内緒−約束したのに−(現代ファンタジー)

女の子は最近お母さんに怒られてばかり。


「遊んだらしっかり片付けなさい」

「ほら、またここの物を動かしたままでしょう」


そんなことを言われても、女の子には身に覚えの無い事ばかり。


「お母さん、これ、私じゃないよ」そう言っても「あなた以外に誰がいるの?」と聞く耳を持ちません。


女の子はとうとう泣きだしてしまいました。


遊んだ後はいつもしっかり片付けるし、物をむやみに動かしたりしないのに。


どうして私のやった事じゃないのに私が怒られるの?女の子は悲しくなりました。


泣きつかれた後、思ったのです。


私が片付けをした後にまた散らかしている人がいるのだと。女の子はどうしても、犯人を見つけ出したかった。お母さんに「私じゃなくてこの人が犯人だよ」と言いたかったのです。



次の日から、女の子の犯人探しが始まります。


でも女の子は、どうやって犯人を探せば良いのか見当もつきません。うーんと唸って考えていると、部屋の隅からガタッと音が聞こえました。

女の子は音のした方へ目を向けます。


そこにはおもちゃ箱がありました。音がしたのはそこからのようです。

女の子がゆっくり近づくと、おもちゃ箱の中で人形が動いているのが目に入りました。


「わあっ!!」


女の子はあまりのことにビックリして、大きな声を出してしまいます。

そんな女の子に気付いた人形もまた驚いているようでした。


「あなた、動けたの?」


女の子は驚いたものの、好奇心には勝てません。人形に聞きました。


「うん。でも、おかあさんにはないしょだよ」


人形は小さな声で言いました。


人形と約束をした女の子でしたが、誰かに話したくて仕方がありません。

動いて喋れる人形なんてすごい。

誰かに自慢したい。

そんな気持ちは膨らんでいく一方です。


そして動く人形に思いを馳せている時、ふと気がつきました。もしかして、いつも自分が片付けた後におもちゃが散乱していたのは、誰かが動かしていたのではなくて、おもちゃ達が動いていたのではないか、と。

そう考えると、ちょっと怒りたくもなります。女の子はいつもそれでお母さんから怒られていたんですから。


元々、犯人が分かったらお母さんに言うつもりでした。人形との約束を忘れたわけではないけど、ちょっとしたイタズラのつもりで、女の子はお母さんに言ってしまうのです。


「お母さん、おもちゃが散らかっちゃうのはおもちゃが動くからなんだよ」


「はいはい、じゃあちゃんとおもちゃの管理してあげてね」


当然のように、お母さんは女の子の言葉を本気にしませんでした。何かの遊びの延長とでも思っているようです。


「本当なのに」

女の子は小さく呟きました。


それからというもの、部屋が散らかると女の子はお母さんに「おもちゃが動いた」と言うようになります。最初はたいして気にしていなかったお母さんも、だんだんと不気味に感じてきます。


「ねえ、その動くおもちゃって、いつもおもちゃ箱に入ってるおもちゃのこと?」


お母さんは女の子に聞きました。

女の子はようやくお母さんがちゃんと聞いてくれたことに嬉しくなって答えます。


「そうだよ!動くし、それに私、喋ったんだよ!」


女の子は大きな声で言いました。

その時おもちゃ箱があの時のようにガタッと鳴りました。それがお母さんの耳に届いたかは分かりません。


「そう…」

お母さんはたった一言、それだけでした。



それから数日後のことです。

女の子が学校から帰ってきて人形で遊ぼうとすると、いつものところにおもちゃ箱がありません。不思議に思いつつ辺りを見てもそれらしいものがありません。

お母さんに聞くことにしました。


「お母さん、おもちゃ箱は?」


「新しいのがそこにあるでしょ?」


「え?」


それは思いもよらない返事でした。

確かに新しいと思われるおもちゃ箱、おもちゃはあります。

じゃあ、今までのおもちゃはどこ?お母さんに聞きますが、なかなか答えてくれません。


「この家が、嫌になっちゃったみたい」


ようやく口にしたと思ったら、そんなことを言われ、女の子は戸惑います。


「家出しちゃったの?」


「そうみたい。だから、そのおもちゃのことは忘れて、今度からは新しいので遊ぼうね」


「うん…」


その場では返事をした女の子でしたが、夜ベッドに入って、何だかすごく悲しくなりました。

ずっと遊んでいたおもちゃがたくさんあったので愛着もあります。

家出しちゃうくらい私のこと嫌だったのかな。

そういえば動くのはお母さんには内緒って約束したのに破っちゃったな。

それが原因なのかな。




寝静まった夜、お母さんがリビングで一人、ネットを見ていました。

画面に映し出されていたのは、人形供養という文字。

「おもちゃ全般良いなら、ここで良いかな」


お母さんは小さな声で呟きました。

「本当に動くなら、早くしないと」




お母さんがそんな調べものをしている時、屋根裏部屋でガタガタと音がしました。

そこにはおもちゃ箱があります。


「やくそくしたのに」


屋根裏部屋に、とても悲しそうな声が響きました。




人形が“お母さんには内緒”と言ったのは、大人は信じてくれないから、という意味だったのか。

あるいは、不気味に思って捨てられると分かっていたのか。


だからあの人形は“お母さんには内緒”と言ったのかもしれませんね。


子供は純粋で、奇想天外なことでもすんなり受け入れたりしますが、大人になるにつれて、そういった心は消えていきます。



もし女の子がお母さんではなく、同年代の友達に話していたら、もっと幸せな結末だったのかもしれません。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る