第3話 予言の解釈

 第四王子殿下は脳天気だ。学園の成績も今ひとつだ。この国の人で、それを知らない人は居ない。


 第四王子殿下を不幸にした予言を恨んでいないことが、その誤解に信憑性を与えている。

「子供の頃、母上を、当時は母ちゃんと呼んでいたけどね。母ちゃんが大好きでも、母ちゃんと結婚出来ないのは当たり前なのに、この爺さん何を当たり前のことを、と思っていたよ。一応は、状況をわきまえていたから、はいと神妙に返事をしたけれどね」


 第四王子殿下は何も考えていなさそうな明るい声で笑う。

「爺さんは優しい人だよ。あの予言は、あの人なりの優しさだ」

「優しいのは殿下でしょう。失礼なのも殿下ですが」

「酷いなぁ。僕は御本人から、許可をもらっているのに」

わざとらしく唇を尖らせた第四王子殿下を私は無視した。うっすら髭が生えるようになった男がやって許される仕草ではない。


「では、たとえ話をしてあげよう」

珍しく真剣な第四王子殿下の声に、私は、顔を正面に戻した。

「君は、家族を心から愛しているだろう」

「はい」

「どちらが一番と、甲乙つけがたいくらい、ご両親を愛しているだろう。もちろん弟さんもだ」

「はい」

「でも、君は、ご両親とも、弟さんとも結婚しないよね」


 突拍子もない話に、私は呆れた。

「はぁ、しませんよ。当たり前です」

「じゃぁ、君も愛する方とは永遠に結ばれないわけだ。僕と同じだね」

してやったりと笑う第四王子殿下に、私は二の句が継げなかった。両親や弟と結婚など、考えたこともない。というよりも、ありえない。


「そういう意味ではないと思いますが」

「どうだろうか。予言なんて解釈の問題だよ」

周囲がどうであれ、少なくとも予言をされた本人が、解釈次第と考えていることはわかった。


「爺さんは、僕を守ろうとしてくれたと、僕は信じている」

「失礼な呼び方さえなさらなければ、私も同意をいたしますのに、やぶさかではございません」


 私は、大占星術師を、心から尊敬していた。どうしてもお会いしたくて、第四王子殿下に、一度だけ離宮に招いていただいた。本当に素晴らしい方だった。爺さんなどと呼んで良い人ではない。お爺さまなら駄目ではないと思う。王族なのに、どうして、ぞんざいな言葉遣いを選ぶのかと、私は抗議の意味を込め、私の知る限り最も丁寧な言葉遣いをしてやった。


「君の今の言葉使いは、僕に対してあまりに失礼だよ」

第四王子殿下は拗ねて見せて、二人で一緒に笑った。


 大占星術師は失脚なさった。隣国との戦争で、この国に不利な予言をしたことで、国王の不興を買い、その地位を追われた。高齢であり、体が衰えていたことも重なり、用済みと嘲られた彼は、王宮に居場所を失った。


 王宮に居場所を失った彼は、第四王子の離宮に居を移した。第四王子は、爺さんと彼を呼び、歩けなくなっていた彼を、自らの手で世話をした。離宮に一度だけお邪魔した私もその光景を目にした。


 敬愛すべき老人を労る第四王子を、貴族たちは、所詮は庶子だと嘲り、私達平民は、その優しさに心を打たれた。


 私も、その優しさに感激した一人だ。だが、第一とされる大占星術師を掴まえて、爺さんと呼ぶのは、やめて欲しい。

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