人それぞれ (友情)
「ないわー」
その言葉は、隣でゲラゲラ笑っている友人と、目の前のテレビで繰り広げられている漫才について出た率直な感想だった。
「何が?」
友人はこちらを一瞥することも無くテレビに夢中である。
「平気でバンバン頭叩くの、ないわ」
そう、私は常々思っていたのだが、何故笑いを生み出す行為をしているのに頭を叩くという暴力が必要なのだろうか。しかも痛そうな音がする。禿げてる人なんて頭皮が真っ赤になってるの見たことある。
「そういうもんでしょ」
「そういうもん、ね」
何とも腑に落ちない返しが来た。そういうものだからって私は楽しめない。でも、実際に隣には、私が全く楽しめないものをゲラゲラ笑いながら見ている友人がいるわけだ。
「いろんな人がいるからね」
あたしみたいな、なんて言いながら一瞬こちらを見た友人は、笑い過ぎて涙が出たのか目元が薄ら濡れていた。
「そりゃまあ、そうだね」
いろんな人がいるからって頭叩く理由になる?とは思ったが、それは口に出さないでおく。別に同意の上でそういう芸風なんだろうし、イジメとかと違うってことは理解してる。少なくとも、彼女のような人にはとてつもない笑いを届けているわけだし。そして私はそんな馬鹿笑いする友人が大好きなわけだから、私にとっても間接的に必要なもんなのかな。
それにしても、だ。
「類は友を呼ぶとか言うけど、本当に私とあんた全然違うよね」
「今更じゃん?このお笑いの良さが分からないのはかわいそうと思うけどね」
「いや分からなくていいや、そこは」
これでここまで笑えるのあんたくらいだよってくらい笑っている友人。そんな友人を冷めた目で見ている私。私たちが全然違うってのはこれだけじゃなくて、むしろ同じってもの探す方が困難。それくらい性格も趣味も何もかも違う。すごく分かりやすく言うと友人はアウトドア派、私はインドア派。
「なんかさ、よく友達になれたよね」
私の言葉に友人の馬鹿笑いが消えた。
「はあ?何それ?」
「だってあまりにも違いすぎるっていうか」
「あんたさ、なんか言われた?」
「別に…」
正直、図星だった。昨日学校で言われたのだ。
“友達って言うよりも奴隷みたいに見えるよね”。
もしかしたら何の悪意もなかったかもしれない。でもだからこそ、その一言は私の心を抉るには十分なものだった。友人はクラスの中心的人物で、盛り上げ役で、いつも隅にいる私とは住む世界が違うのだ。
「自分と似てる似てないってそんなことで友達作んの?違うでしょ?」
「違う」
「なら、一緒じゃん」
友人はもう一切テレビを見ていなかった。
「あたしだってそんなことで作らない、っていうか。友達の基準すら人それぞれじゃない?だってわざわざ“私とあなたは友達です”って、そんな確認しないじゃん」
「確かに」
「例えば私が悪いことしそうな時、あんたは同調する?それとも止めてくれる?」
「え、いきなり何、もちろん止めるけど」
「ほら違う」
「だってそれ仮定の話じゃん。じゃあ逆に私が悪いことしそうな時、同調する?止めてくれる?もちろん止め」
「止めないと思う」
私は“もちろん止めてくれるよね”って言おうとしたのだ。予想外の言葉に遮られてしまったのだが。
「え?」
同調するとは言われなかった。でも、止めないと言われた。無関心ということだろうか、どんどん暗い方へ考えてしまう。
「だってそもそも、あんたは悪いこと絶対しないから」
真っ直ぐに目を見てそう言われた。
「だってこれ、仮定の話だから」
「しない」
「もしも、の話で」
「絶対しない」
こうまで頑なだともう何を言っても無駄なんだろう。
「だったら私が答えたのって、なんか信用してないみたいじゃん」
「まあ、あたしはしそうだし?悪いこと」
「えー?」
私が冗談っぽく笑えば、笑い返してくれると思ったのに、反応は全く違うものだった。
「しそうだよ、私は。弱いから、道を踏み外しそう」
「そんなことないよ。何でそんな」
「いろんな人がいるって言ったじゃん。自慢じゃないけど私、交友関係広いじゃん?本当に、いろんな人がいるんだよね」
お笑いを見てゲラゲラ笑っている彼女にだって辛い事がたくさんあるのだ。クラスの中心だからって、私と違うからって、幸せとは限らないのかもしれない。
もちろんそれは私には理解出来なくて、彼女にしか分からないもの。
「じゃあもしあんたが道を踏み外しそうな時は、頭引っ叩くね」
私はなるべく笑って言った。あんたを何か悪い方に引き込もうとしてる奴がいるなら、そんな奴頭バンバン叩いてやる。もちろん、悪い方にいこうとした友人の頭も引っ叩く。当然だ。友達ってそういうもんだと思うから。
そんな私の言葉にぽかんとした表情の彼女。笑えるくらいの間抜け面だ。
「だからそれ見てあんたは、ゲラゲラ笑っててよ」
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