ラグ村村長宅
カウとサカイは村長宅に案内された。村長の家は丸太でできた砦のようだった。
「グビ村をころせぇえええええ!!!!」
「「オオオ!!!!」」
吹き抜けの広間の奥、中央に筋骨隆々の老人が上半身裸で雄たけびを挙げていた。ラグ村の村長だ。帽子を被った男と平凡な男が村長の雄たけびに呼応して拳を突き上げている。カウも小さく「おーっ」と拳を挙げる。
ラグービ祭はラグ村と隣村グビ村で4年に一度、行われる競技祭である。勝った村には二つの村の間を流れるライン川の利水権が次の祭りまで優先される。大まかなルールは以下のとおり。
・各村7体の競技者で行う。ただし、競技者のうち4体はその村で出生していなけければならない
・前回、勝利した村は事前に競技者を相手側に公開しなければならない。
・両村の中間地点に設置されたアーモンド状のボールを相手側の村長の自宅の玄関に置いた方が勝利。その際は競技者とボールが接触していなければならない。
・ボールを蹴り以外の手段で前方に投擲してはならない。転移、再構築等の前方への投擲と評価される物理、魔法的作用も同様に禁止する。
・競技中の競技空間内における競技者間の行為は全ての法に抵触しない。
最後の部分が結構、無茶苦茶であるがラグービ祭が法が出来る以前から開催されているため、競技ルール以外の法を守る必要はないと結論づけられている。
前回、ラグ村は勝利しているので競技者はすでに確定し、裁定人として派遣されている職業神殿の聖騎士に提出している。
ラグ村の競技者は村長サポト、郵便屋キャリア、村人ピピヒ、薬士ユスリハの4名が村出生者。助っ人となるのが羊飼いカウ、自衛隊士クラウチ、剣士ムカイ。補欠は犬神ケントだ。
隅で毛繕いをしている大きな犬、ケントを見てクラウチは撫でたいという欲求に駆られた。近づくとケントは一瞥するだけで、お好きにどうぞ、といった風だった。
「おい、村長。当代の羊飼いとはいえ、まだ子供じゃん。役に立つんかよ」
帽子を被った男。郵便屋キャリアが言った。彼は10キロ以上の長距離走で大陸一の俊足を持っている。頭をポンポンと叩かれたカウは短く鳴いた。羊飼いの強靭な喉で圧縮された空気がキャリアを一瞬で吹き飛ばした。丸太の壁に叩きつらる寸前でキャリアは体制を整え壁に着地した。
「気安く触るんじゃないわよ!」
「なかなか、やるじゃねぇか。もう、お前は子供なんかじゃねぇぜ」
「私は子供よ!気安く触るなっていってるでしょ!」
触ろうとするキャリアに腕を振り回しながらカウは言った。風圧が凄い。
「カウ様はなぜ大草原を出てこられたのですか?なにか世界を揺るがす大事件でも起きたのでしょうか」
村人ピピヒが体を揺すりながら言った。羊に逃げられたとは恥ずかしくていえない。カウは無視してテーブルにあった鳥の丸焼きに齧りつく。
「作戦だ!てめぇら、よく聞け!!」
村長が握りつぶした地図を壁に叩きつけた。丸太でできた壁は破壊された。
作戦は簡単だった。足が速い郵便屋キャリアがボールを運搬。防御力が突出したカウが最前線で相手の前衛と交戦。村長、村人ピピヒが前衛支援、薬士ユスリハは後方で回復、剣士ムカイはユスリハの護衛。クラウチは森林の最終ラインで守備だ。
「相手の情報はないのか?」
まともな会話ができそうな薬士ユスリハにクラウチは話しかけた。ゆったりとした白の貫頭衣を着た白髪の中性的な女性だが年齢は若く感じる。「んー」と口元に一指し指を当てる。
「今回はウチがアウェーですからね。でもグビ村村長と農家デュリンカ、自然保護官ランカードの3人は出てくると思いますよ」自然保護官というのは木こりの上位種のようなもので役人らしい。「首と胴が分かれない限り、私が治してあげますから心配いらないですよ。せっかくの祭りなんだから楽しみましょう」くっくっく、と笑いユスリハは粉末上の白い粉を指で救ってはテーブルに落としている。彼女にとってラグービ祭は禁薬を合法的に投与できる唯一の機会で待ちに待った日である。ああ、こいつは駄目な奴だ。とクラウチは察した。
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