5 秘密にしろって言われても……
「あれ……藤沢くん?」
「……………………足積さん……」
俺はやっと声が出た。
俺の妹が足積さんって……。
毎日、一つ屋根の下、朝起きて?飯も食って?学校行って?学校帰って?
また飯食って風呂入って寝る?
天国だけど地獄。
心臓止まるわ。
もう毎日ドキドキしすぎで終わるわ。
「あれ……美咲ちゃんと達哉って、知り合い?」
「ああ、同じクラス」
「はい、同じクラスです」
足積さんもそう言うってことは、もうこの件は知ってるってことか。
「美咲、とりあえずここ座りなさい」
「はい」
足積さんが席に座る。
「はい、まず色々説明するね」
うわあ、父さんの長話が始まりそうだ。
「父さんの名前は、藤沢勝哉。そして…」
「お母さんの名前が足積早希。私と勝哉は再婚したの」
「それで、父さんの息子が、」
背中を叩かれて、『自分で自己紹介しろ』と言われているのが分かった。
「藤沢達哉です」
良かった、噛まずに言えた。
「私の娘が、」
「足積美咲です」
「それで、早希と美咲ちゃんは、苗字が藤沢になる。だから、藤沢早希と藤沢美咲になるよ」
「はいそこで注意点~。絶対守らなきゃいけないことがいくつかあるよ。」
「一つ目、子供同士は下の名前で呼び合うこと。」
はぁ⁉
「二つ目、呼び捨てで呼ぶこと」
だからはぁ⁉
心臓止まるわ‼
無理やろ‼
「三つ目、このことは学校のみんなには秘密にすること」
だからはぁ⁉
無理だって秘密なんて‼
秘密にしろって言われても‼
できないこと分かってて言ってるだろ‼
「達哉大丈夫?」
いいいきなりたしづ…美咲が名前を呼んでくる。
「大丈夫」
俺が兄なんだからおれがフォローしないと。
美咲が席を立ってこっちに歩いてくる。
俺にだけ聞こえるように言った。
「…秘密にするのはなんとかしよう。それに、バレても大丈夫」
「なんで分かるんだ?」
「お母さんから詳細聞いた」
「なんだって言ってた?」
「『これはただ、二人の親睦を深めるためにやるから、バレても大丈夫』…だって」
「ふっ、なんかこの人らしいな」
「だよね」
そう言って美咲は戻っていく。
「…と、い、う、こ、と、で。えっとこれから藤沢家の家に行くよ、みんなで」
ええええええええええええええええ今からああああああああああああああ⁉⁉⁉⁉⁉
「分かりました」
「美咲ちゃん敬語使わないでよ」
「…分かった」
「それでよし」
みんなが席を立つ。
カフェを出る。
「美咲、今さっき俺が敬語使ったときは指摘してたのに、なんで自分はいいんだよ」
「え?」
美咲は目を見開く。
なんでそこで驚く……?
「…分かんない!」
「なんだよ!」
ハハハハハ……。
二人の笑い声が、夕焼けの空に響いた。
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