第13話 閑話 開眼せし、床ペロの君

 --< Side:キヨシ(吉田 清) >------



 「「「おおーーーっ!」」」


 「「ヤバっ!!」」

 「「「マジ、尊敬っ!!」」」

 「あわわーー凄っ!」

 「流石、全銅のキヨっ!一味違うっ!」


 周囲では、驚愕きょうがくと称賛が飛び交っているが……耐性を得てしまった俺は華麗にスルー。……驚嘆きょうたんもあるかー。


 先程から、

   『吉田ツっ張』、

   『ブロンズきよし』、

   『床ペロきよし』、

   『床ペロの君』と変遷しながら呼ばれている。


 そして、『全銅のキヨ』……新たな呼び名が、また増えてしまった。それに、一味どころか……「二味、三味も……俺の想定を超えてるぞ!」って、声には出さずにツッコんでしまう。ちょぃ猛省。

 

 あー、学校……久々に来るものではないなー。


 別に虐められている訳ではない。ただ単に、学校へ通う意義もしくは目的が見い出せず……少しずつ足が遠のいてしまったパターンだ。


 部屋でオンラインゲームをしてる方が良かったかもしれん……シクったかー。


 まー、シクったから俺達全員、ここに居るんだろうけどなー……たぶん。


 これで、16回目が……終わりかー。目の前には、出目60の銅ダイスがある。


 分かっているが念のため、確認する。


<Dice★Challenge:スキル:取得ポイント:60>


 当然、テロップにも取得ポイント60と表示されている。残念だが間違いではないようだ。


 「……はぁーー」

 長めの溜息が出てしまった。これで何回目だろうか……。現実を認める度に溜息が出る。これはある意味、真理なんだろうな。


 差し当って、気分転換がてらに振ったダイス16回分を回想してみる。

--------------------------------------------

(ステータス・ダイス)

  1回目:銅ダイス:30

  2回目:銅   :30

  3回目:銅   :30

  4回目:銅   :30

  5回目:銅   :30

  6回目:銅   :30

  7回目:銅   :30

  8回目:銅   :30

  9回目:銅   :30

 10回目:銅   :30


(スキル・ダイス)

  1回目:銅ダイス:60

  2回目:銅   :60

  3回目:銅   :60

  4回目:銅   :60

  5回目:銅   :60

  6回目:銅   :60 ←今ここ!!

--------------------------------------------


 「……はぁーー」

 また、一つ、徳を得てしまった。このままじゃー高尚こうしょうになっちまう。いや、超えるな。


 女神に尋ねたい、「あと何回で神格を授かりますか」と。


 冗談はさておき、真剣に考えないと言っても、振るだけだけどなー。あーあ、困った。


 因みに、銅ダイスの出目、

   ・ステータスの場合: 0、12、14、16、18、30

   ・  スキルの場合: 10、20、30、40、50、60


 それぞれで、連続で最高ポイントを叩き出している……だが……銅ダイスでは、痛過ぎる。


 銅が数回出た当初は、結果を嘲笑あざわらうヤツが何人かいたと思う。さげすむヤツもいたなー。

 それが5回目を超えたところから、同情が増え……8、9回目では、応援も増えていき……10回目で喝采かっさいに変わった。


 で、現在、称賛されている。


 ステータス画面での俺の運は、


  幸運: 65(20)


 ダイスを振る前に事前に周囲の連中の会話や動向はチェックしている……ダイス結果も含めてだ。それらを踏まえ、『幸運』65は、良い方だと感じた。

 ダイス的には、金が2~3回、銀が3~5回ほど出るのではと予想を立てて挑んだが……オール銅16回と最低の流れに至っている。


 んー、なぜ?


 あれか?前日、ここ1年ほど遣り込んでいるスマホゲームのガチャ、それも大型イベントで3枚抜き……『神引き』をした反動か……。


 それなら、あーで、うーだ。嘆息たんそくしか出てこない。

 運を使うなら、今が良かった。心の底から思う……後の祭りだろうが。


 あーあ、反動かー。間違いない、反動ですな。


 「……はぁーー」


 高尚ポイントばかり、増える。そっちじゃーないんだけどー。


 俺の場合、反動が大きいだよなー。それに、極端なんだよ。「それが俺の特性だっ!」って格好良く言い切って、それに伴う能力の開眼とか……ない。現実はキツいし、もしこれが試練なら……乗り越えることが出来そうにないな。


 今までは、抽象的に『反動』と言葉で濁してきたが……『幸運』65……数値化されると色々と考えてしまう。


 今のダイスの引きは、『幸運』65ではない。たった今、『65』ならば、このような事態になっていない。なので、平均値として考えると辻褄つじつまが合う気がする。どの期間の平均なのか……若しくは誕生してからの平均なのかどうかは、サッパリわからん。そもそも、平均ではないかもしれんが……。


 取り敢えず、納得したくないが納得できる。


 俺の運を山と谷でイメージする……人よりも高い山も持っている……そして、人よりも深淵なる谷も持っている……そんな、感じ。


 現在、視界ゼロの漆黒の谷底……ですかー。這い上がれねーよ。イメージ、するんじゃーなかった。


 「……はぁーー」

 高尚ポイントが加算された……釈迦しゃかでも目指すか。腕が増えるから、多段が狙えるなー。


 気を抜くと、ついつい現実逃避してしまう……そのくらい、追い込まれている……俺。


 残りダイスは……4回。


 ここから、挽回して金ダイスが出れば、持ち直すことが出来る……スキルポイントだけだが……。ステータスポイントは、取り戻すことができない。


 周囲を見渡す……ギャラリーが増えてる感がある。まさに、『人の不幸は密の味』的なヤツかー。


 まー、爆死動画……好きだし楽しいしからな。だから、気持ちはわかる。


 ……だが、こちらが、道化を演じる側になるとは微塵も考えてなかった。


 皆の熱い視線からも「早くーっ!」的なものが犇々ひしひしと伝わってくる。急かされるのは好きではないが……、


 空気を深く吸い込む……そしてゆっくりと吐き出し……深呼吸をする。


 「17回目っ!……いざ尋常にーっ、勝負っ!」

 言葉と共に、丸い形の『開始』ボタンをタップした。


 相変わらずの……無駄に派手な演出に対して、嫌忌けんき気味になりながらも耐え……ダイスを待つ。


 周りも息を呑んで俺のダイスの成り行きを見上げながら見守っている。


 数舜し、キラーンとエフェクトが入り、ダイスが超高速回転しながら、目の前に落下してくる。


 これも相変わらずの演出である。なので、一切の動揺なし。


 で、ここからが勝負。


 粉塵の演出の影響で、目の前のダイスの種類もとい色を確認することが出来ない。


 もうちょいだ……。なので自然と声にも力が入ってしまう。

 「来い、来い……来てくれーっ!……頼む、銅以外っ!」


 そして、粉塵がサラサラッと消え去っていく……。


 そこには、光り輝く……銅ダイスが。


 「ぐぅふっ」

 あまりのショックで俺の体から空気が漏れ出た。


 「「「おおおおーーーーっ!!」」」

 「すげー、これで連続、銅17回だぜっ!」

 「まさしく、銅神様の誕生っ!」

 「「「万歳っ!……万歳っ!」」」


 新たに呼び名が増えた……『銅神』。


 ガックリと気を落としたまま、『ストップ』ボタンをタップする。


 至るところが痛い……ストレス痛だろうか、心は……分からない。ダイスの回転が緩やかになっていく。


 そして、……止まる。


 焦点が定まっていないはずだが……はっきりと分かった……出目60。


 「「「万歳っ!……万歳っ!」」」

 「「「銅神ーっ!……万歳っ!」」」

 「「「銅神ーっ!……銅神ーっ!」」」


 言葉のウェーブが起きてるが、活力に繋がらない。


 死に体のまま、18回目、19回目と挑んだが……。


 言わずと知れた結果……銅60と銅60……。


 「……はぁーー」

 高尚ポイントを手に入れた。このまま昇天してしまいそうだ。


 周囲は、『銅神』コールで熱狂している。俺のことでなければ、興味にそそられ立ち止り、一緒に観戦するのであろうが……。


 ――ピロン♪


<<新たに称号を取得しました:逆境のピエロ>>


 突然の電子音と共にメッセージログのようなものが……視界を流れていく。そして、目に留まった文言……『逆境のピエロ』をゆっくり咀嚼そしゃくする。


 ピエロかー……はっはーっ。冷笑してしまう……。


 こきろされた感が半端ない。怒りが沸々と湧きあがってくる。


 やってやる、やってやるっ!


 怒りのまま手を振り上げ、気合きあいと共に勢いよく『開始』ボタンへ叩きつける。

 「おっりゃぁーーッ!」


 粗暴な行為は、好きではないが……猛烈に怒ってるから問題ない。


 目の前のダイスは、そんな俺の怒りを嘲笑うかのように大ジャンプして消える。


 ギャラリーは、大きな声にビクッとし一旦は俺を注視するが、ダイスの方が気になるようで……仰ぎながら息を押し殺し、結果を待っている。


 そんな中、俺達の気も知らずに予定調和で、ダイスが目の前に戻って来る。


 そして、粉塵が消えた先には……。


 「きたーーっ!オール銅ーっ!」「「「おおーーっ!」」」


 「ーーーっ!」

 言葉にならない何かが漏れ出た。そのまま無気力に『ストップ』ボタンをタップする。


 止まった銅ダイスの出目は……60。


 「「「銅神ーっ!……銅神ーっ!」」」

 「「「万歳ーっ!……万歳ーっ!」」」 


 ギャラリーの皆が、俺にとっては何とも受け入れ難く嬉しくないことを称賛し、コールまで巻き起こしている。先程の怒気は……ない。気力が無くなれば、怒ることも出来ないようだ。これもある意味、真理なんだろうな。


 自然と天を仰ぎ見る。


 俺のダイスは……終わった……終わってしまった。


 「おっ!!」

 「ん?どうしたっ?」「どうしたの?」

 「あれは?」

 「「なに、何ーっ?」」「お、あれっ!」

 

 「「「んっ!!!」」」

 

 次第にギャラリー達のコールが鳴り止み、ざわつき始める。


 「「「ああーーーっ!!」」」


 周囲の大きな声にビクッと反応してしまう。いったい何があったのかと気になり、目線を下げる。


 ん?なんで?……よく見ると銅ダイスに亀裂のような線がある。いつの間に?


 すると、目の前で新たな亀裂が……更に増える。


 マジで何?……何がどうしたよ?


 現状を理解できない俺達を余所よそに、脱皮……亀裂を脱ぎ捨てるかのようにモゾモゾし始めた。


 次第に左右への揺れも大きくなり……亀裂から光が漏れ始める。


 光量の増加に比例して動きも……大胆になっていく。


 そして、再び、ジャンプした。……小ジャンプである。


 ギャラリー達も次々に反応し始める。

 「おっ、これはっ!」

 「まさかのーっ!」

 「えっ!……レア演出きたーっ!!」


 そして、光量を爆発させながら大ジャンプして……消えた。


 周囲はざわつき、興奮を抑えきれないようだ。


 俺達が仰ぎ見る中、後光が指す。更に、キラーンと輝くエフェクトが入り……その中を突き抜ける発光体……光の粒子をまといつつ螺旋を描きながら超高速で落下してきた。


 今度は粉塵ではなく、殻が砕ける散るタイプのようだ。


 そして、……演出が終わる。


 霧が払われたように……中から現れたのは……虹色に光り輝く6面ダイスであった。


 良く分からない、良く分からないが……救いのチャンスが到来したのは分かる……矛盾だらけの思考と直感がぶつかり合い、言葉にならない。

 

 虹ダイスを良く見ると……それぞれの面に①~⑥の番号が印字されている。


 遠巻きに見ていたギャラリーの内、数人が覗きに来ている……が気にしている場合ではないので、捨て置く。


 新たなテロップも表示されているので内容を確認する。

----------------------------------------------------

幸運ダイスで、下記ポイントを獲得できる。

  ①ステータス:  1,000p

  ②ステータス:  2,000p


  ③スキル  : 10,000p

  ④スキル  : 20,000p


  ⑤ステータス:  1,000p

   スキル  : 10,000p

  ⑥ステータス:  2,000p

   スキル  : 20,000p

----------------------------------------------------


 「「「おおぉーーーーっ!!」」」


 どよめきと共に、ギャラリー達が一段と騒がしくなった。おそらく覗いた者達から幸運ダイスの情報が流れ伝わったためであろう。


 二度見する。救済ダイスこと幸運ダイスの内容が凄い。そして、勝手に休憩していたもの達が働きだしのだろう……酸素が次々に送り込まれ、脳が活性化していくのが分かる。


 改めて見つめる。

 ①~⑥、どれも良いが……、現在の俺は、

  ・ステータスポイント:300

  ・スキルポイント  :600


 そのため、自ずと⑤と⑥が大当たりとなる。


 今回は、外れなしのため、そこまでは緊張しない。良い感じで肩の力が抜けているようだ。


 あー、これ、これだな。この感覚。良い引きをする時の感覚だ。


 空気を吸う、普通に吸う。体がリラックスしているから深く吸う必要がない。


 目の前の『ストップ』ボタンを……優しくタップする。


 ダイスは、回転を緩めていき……止まる。


 幸運ダイスこと虹ダイスの出目は……⑤。


 出目⑤の内容は、 

  ・ステータスポイント: 1,000

  ・スキルポイント  :10,000


 ⑤は……大当たり……俺を救い上げる番号である。視覚から入った情報が全身を巡り……身体が熱くなる。


 無意識で作ってた右手拳を……上へ突き上げ、


 「……やったぁっ!……たぁあーーーっ!!」


 今まで溜めた鬱憤うっぷんを晴らすかの如く雄たけびを上げるのであった。


 「「「わぁー--っ!!」」」

 「「「ひぇーーっ!!」」」

 「「「すげー-っ!!」」」


 「銅神様が……ダイス神に昇神されたぞーっ!」


 「「「銅神ーっ!!……ダイス神っ!!……万歳ーっ!!」」」

 

 鳴り止まない喝采とコール……今度は、悪い気はしない。


 ふー、……マジで……助かった。人心地が付く。

 

 いやーそれにしても良かったー。本当に。


 息つく間もなく健闘を称える声に、軽く手を上げながら応じる。

 

 それから次第に満足した者達から徐々にこの場から去って行く。彼ら彼女らにも当然、ダイス・チャレンジ……各々でやるべき事がある。

 

 俺の方は、入手したポイントでのステータス反映とスキル取得が待っている。

 でもそれをここでするには、気恥ずかしさある……ギャリー達の何グループかはまだ近くにいるからだ。


 どこでするかなー。ちょっと辺りを探りながらキョロキョロする。


 少し離れたとこにいた2人と目が合う……名前は知らないが顔は見たことがある。

 

 気まずいので、軽く会釈してから視線を外し……ついの棲家ではないが落ち着けそうな場所を探すのために再び、キョロキョロする。


 あの辺は、野郎率が高いなー。こっちは、女子率が高いけど……ギャル率もあるんだよなー。


 落ち着ける場所……人の気配を少なからず感じることができ、息抜きもしくは小休憩する際には、見た目的にタイプの女子を眺めたい。我が儘過ぎるか、難しいもんだな……場所探しは。


 悶々もんもんとしながら、キョロキョロしていると、先ほどの2人が近づいてくるのに気づく。


 笑顔なので警戒する必要はないか……いやいや、逆に危ないか。取り敢えず、「えっ!何~?」的な表情で対応することにする。


 そんな俺の心情を露知らずに声を掛けてくる。

 「マジ、感動したっ!」

 「キヨシの戦い……素晴らしかったよ」


 ほーほー……感想戦ですか。ならば、良し。


 それに2人は、俺の名前を知っているもよう……俺の方は、知らない。これ、参ったパターン。


 どうしようか、この事態。素直に吐露するのも雰囲気的に回避したい。取り敢えず、相手の感想を十二分に聞くことにする。内容は、俺を称える系なので、こそばゆいが……悪い気はしない。


 話に区切りがついたところで、間髪入れず……でも焦らずに……、


 「お互い、フルネームを知ってるわけではないから、改め自己紹介かな……俺は……キヨシ…吉田清」


 手をかさず、差し出す。


 俺の手を取り、ガッチリと握手しながら、 

 「俺は、ケンタ……佐藤健太だ」


 ケンタの髪型は坊主……サッパリしていてイイね。


 続いて、ソフトに俺の手を取ったのは、

 「僕は、カズナリ……鈴木和也だよ」


 細身のカズナリ……髪型は、サラサラヘアーのマッシュルームカット。癖毛くせげである俺からしたら、羨ましい。


 お、上手くいった。ふー。


 漫画の友情を育むシーンに酷似していたが……気にしたら負けだろう。


 この後、追加で各々の名前以外の簡単なエピソードを主軸に軽く談笑しつつ……ステータス反映とスキル取得やっていく。


 いやー楽しかった。それに、久々にこんなに笑ったもんだから腹筋が痛い。


 作業を終えたので、別れの挨拶をして1人で転移しようとしたら……2人から「もしよかったら、一緒に転移しないか」と誘われたので、了承する。


 嬉しかった。人から誘われたことがないから……。


 たまに登校するのも悪くないかもしれない……。


 最悪から最高には、なっていないが……少しはいろどりのある未来が歩けそうである。


 まだ至る所でダイス・チャレンジが展開している光景を背景に、俺達3人は転移するのであった。

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