花咲くまでの物語~外伝~ 木の上の出会い
国城 花
木の上の出会い
ここは、私立
家柄、財力、才能を持ったエリートたちが集まる、実力主義のお金持ち学校である。
静華学園の高等部には、「つぼみ」という名の生徒会がある。
静華学園に通うエリートたちの中でも、特に才能に秀でた者たちが集まる。
その「つぼみ」の1人であり、学園の理事長の孫というお嬢様でありながら、木登りが好きな女子がいた。
今日も、学園の庭の木の上でくつろいでいる最中である。
あたたかい陽気に、葉をさらさらと鳴らす風は涼しい。
木の上でゆっくり過ごすのに良い日である。
時計台の鐘が授業の終わりを告げる音を聞きながら、木の枝に座り、幹に背を預ける。
静かな庭で、草木の鳴らす音だけが耳に届く。
しばらくそうして目を瞑っていると、木の幹をカリカリとかくような音で目を開ける。
下を見ると、1匹の猫が木に登ろうとしていた。
灰色の毛並みに、茶色の瞳をしている。
おそらく野良猫だろうが、この学園はセキュリティが厳しいのでこうやって野良猫が迷い込んでくるのは珍しい。
最初は木の根元をカリカリとかいていただけだったが、しばらくすると爪を立てて木に登り始め、何度か落ちそうになりながらも自分がいるところまで登ってきた。
木の上で、猫と人間が1対1で向き合う形となる。
茶色い瞳は、自分より体の大きい人間をじっと観察している。
そのまま放っておいていると、少しずつ歩み寄ってきた。
それでも視線を向けると動きが止まるので、一応野良猫らしく警戒心は持っているらしい。
面倒くさいので放っておいて、また目を瞑る。
さっきまでの静かな音の中に、猫の動く気配と足音が加わる。
手に柔らかいものが触れたので目を開けると、灰色の毛がすぐ手元にあった。
茶色の瞳は、伺うようにこちらを見上げている。
少し手を伸ばすと、それを少し観察してから、ペロリと舐める。
灰色の毛並みを撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
子猫ではないが、若い猫である。
撫でてみると、野良猫にしては毛並みが整っている。
この人懐っこさを見ると、最近までは誰かの飼い猫だったのかもしれない。
「捨てられたの?」
猫に尋ねると、いや、というように首を傾げる。
そうしてどこか寂しそうに、すり寄ってくる。
「いなくなったの?」
茶色の瞳は、ただじっと見つめ返してくる。
「そう」
灰色の毛並みを撫でると、じんわりとした温かさが伝わってくる。
きっと、以前の飼い主には愛され、可愛がられていたのだろう。
それでも、野良猫になってしまった。
今は、大切にしてくれる人がいないのかもしれない。
人を警戒しながらも、人のぬくもりを求めている。
しばらくそうして、灰色の毛並みを撫でた。
たまに、お礼のようにぺろりと舌で撫で返される。
風に乗って、人の気配が近付いてきたことに気付く。
猫はまだ気付いていないのか、警戒心を緩めたまま撫でられている。
少しすると、灰色の耳がぴくりと動く。
そうして、人の気配が近付いてくる方へ頭を動かす。
人が近付いてきたことに気付いたらしい。
撫でられていた手から離れると、木の上から降りようとする。
「行くところ、あるの?」
尋ねると、振り向いた茶色の瞳と目が合う。
「にゃあ」
それだけ残して、登ってきた時とは見違えるほど身軽に木から降りていった。
どうやら、帰る場所はちゃんとあるらしい。
大切にしてくれる人はもういなくても、帰る場所があるならいい。
猫の姿が見えなくなると、いつも自分を探しに来る人物が現れる。
声をかける前に、ため息を一つ落としている。
「そろそろ、時間だぞ」
さぼりの時間は、もう終わりらしい。
灰色の猫よりも身軽に、木の上から飛び降りる。
「いい加減、すぐにどこかに行くのはやめたらどうなんだ」
呆れたように、またため息をついている。
「探してって頼んでない」
別に、見つけられなくても自分は困らない。
「探さないと、一生現れないだろうが」
それは本当のことなので、特に反論することはない。
「見つかってるなら、いいじゃん」
「そういう問題か?」
納得できないのか、眉間にシワを寄せている。
それでも深く考えることは諦めたのか、3回目のため息をついている。
風が吹いて、猫が去っていった方に少し視線を向ける。
きっと、もうここに迷い込んで来ることはないだろう。
お互いに帰る場所があるなら、もう会うこともないかもしれない。
それなら、それでいい。
「早く行くぞ」
「はいはい」
自分を待つ相手に適当な返事をして、庭に背を向けた。
花咲くまでの物語~外伝~ 木の上の出会い 国城 花 @kunishiro
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