第04話 感謝のステータス・ダイス
コトハが俺の代わりにダイスを振れたら良かったのだが、当然ながらそんなに甘くはなかった。後は、カイとレンにも伝えた方法を残すのみ……駄目元で挑むしかない。
上手くいけば、めっけ物だ。
「コトハ、俺の右手を右手で上から握っておくれ。『幸運』220の御利益がありますように」
コトハが無遠慮に「えいっ!」の掛け声と共に掴んできた。サクラとヒナタは、固唾を呑んで見守っている。
コトハの右手に掴まれた状態の右手を『開始』ボタン前まで持ってきて、半閉じしていた掌の中から中指を突き出し、そのままソフトにタッチ。
すると、ダイスがビョーンと上に向かって軽くジャンプする。
「おっ」
ダイスの突然の動きに、恥ずかしくも声が漏れてしまった。
3回ほど同様にジャンプして、4回目のジャンプでは、気持ち踏ん張ってからのスーパージャンプで視界から消え去った。
「わぁー、凄ーい!」
「これは、これは」
「ドーン」
既にダイス・チャンレジを挑んでいる連中の様子から想像は出来ていたが、眼前での迫力は、想像以上だった。
消え去ったであろう方向を見上げているとキラーンと煌き、超高速でダイスが回転しながら、元々、ダイスが浮かんでいた場所にドーンと粉塵と共に落下してきた。
「やり過ぎだろう、これっ」
「いやっホーぃ」
「効果音も欲しいですねー」
「最高っ」
粉塵も演出だったので、実害はないが少し引き気味の俺に対して、彼女達は十分楽しんでいるようだ。
そして、粉塵が消えさったそこには、光り輝く銀ダイスが、ぎりぎり出目を視認できる速度で回転し……手前にあったボタンは、『開始』から『ストップ』に文言が書き換わり、
「やったー銀だ~」
「綺麗ですねー」
「私が手伝った……当然、ふんすッ」
ダイスが降りてきたところで、ダイスの色が確定する訳ですねー。そして、銅ダイスの回避に成功。俺の引きでは……ないな。間違いなく、コトハの恩恵だと思う。
銀ダイスの出目:50、60、70、80、90、150
一定間隔ではないが出目150が見える。視認できるってことは、目押し可能?
速さに目を慣らすためにジーと凝視する。念のため指は、待機。コトハの右手もそのまま。
「ハルー、じーっと見ててもダメだよ」
「ん、意味なし」
サクラとコトハの言葉を頭の隅っこに追いやり、集中、集中っ。
「えーとですね。目押しで合ってます?それだったら、少なくない人達が挑んで失敗してましたよー」
「えっ!」
ヒナタの補足を反芻する。……どう言うこと?
「えぃっと」
気を緩めた瞬間に、コトハの掛け声と共に右手が押し出され、中指が『ストップ』ボタンと合流してしまった。
な、なんてコッター!!
唖然としてしまったが、そんな俺とは関係なくお約束通りにダイスの回転速度は減速していく。それと相まって、ダイスの周囲を淡く光り輝いていたエフェクトの間隔も徐々に短くなる。
そして、コロン、コロンと手前に転がる演出が最後に入り、止まった。
数値は3桁?……だよな。
<Dice★Challenge:ステータス:取得ポイント:150>
「おおっ!」
表示されたテロップにビックリしてしまったが、どうにか想定以上の結果を得ることができたようだ。
ああ、良かったー。
「ハル、150だよ~やったね」
「ハル、やりましたねー」
「……ふんすッ」
銀ダイスの出目では最高ポイントである。どう考えても、俺の『幸運』50による結果ではない。
有り難や、有り難や。
感謝の意を伝えるためにコトハに顔を向ける。距離は右手をフォローしてもらっていたこともあり、めっちゃ近い。
ハッとしたコトハと目が合った瞬間に、
「コトハ、ありがと」
「……ん」
強気が全面に出やすいコトハだが、受けは意外に弱い。感謝の気持ちを直接向けられるのは、やっぱり気恥ずかしく照れくさいようで、頬を赤らめつつ嬉しそうにコクっと頷く。
「いいなーコトハ。私もやるよ~」
遊びではないんだが、行動に移すのが早いサクラが早速、俺の右手を握りスタンバり、「まだまだ」と目で訴えてくる。
「今度は、私の力を見せるよー。出でよ~『幸運』130」
言葉の端々からもやる気十分なサクラ。
「サクラ、がんばです」
「負けない」
エールを飛ばすヒナタと、キリっとした顔で受けて立つコトハ。
俺のダイスなのだが……。
何より俺一人で振るダイスより、良い結果になることは間違いないので、早々に諦め彼女達に身を任せることにする。
「うぅー、ニャにゃーん」
可愛らしい唸り声からのニャン語に押されて、『開始』ボタンをタップ。
ダイスは、同様に飛び跳ねの飛び跳ねからの大ジャンプ。……そして、目の前から消え去る。
彼女達の話では、チェックした中には『幸運』100以上はいなかったはず。コトハの220は大概だが、サクラの130も上等なのではないだろうか。どっちにしろ結果は直ぐに分かる。
ダイスが落下してきた。案の定、粉塵が舞う。
何が来るか、固唾を呑む。
「やっほぃ、銀ダイスー……でも、金でない~」
銀色のシルエットに即、嬉しそうな反応を示したが、その後、悔しがるサクラ。
「あっ!」
そのまま『ストップ』ボタンを即、タップさせられ……情けない声がまた、漏れてしまった。
「あっうー」
「あらあら、ある意味……凄いですねー」
「残念、引き分け」
<Dice★Challenge:ステータス:取得ポイント:150>
取得ポイントは、先ほどのコトハと同値、150。
勝てると思っていたサクラは、少しがっかりしているが、銀ダイスだった時点で勝ちはないのだ……最高でコトハ150と引き分け。出目の範囲を把握してほしいが、そこはサクラにとって興味外だから……難しいだろうな。
「これから、私の真の力を見せる、ふんすッ」
体全体からオーラは……出ていないが、雰囲気を醸し出すコトハ。
「ヤバヤバだけど、私、負けない……何より勝ーつ」
対抗心を更に燃やし、勝利宣言を言い放つサクラ。バチバチっとお互いの視線をぶつけ合っているが……楽しんでる節がある。そこに、
「サクラ、コトハ……残念ですが、次は私ですよー」
2人の間を何食わぬ顔ですり抜け、俺の右手を握るヒナタ。
2人より幾らか見劣りする『幸運』90のヒナタだが、俺の50を基準とするならば、十分に高いと言える。それがダイスの結果にどのように繋がるか非常に興味深い。
現時点でダイス結果は、銀(150)、銀(150)。
俺的には好発進だと思いたいが、情報収集不足により比較対象がないため、断定できないのがもどかしい。
やっぱり、気になるなー。
「うーん……」
「ん?どうしたのっ?」
サクラからの問い掛け。
「俺的には150は、高ポイントなのだけど。実際は、どうなんだろうなーって思ったんだけど、……情報が足りなくて、判断できないんだわ」
「うーん……大丈夫だよっ」
少し溜めを作ってから、明るめに答えるサクラ。
多分だが、今のサクラの溜めは、考えてみたが解らなかった……が、何となく感覚的に問題は無さげからの大丈夫的なヤツ……だろうなー。
「メモってないので、不確かな記憶になりすが……ハルに合流するまでの間で目撃したのは……金ダイスが2回……銀ダイス6~8回……全体的には銅ダイスがほとんどだったかと。あとは、そうですねー……全て銅ダイスだったようで床に突っ張してる人もいましたよー」
俺の耳元で話すヒナタ。少し
「床に、突っ張?……床ペロかー……悲惨だな」
「ええ、周りの人達から慰められていた内容からー……恐らくは」
ここに辿り着く過程で偶発的に知りえた情報かー。情報が少ない現状において、有り難い。
今も現在進行形で、俺達も含め皆が、狂喜乱舞しながらダイスをドンドン振っているので……ダイス結果の割合は変化していくと思う。あくまで目安として捉えなければな。
それにしても、全銅こと……床ペロの君に……幸あれ。
彼女達……サクラ、ヒナタ、コトハがいなければ、俺も同様の結果になっていた可能性を拭えないため、同情の念を抱いてしまう。
結果が怖くてもやってしまうのがガチャ……今回は、ダイスだが。
で、目の前のダイスは、既に落下のモーションに入っている。
そして、オーバー気味な粉塵の演出。結果は……、
おー、銀。
「ふふ、私も銀ダイスですかー」
「ヒナタ、やったね~」
「流石っ」
気持ち安堵気味のヒナタに、称賛の言葉を投げ掛けるサクラとコトハ。
ヒナタは、二人からの声援を受け流しながら、『ストップ』ボタンをタップするため俺の右手を優しく押し出す。
ダイスの回転は、緩やかになり、……そして止まり、……出目が確定する。
<Dice★Challenge:ステータス:取得ポイント:90>
「うー、負けましたー」
「やったっ!勝ったよー」
「ヒナタからの勝利は……美味」
隠さずに悔しさを滲み出すヒナタと、素直に喜ぶサクラとコトハ。
俺のダイスで喜怒哀楽を表現し、実に楽しそうである。
この後、それぞれ2回ずつやり、最後に3人の手を……全て俺の右手の重ねてやってみた。
結果をまとめると、
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1回目:銀 :150(コトハ)
2回目:銀 :150(サクラ)
3回目:銀 : 90(ヒナタ)
4回目:金ダイス:400(コトハ)
5回目:銀 : 80(サクラ)
6回目:銀 : 90(ヒナタ)
7回目:銀 :150(コトハ)
8回目:金ダイス:300(サクラ)
9回目:金ダイス:200(ヒナタ)
10回目:金ダイス:600(全員)
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全部で、金ダイス4回、銀ダイス6回。
入手したステータスポイントは、2,210。
最高の結果だと思う。
俺一人でやってたら、良くて500を超えるかどうかだっただろう。なので、4倍の成果を得たと言っても過言ではない。
今回のことで『幸運』は少なくとも自身だけではなく、他者にもある程度の影響を及ぼすことが分かった。まー、それが無かったら、床ペロの君と同じ道を歩んでいたかもしれない。身近に『幸運』値が高い彼女達がいて……本当に良かった。
有り難い結果だけを調子良く受け入れ……影響の度合いなどの細かい事は今後の課題として頭の隅に追いやる。小難しいことは、今はスルーだ。
それしてもマジで、幸運の女神だな。目の前でいつもの掛け合いをしながら楽しんでいる彼女達を見据える。そして、遠く、僅かに様子が伺えるステージには、それっぽい自称女神もいるが……。
その後、当然、彼女達3人も楽しそうに助け合いながらキャッキャッとステータス・ダイスを振っていく。俺の『幸運』50は、お呼びでないので、傍らで
表情に出ないように必死で耐えているが心中穏やかではない……金ダイス、出過ぎじゃね?
想像以上に彼女達のパフォーマンスの高さを見せられ、思うとこは多々あるが……理不尽を含めそれが現実である。素直に飲み込むこととする。
気を取り直し、彼女達の結果をまとめると、
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(サクラ) コトハから助力有り
・金ダイス 6回
・銀ダイス 4回
・入手ポイント 2,850
(ヒナタ) サクラ、コトハから助力有り
・金ダイス 5回
・銀ダイス 5回
・入手ポイント 2,520
(コトハ) 助力無し
・金ダイス 8回
・銀ダイス 2回
・入手ポイント 3,500
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「コトハに、負けたー」
「残念ですが、そのようですねー」
「オール金……逃した」
サクラは天を仰ぐように大袈裟に、ヒナタは気持ち肩を落とし、コトハは唇を噛みしめて悔しがっているが、……俺より取得ポイントは多い。
そして、圧巻のコトハ。金率8割……俺が永遠に辿り着くことができない境地。
羨ましけど、羨ましがってばかりでは進むことが出来ないので、気持ちを切り替え、早速、手に入れたポイントの反映作業に移ることにする。
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