない。そもそも王様が何歳かも分からないしエロおやじだったら最悪だ。


 ちなみに私の身長は170cmなのだが、この国の女性は160cm以下の人が多いみたいで、それからしたら私は高い方なのだろう。ちなみに勇者の彼は180cm近くあったように思うが、男性の平均は175cm位らしい。


 何着もドレスを当てられ、その中からさらに数着試着させられる。その試着の前にコルセットを思いっきり締められ、それで気持ち悪くなって大変だった。


 そうやってやっと私の着るドレスが決まったようだ。もう10時になるからかれこれ2時間くらいドレス選びに要していたみたいだ。


「やっと終わった……こんなに悩む必要あった?」


「何を言っているんですか。通常王様との面会で会うとなったら数か月前からドレスの準備をするんですよ。それが今日2時間で選ぶなんて、通常ではあり得ないことなんです。今回は事情が事情ですので、既製品で用意させて頂きましたが、本当ならオーダーメイドのドレスを用意したい所であります」


 なんと数か月前から用意するとは。確かにこの国の一番偉い人との対面だもんな。普通だったら面会すら出来ない人がほとんどの雲の上のような人だろう。

 それが直接会えるとなったら千載一遇のチャンスだ。そうなればそれだけ気合を入れ気持ちも分かる。


 それから私の体型に合わせてドレスの手直しが至急行われる。いつの間にか針子が部屋にいて驚いた。彼女たちは忍者なのか。全く先ほどまで気配を感じなかったのに。




「ねぇ、本当にこのドレスじゃなきゃダメ? 胸元がざっくりと開いていてすごく恥ずかしいのだけど」


 結局彼女たちが選んだのは青色のスレンダーラインのドレスだ。青色と言ってもどちらかというと紺色に近くてシックなイメージだが、胸元は白糸で花の刺繍がされており、胸元から下はチュールが緩やかに広がり、白のチュールの上にさらに青色と白のグラデーションのチュールが重ねてある。

 紺色から段々と白色に代わる様子が大人っぽくも可愛らしくも見え、好みのデザインだ。


 しかし胸元がかなり深めのハートカットで胸が半分くらい露出してしまっていて今にもこぼれ落ちそうなのである。一応胸元もチュールで地肌は見えないようにされているのだが、そうだとしても恥ずかしい。


「今回は我慢してください。その胸の痣が落界人の印ですので、それが目に入るようにしなければなりません。もしそれを隠したデザインのドレスにしてしまうと、王様達の前で自ら胸元をめくってさらして頂くことになりますがどちらが宜しいですか?」


「申し訳ありませんでした。これ以上のドレスはないと思います」


 私はこう言うしかなかった。ドレスの胸元をめっくて胸をさらすなど痴態を大勢の前でしたくない。そんなことするくらいならいくらでもこのドレスを着よう。

 ……ローランと会ってまだ1日も経っていないのに私の扱いが心得てすぎやしないだろうか。私はそんなに分かりや過ぎるのかと不安に思った。


 そうして衣装合わせが終わると化粧をされる。


「ユリ様は肌がとても綺麗なのでそれを生かしてあまり濃いメイクはしないように致しますね」


 そう言ってどんどん手が動いていくローラン。しっかり睫毛が持ち上げられマスカラを塗られていく。こんなにちゃんと化粧したのはいつぶりだろうか。

 26歳の時に彼氏に振られて以来適当になっていたから、ちゃんと化粧をされた顔を久々に見て、自分もちゃんとすればそれなりに綺麗になるのだなと他人事のような感想を持つ。最後にピンクに近い赤のルージュを引かれる。


「これで真っ赤なルージュをつけたら悪役令嬢のような見た目になってしまいますので、可愛い路線も残しつつセクシーに行きます」


「悪役令嬢……。でも令嬢って年齢でもないでしょう私」


 確かに私は少し釣り目で、アイラインを引くとよりそれが強調されて少しきつく見えてしまう。身長もこの世界の人より少し高いくらいだから、その上この胸を強調したドレスなんか着たら悪役令嬢らしいかもしれない。


「年齢を聞いて驚きました。若々しくいらっしゃいますので、令嬢と言っても通じると思います。むしろ大人の色気も得ていて、そこらへんの令嬢よりも悪役令嬢の要件を兼ねそろえていらっしゃいますね」


 何でも最近悪役令嬢が活躍する物語が流行っているらしい。だがさすがに悪役令嬢と呼ばれることはまだ不本意であるとされている為、私のようなタイプはそう見せないように化粧や髪形で可愛さを出すのが良いとされているらしい。

 その悪役っぽいのに可愛さを取り入れようとするギャップが良いとかなんとか。この世界でもギャプ萌えは存在するらしい。


 そういう訳で私は髪の毛は編み込まれ、小ぶりの白い成生花が差し込まれて可愛さを演出している。確かに顔から上は可愛さを醸し出しているのに、胸から下は大人っぽい。これがギャップ萌えが狙えというやつか。

 しかしそもそも私に萌えてくれる人が居るかが問題なのだが。別に今は別に萌えてくれる人も募集していない、私にはこの世界でちゃんと生きていけるのかという方が重要だ。

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