第03話 綺麗なガラス玉こと鑑定玉①

 --( in 王都.王城.迎賓館第7ホール )------



 「さあ、どうぞ、こちらへ……」


 リネンに促されて、アーチ状のステンドグラス風の上部がある……高さ5mほどの両扉をくぐり抜けて、第7ホールへ足を踏み入れる。


 「これは、凄いなー」

 「おわぁー……ほへぇ~」

 「ええ、絵画さながらの美しさですねー」

 「おお……ファンタジー」


 歩きながら、俺、サクラ、ヒナタ、コトハの順で感想を述べながら付いていく。


 「お褒め頂き……ありがとうございます。フフッ。

 迎賓館内のホールなので、国内外からの来賓をもてなす場として趣向が凝らされています。

 もちろん、単独での舞踏会やちょっとした王族のパーティーにも使われ……城内では7番目の広さであり、収容可能人数は4千弱ほどとなってますね」


 リネンの誇らしげで丁寧な補足説明を聞きながら、改めて周りを見渡す。


 各階の高さは10mほど……3階まであるから30m以上で、ドーム状の天井まで吹き抜けになっている。階下を見下ろすことができるように2階と3階には……縦格子の手摺てすりがある。当然、落下防止の意味合いもあるのだろう。


 そして、俺達が入って来た出入口の向かいは、外光を取り込むためだろうか、建物を支える円柱を除けば全面ガラス張りで……外の庭園も見える。


 更に、壁や柱は、レリーフだろう浮き彫りで装飾され……細部にまでアーチ状の曲線が多用されている。全体的に丸みを帯びることで優雅さがより際立ち……気品が感じられる。


 目を奪われながら……中央部に向けて、リネンのあとを付いて歩く。


 そこには、急遽きゅうきょ用意されたのだろうか、場に相応しくない長テーブルや丸テーブルが等間隔にいくつも配置され……先に転移してきた生徒達が、グループ単位もしくはある程度の人数で何やら説明を受けているようだ。


 その中の空いている8人掛けの丸テーブルに通され……リネンから座って待つように言われ、俺達は無遠慮に腰掛ける。


 早速、彼女達3人は、楽しげに女子トークを始めた。サクラとコトハは、足をブラブラさせ……ヒナタは、相槌を打ちながら周囲を観察している。


 釣られて俺も足をブラブラしながらカイやレンがいないか視線を四方に飛ばすが、見つからない。女神の白い空間から転移する際に、既にいなかったので……俺達より先に来ているはずだが……。


 んー、スマホがあれば直ぐに見つかるのに……ないからなー。どうしようもない。まー、その内、自然と会えるでしょう。


 今更ながら気づく……スマホって、便利だったんだな。


 スマホ君に感心しんがら、キャッキャしながら楽しそうにしている彼女達を眺める。

 

 ……綺麗だなー。


 出入口とは反対側の全面ガラス張りの方から差し込んだ陽光が当たり、時折、彼女達の髪がキラキラと煌く。


 サクラは……桃色、……ピンク から ディープピンク。


 ヒナタは……空色、……ライトスカイブルー から ロイヤルブルー。


 コトハは……すみれ色、……バイオレット から ダークバイオレット。


 光の当たり方で、グラデーションに多少の誤差はあると思うが……彼女達の髪は、大体こんな感じ。


 んで、俺のは……自身の髪を親指と人差し指で摘まみ、改めてじっくりと見る。


 うーん、どう見ても……シルバー……ではない。


 どっちかと言うとホワイト系のような気もしないでもない。


 真っ白でもない。気持ち色が入ってるから……スノー色か。いや、違うな。


 んー、んー……分からん。


 1人で自身の髪色について悶々もんもんとしていると、


 「お待たせしましたー」

 リネンが1人の女性を連れて、戻ってきた。


 「お初にお目にかかりますね、勇者様。内務省総務部……宰相補佐5課……執行調整官エレナ・モンテーロと申します。ちょっと長くて堅苦しいですが……、所謂、文官ですわ」

 両手で小荷物を大事に抱え、内巻きのブラウン色のショートヘアーを揺らし、申し訳なさそうに長めの肩書きと共に自己紹介をするエレナ。


 「エレナ、そんなに嫌なら端折れば良いでしょうに」


 「えっ!んー、そうなんだけどね。リネンのようにサッパリ単純明快ざっくりと割り切れない性格だから難しいのよ……悩ましいわ」


 「ん?今、持ち上げないで……軽くディスったでしょう。油断も隙もないんだからー、もうー、悪い口は……ここかなー、えいっえいっ」


 リネンがエレナの両頬を押さえたり、伸ばしたりしてアヒル口にしている。


 「ディってないですよー……止めてくだちゃいよー……勇者ちゃまの前でーはずーですからー」


 「ふわぁわぁーエレナさん……嬉しそう」

 「お二方、仲がよろしいんですねー」

 「エレナの負け」

 2人の遣り取りに躊躇ちゅうちょなく参加するサクラ、ヒナタ、コトハ。


 「エレナとは……幼馴染と言うか……腐れ縁でしょうか」「見て……ないで……リ、リネンをちょめて……」

 抵抗するエレナを慣れた手つきで捌きながら、ヒナタの問い掛けに応えるリネン。言葉から助けを求めているだろうエレナ……挨拶した際の好印象が早速、崩壊気味である。


 リネンとエレナは、どうやら知り合いのようで……テンポの良い掛け合いをしている。因みに、力関係は、リネンの方が上のようだ。


 目の前で展開される女子5人の遣り取りを……黙って見守る。


 それから、少し落ち着いた頃合いを見計らって俺達も順番に短めの自己紹介を返した。


 その後、向かいの席に座ったリネンと立ち直ったエレナから、この後のスケジュールを簡単に教えてもらう。


 ==本日、今から=======

   ①本人登録(鑑定玉によるチェック)

   ②使用可能施設への案内

     ・宿泊施設(採寸、部屋決め)

     ・座学施設

     ・実技施設(認証カード)

     ・食堂

   ③パーティー名及びリーダー決め

   ④自由時間


 ==明日=============

   ①国王への謁見

   ②座学、実技の選択(複数選択可)

   ③自由時間


 ==明後日以降=======

   午前:選択した座学

   午後:選択した実技

   以降:自由時間


 あくまで予定であり、変更になる可能性が高いとの留意点付きである。


 まあ、座学や実技があるので放置プレイではなく、組織として俺達のことをある程度……育成しようとしていることも分かる。


 まず、最初の本人登録は、鑑定玉で表示された情報をエレナが記録していくようだ。

 因みに、その玉で分かるのは、

    ・氏名

    ・年齢

    ・レベル

    ・魔法属性

    ・ランク


 上から、氏名、年齢、レベルは……額面通りなので割愛。


 その次の魔法属性だがその適正度合によって、玉自体が発光する色の濃淡、光の強さに違いが生じるらしい。


 例えば、

  Aさん(火魔法Lv.3、適正高い):真っ赤色の大波

  Bさん(火魔法Lv.3、適正低い):淡いピンク色のさざ波

 

 説明の段階だから何とも言えないが……同じ魔法で同じレベルであっても明らかに違いが現れるみたいだ。


 これを使って、視覚的に長所を認識して効率良く伸ばしていきましょうー的な感じかなー。


 正直、ドキドキである。初めて見る魔道具もそうだが……それを実際に今から使うわけだ……自信がある訳ではないが、自身の能力がどのように現れるか非常に興味がある。

 因みに、このように組織や機関に登録する際は、鑑定玉を使用するのが一般的な遣り方らしい。まあ、『ステータス・オープン』して正直に教えろと言っても……難しいだろうしなー。少なくとも俺は一定量の情報を隠して伝える。


 でも情報不足である現時点で、所属するだろう国からプレッシャーを掛けられた上で「全ての情報を開示しろ」と言われれば、嫌だけど渋々従うしかないのだが……。


 それに、そもそも国という強大な組織だったら、情報を抜く方法を色々と持っていてもおかしくない。既に気付かない内にやられているかもしれないが、確かめようがないなー。


 思索に耽っていると準備をし終えたエレナが、


 「おッホン!……えっと、見てて下さいねっと言っても……手をこのように……鑑定玉の上に添えるだけですわ」


 リネンに乱された髪と衣類を整え……澄まし顔のエレナが、まず、鑑定玉の実演をするようだ。


 フカフカ気味のマットに鎮座している透明なガラス玉こと鑑定玉。大きさは、バレーボールほどで直径20cm程度。


 俺達4人は、興味津々に身を乗り出し……覗き込む。


 瞬く間の内に……ガラス玉の奥から光点が生まれ、次第に大きく強くなっていく。


 最終的に鑑定玉全体を覆うように複数の色で輝き……それぞれが、ゆらゆらと光で波打つ。


 ……水色の小波。


 ……淡い黄色のさざ波。


 そして、鑑定玉の上部には、投影された文字が浮かび上がって見える。

 -------------------------------------

 名前:エレナ・モンテーロ

 種族:人族(♀、20歳)

 階位:Lv.26  :G2

 -------------------------------------


 「あわぁわぁ~」

 「……キレイですねー」

 「ツンツンっ」


 若干一名ほど、感嘆ではなく触れようと行動に移している者がいるが……。


 「水色の小さな波は、スキルとして身に付いている水魔法ですのー。それと、残念ながら黄色の方は……土魔法で未取得ですわ」

 自身の魔法属性と共に揺らめく波について、端的に説明するエレナ。


 身を乗り出してコトハ同様に触ってみるが……触れることは叶わなかった。


 さざ波……波紋のように波の形に成りきっていない状態。適正はあるがスキルとして生えていないらしい。


 更に、補足として、リネンが魔法適正を判別するための大雑把な色を教えてくれた。


   火魔法: 赤色

   水魔法: 青色

   風魔法: 緑色

   土魔法: 黄色


   氷魔法: 白と青のマーブル色

   雷魔法: 白と黄のマーブル色

   光魔法: 金色

   影魔法: 黒色


   聖魔法: 白金と金のマーブル色

   闇魔法: 白金と黒のマーブル色


 なるほど、マーブル色もあるのね。うんうん、楽しみ。


 取り敢えず、鑑定玉の光や色については、何となく分かったので良しとして、次はめちゃめちゃ気になるランクについてストレートに聞いてみる。


 「エレナさんのランクは、G2で合ってますか?……因みに、それはどれくらいの強さに相当するのでしょうか?」


 「ほにゃ~」

 「ええ、気になりますねー」

 「うんうん」

 当然、サクラ、ヒナタ、コトハも気になっていたようで同調する。


 「……G2で合っていますよ。それと強さはですね……何と言えば良いのでしょうか、えーとですね……リネンよろしくですわ」


 「えっ!急に、もうーっ!……おッホン。それでは、私の方から……。まず、王都で働く文官の採用選考の一つにGランク以上とありますので……文官の中でエレナは、普通になりますね」


 エレナからの振りに意表を突かれたリネンだったが、居住まいを正し説明をし始める。


「G2の強さですが、うーん、そうですね。……私個人のイメージとしては、ゴブリンや盗賊を問題なく対処できる感じですかねーと言っても、個々で強さに違いがあります。

 極悪なゴブリンや一騎当千の盗賊など……予想以上に強いものもいますので、一概には言い切れませんが……」


 俺達4人が話についてきていることを確認しながらリネンが説明を続け……隣のエレナは、その通りと得意げに頷いている。


 その後、ランクについて、エレナが用意していた大きめの用紙に書きながら……それに俺達からの質問を交えながら説明してくれた。


 ランクはI~Uまであるようで……俺の勝手なイメージで更にまとめると、


       U :空前絶後

       R :天変地異


   S1~S7 :大厄災、超越者

   A1~A7 :災害、規格外、国の英雄

   B1~B7 :人災、人外、都市の英雄


   C1~C7 :豪傑、街の英雄

   D1~D7 :強者、町の英雄

   E1~E7 :達人、玄人、村の英雄

   F1~F7 :熟練者、上級者

   G1~G7 :戦闘に慣れ始め、中級者


   H1~H7 :非戦闘員、初心者、駆け出し

       I :Hランク未満の生きものが対象


 リネンとエレナからの追加の補足説明では、


  ・ランクは、ステータスから主として算出されている。現在もありとあらゆる機関で研究されているが、全ての解明に至っていない。


  ・スキルは、ランクに影響しないし含まれない。そのため、スキルの相性によっては、下のランクに敗れる可能性が多分にある。要注意。


  ・装備やバフは、ランクに影響しないし含まれない。


 ランクは、ステータスの包括評価ってことかな。勝手な解釈だが……、多分、間違ってないと思う。だから、強さを現す指標の一つであること、強さの全てではないことをしっかりと胸に刻む必要がありそうだ。


 想像し易いのは、相手がチートやぶっ壊れスキル所持者だった場合だ。ランク的に格下だからと余裕をこいてると……逆に、瞬殺される。うーん、この世界……ヤバ過ぎかも。


 過酷さについて自身で問答しながら、げんなりしてしまう。


 再度、自身に言い聞かす……ランクは目安……単なる目安。

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