第4話 女々しさの代償
ここは西暦9980年の未来。
そこに魂を召喚されたおっさんに用意されたアバターは、若い女性だった。
その理由は、女々しい性格だったからである!
「だから、それって男に言う言葉。女には使わないの。」
「え?女って言ってるのに?」
「男に対してだよ。つか、女々しかったのか、俺。」
肩を落とすマイだが、ジョーは対照的に知的好奇心をくすぐられる。
「そうだったのか。男に対して女って言うのか、その発想はなかったぜ。
なにせおまえの母国語はこの時代には滅んでるからな。」
思わず口走るジョー。
「え?そうなの?」
「ちょっとジョーさん、それは禁則事項。」
あわてた表情を浮かべるアイだったが、他のふたりは気にもとめない。
「ああ、おまえの母国、じゃっぽんだっけ?西暦2000年ごろから、その存在がはっきりしないんだよ。」
「マジかよ。俺は西暦2020年ごろから来たぞ。」
「そうか、2020年までは存在してたんだな。
だけど、西暦3000年には、すでに存在しないから。」
衝撃の事実に驚くマイ。
「うわーマジか。何があったんだ?日本列島が沈んだとかじゃないよな?」
「ああ、それなんだが諸説あって、一番有力なのが、」
「あきよし君、禁則事項ですよ。」
ふたりの会話に、アイがわってはいる。物理的にふたりの間に。
「そ、その名で呼ぶな!」
「え?あ、あ、何だって?ジョーって本名じゃないの?」
「う、うん、僕はジョーさんだよ。気軽にジョーさんって呼んでね。」
ひきつった表情のジョーだが、それは本名をバラされたからなのか、禁則事項をしゃべってしまったからなのか、マイには分からなかった。
「そんな事より、あなたのアバターの性別については、分かりましたね?」
アイはマイの方に振り向いて笑顔を見せる。
「そうだな。」
マイはその場で膝の屈伸を繰り返し、その反動で後方に宙返り。
「ほんと、思い通り動くんだよな、この身体。おっさんの身体よりいいかも。
あ、だったら一人称僕にするべきかな?」
「それはどういう意味でしょう?あなたの好きにしたらとしか、言いようがありませんが。」
「僕っ子って、かわいいじゃん!っと。」
そう言いながらマイは虚空に右脚でハイキックをかまし、右脚を宙に置いたまま、今度は左脚でハイキック。
「これ、素早く繰り返せば、空飛べそうだな。」
「それは無理です。二発目の蹴りの時点で終わりです。三発目の蹴りを放つには、腰の向きが悪すぎます。」
アイの言葉に、マイは苦笑い。
「冷静に分析しないでよ。」
「それくらい使いこなせていれば、次の段階に進めるな。」
マイの動きを見ていたメカニックマンのジョーが、何かを確信してそう言った。
「ですがジョー、マイはまだ試験に合格していません。」
前回の演習訓練、マイは小惑星帯を抜ける事が出来なかった。
「いや、今のマイなら、再試験したら合格。それこそ時間の無駄だし、早く次のステップに進もう。色々つかえてるんだぜ。」
「いいえ、マイには無理です。」
何かを確信してアイは言う。
「マイには、致命的な欠陥があります。」
「ちょっとアイ、何それ?僕のどこにそんな、欠陥が…」
思わず反論したマイだったが、その欠陥と言うのに、心当たりはあった。
「なぜ、思った通りに行動しなかったのですか?」
何かを悟ったマイを見て、アイが尋ねる。
「それは、…」
マイは言い淀む。なぜ出来ないのか、なぜその一歩を踏み出せないのか。
正しい判断に対する一瞬の戸惑い。それが全てを駄目にする。
なぜ正しい判断を信じて行動出来ないのか。
そもそもその判断は、本当に正しいのか。
この疑いは、不必要なのか。
マイには、何が正解なのか分からなくなっていた。
「はいはい、その話しはおしまい。」
気落ちするマイを見て、ジョーはつとめて明るくきりだした。
「このアバターもマイに馴染んだ事だし、あんな試験、もうマイには楽勝!さあ、次に進もう!」
本当にそれで良いのか?
アイの言う事の方が、正しい気はする。
でも、同じコースで試験をしたら、今度は完璧にこなせる自信はある。
別の状況でないと、いわゆるマイの欠陥は現れないし、克服も出来ない。
ならば、答えは出ている。
「進もう、次のステップへ!」
マイは不安を握りつぶすように、力強く、自分に言い聞かせるように、そう答えた。
アイも、そんなマイの感情の変化を感じとれた。
そう、マイにはまだ不安がある。
その致命的な欠陥は、マイの魂に刻まれている。
マイの自力での克服は、不可能だろう。
でも、マイには自分がいる。
マイの魂に呼応するために作られた高性能補助式自律型人工知能。
マイを救えるのは、自分なのだ。
アイは、自分の心に誓う。
今度こそ、マイを護る!
「で、次はどうするの?」
何かの覚悟を決めたマイだったが、次の行動は気になった。
一瞬の判断ミスが致命的な事になるような事では、ないよね?
そんなマイに、ジョーは軽く答える。
「顔合わせだよ。チームメイトとの。」
「チーム?何それ?」
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