第3話 性別を問う

 これははるか未来の物語。


 西暦9980年の世界に、西暦2020年前後のひとりのおじさんが召喚された。

 そのおじさんが、サポートAIにたずねた。


「俺、なんで女なの?」


 サポートAIのアイは、困った笑顔で首をかしげる。

「質問の意味が分かりませんが。あなたは、何をおっしゃっているのでしょう?」

 アイのその受け答えに、マイはかみつく。

「いやいや、だって俺、男だよ?これって、どう見ても女でしょ?」

「なんで今さら、そんな事を聞くのでしょう?」

 アイは相変わらず困った笑顔をくずさない。

「そりゃあ、この世界って、夢の中みたいなもんでしょ?」

「はい、魂を召喚されたあなたにとって、夢の中みたいな感覚ですね。」

「夢の中って、大抵の事がふわっとしてて、自分の名前も分からないじゃん。」

「それって、あなただけではないでしょうか?」

 アイの笑顔は相変わらずだ。

「だってこれ、俺の夢でしょ?俺基準でいいじゃん!」

「そうなのでしょうか?」

 はたはた困りはてるアイに、マイはいらだつ。

「だーかーら!なんで女なの?!俺は、男!

 しかも、何これ?どう見ても24、5じゃん。俺、40くらいのおっさんだよ?」

「ご自身の年齢も、定かではないと?」

 アイのその受け答えに、マイも少し考えこむ。

「うーん、いくつかなぁ。40越えてたような気はするんだよなぁ。生年月日も思い出せないし。幾つなんだろ?」

「でしたら、性別も勘違いではないでしょうか?」

「いや、そこはキッパリ否定する!俺は男だ。」


 そんなふたりのやりとりに、別の男性がわってはいる。

「その答えは、俺が教えてやるぜ。」

 マイとアイは、声のした方へと振り向く。

 メカニックマンのジョーだ。

 いかにもメカニックマンっていでたちで、本人は二枚目と思ってるが、実は三枚目の、実質二枚目半だ。

「ジョー、何か知ってるのか?」

 マイは問いかける。

 ジョーは右手でグッドサインを出しながら答えた。

「ああ、おまえのアバターを作ったのは、この俺だからな。」

 ジョーはそう言うと、自分自身では最高の笑顔でニヤっとした。


「え?おまえが?」

 マイはちょっとドン引きする。

「まさか、おまえの趣味って事なんか?」

「な、何を言う!」

 ジョーは即座に否定する。

「おまえの魂の波長に合わせたら、そうなったんだよ。」

「魂の波長?」

「実際今まで、違和感なかっただろ?」

「そう言われてみれば…。」


 マイは腕を回してみる。そして虚空へとハイキックをかます。

「確かに思い通りに動く。性別なんてどうでもいいほどに。

 これが40くらいのおっさんの動きか?」

 その様子を見て、ジョーは腕組みしてうつむいて、目を閉じながら言う。

「どうやら納得いったようだな。」

 ジョーは顔をあげ、目を見開く。

「おまえは、女だ!」

 そう言われても、マイは納得しない。

「まさか、精神の性と実際の身体の性が違うって言う、アレか?」

「いや、それはない。」

「はい、ないですね。」

 ジョーとアイは、バカを見るような目で否定する。


「え?あるだろ、男の身体でも中身は女って事が。」

 その言葉にジョーは、マイの肩に手をおく。

「マイ、おまえはバカだったのか?少しはまともなヤツだと思ってたぞ。」

「バカじゃねーよ!」

 マイはジョーの手をはらいながら叫ぶ。

「検索ヒットしました。」

 そんなふたりを横目に、アイが口をはさむ。

「西暦2000年ごろ、世界中ではやった現象ですね。

 動物が他の動物に混じって育つと、自分も他の動物だと思い込んでしまう現象と同じです。異性に囲まれて育つと、自分も異性だと思うようです。」

「はあ?マイの時代の人間って、バカなのか?」

 アイの言葉に、ジョーは驚きを隠さない。

「生活にゆとりが出来、生活様式の多様化で、様々な価値観が生まれたようです。」

「でも性別を取り違えるって、何それ?」

 ジョーは今にも笑いだしそう。


「じゃあ、なんで俺のアバターは女なんだよ?」

 マイは最初の質問に立ち返る。

「いいかマイ、おまえは女だ。おまえのアバターを作ったのはこの俺だ。」

 ジョーはそう言ってアイの方を見ながら続ける。

「これはおまえに言ってはいけない禁則事項なんだが、おまえの性格は」

 アイはうなずく。この禁則事項を話してもいい判断だ。

「おまえの魂の性質は、女々しい!」

「え?」

「さらに、女の腐ったような性格だ!」

「あのー、ちょっと」

 ジョーの言葉に、今度はマイがバカを見るような目になる。

「だからおまえは女だ。自信を持て!」

「つかそれ、男に対して言う言葉だから。」


 何と言う事でしょう。

 女々しくて女の腐ったような性格だったため、女と判断されたマイであった。

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