第5話 怒り

数日後、私は何もしないでいた。

学校には行ったが、時に感情が動くことがなく、機械的に学校生活を送った。

一つ前の駅に行くという習慣も辞めた。

そうして一週間が過ぎた。


×××


「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


土曜日。私はベッドで泣いた。

なんの涙かと言われると困る。ただ憧れだった人に拒否反応されると泣きたくなるのは全人類共通認識となっているはずだ。

きっとその涙。


×××


しばらく泣いた。

親がいないというのはこういう時ラッキーだったと思う。

親がいてはろくに泣くことも出来なかっただろう。

しばらく泣いて私の中に変化があった。

怒りである。


なぜ拒否されたのか理由も分からない。しかし、あの水谷さんの反応は明らかに私との出会いを否定的に捉えていた。

なぜだ。二回しかあっていないのに嫌われた?

嫌われるようなことは何もしていないはずだ。

それに、ごめんとはなんだ。

憧れる対象ではないという自己評価の低さから?

説教垂れたから?


謝ったというからには何か悪いと思ったんだろう。

それは…私に対して罪悪感があったってことか。

となるとやはり説教垂れてゴメンってことなのか。


あぁぁ真相が分からん。気になる。

水谷さんのことが気になる!


決めた。


「本人に聞く!」


×××


飽きれた。

あんなことがあるからてっきりもう同じスーパーは使っていないと思ったのだが水谷さんが普通に買い物をしていた。


「えっ。」

「いや、えっじゃないですよ。」


×××


スーパーの前で「家までついていきますからね。」と私が言うと水谷さんは沈黙。しかし、意を決したのかはたまた何らかのプライドを捨てたのか、無言で歩き出した。

私も無言で彼女の後ろについていく。

しばらくしたのちに水谷さんが住まう家に着いた。あの駅に近い場所にあるマンションだった。


家についても無言を貫く水谷さんはせっせとスーパーで買った商品を冷蔵庫に入れていく。私はそれをみてついに沈黙を破る。


「私、怒ってます。」


水谷さんの手が止まる。こっちを向いた顔は悲しそうな気もするが、冷静を貫き通す目をしていた。


「なんで立花さんが怒るの?」

「なにも分からないからです。」

「…。」

「私が勝手に水谷さんの内面を想像したことに怒っているのか。なぜ謝罪をしたのか。たった二回の出会いで私が何か嫌われるようなことをしてしまったのか…考えれば考えるほど分からなくなって…。私の思考をめちゃくちゃにしたのは水谷さんですからね! 私、これでもそこそこ賢いんですからね!」


涙が眼から溢れる。何か話せば話すほど感情が沸き上がり、涙が出てくる。

この感情…。絶望を与えられたこの痛みを水谷さんに訴えるように私は思いのたけをしゃべり続けた。


ほどなくして、水谷さんは何も言わずに私を正面から抱きしめた。

「ごめんなさい。」

「それしかないんですか。」

「ちゃんと話す。」

「…このまま話してください。」

「うん」




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