第2話 時を駆ける
ここは、とある巨大宇宙ステーション。
これより先は二十億光年、恒星系が一切存在しない。
そのため、この宇宙ステーションを中心に、満天の星空と何も無い暗黒の宇宙空間が二分して存在する、そんな風景がひろがっている。
この宇宙ステーションに存在する戦闘用転送ポッドに、ひとりのパイロットが転送されてきた。
この転送ポッドと宇宙戦闘機の操縦席はつながっている。
宇宙戦闘機に何かあれば即、この転送ポッドに転送される仕組みだ。
プシュー
転送ポッドの扉が開き、ひとりのパイロットが出てきた。
「はあ、はあ…」
パイロットは両膝に両手をつき、肩で大きく息をする。
「死んでない。俺、生きてる…。」
「当然です。そのための転送ポッドです。」
パイロットは、声のした方へと顔をあげる。
グラマラスな女。
その一言で言い表せるその女性は、宇宙戦闘機でのサポートAIだ。
つまり目の前の女性は、アンドロイドだ。
「それは分かってるけど…」
そう言って下を向く。
目をつむると、目の前に迫る小惑星が見えてくる感覚にとらわれる。
だめだ!目をつむれない!
「ああもう!」
パイロットはいらだつ。
あの時、素直に急上昇していれば結果は違っていた。
それが分かってるだけに、自分の判断ミスと、その結果自分にまとわりつくこの恐怖感に、いらだつ。
「マイ、メディカルルームで休んで下さい。反省会はその後です。」
マイと呼ばれたパイロットは、両膝に置いた両手を軽くあげ、姿勢を正して歩きだす。
「そうするよ、アイ。助けてくれて、ありがと。」
サポートAIにそう言って、メディカルルームへ向かう。
メディカルルームには、カプセル型のベッドがあるだけだ。
窓の外には、満天の星空が広がっている。
「はあ、この反対側には何も無いなんて、思わないよな。」
マイはベッドに横になると、ほどなく深い眠りに落ちた。
ここは、西暦9980年の未来。
人類は地球を離れ、広大な宇宙に勢力圏を伸ばしていた。
人類は大きく3つの陣営に分かれて、何かと争いあっていた。
脱出用ポッドの登場により、誰も死なない戦争が出来るようになった。
このため、何かにつけて争うようになった。
戦争を始めるのも、たやすくなったのだ。
しかし、問題もあった。
脱出用ポッドの先のコックピットに、誰が座るのか。
それが問題になった。
と言うのもこの時代、遺伝子解析で個人個人の才能と適正が明確になり、その才能を最大限引き出せるようになっていた。
つまり、パイロットのステータス差がそのまま勝敗の結果になった。
この結果を覆すために選ばれたパイロット。
それは、遺伝子解析以前の人類である。
つまり、過去の人間。
才能も適正もクソもなく生きていた時代の人類なら、その才能を引き出した時、その才能と関係なく過ごした経験がブレンドされ、ステータスでは表せられない成果を上げられる事が判明した。
こうして、西暦2020年前後から連れてこられたのが、マイである。
連れてくるといっても、タイムマシンで直に連れてくるのではない。
目的に見合った魂を見つけ出し、この時代に作っておいたアバターにその魂を召喚するのだ。
魂を召喚させられた者にとって、この時代は夢の中と似たようなものだった。
ひと夜の夢。
目が覚めた時には、あまり覚えていない。
そんな世界である。
こうしてこの時代に召喚されたマイであったが、分からない事だらけだった。
なぜはるか未来の人間と言葉が通じるのか。この疑問はすぐに解決した。
この時代の人間と言葉が通じるのは、チップを内蔵したハチマキをしめてるからだ。
このチップが脳の言語野に干渉し、相手が発した言葉の意味を、こちらの母国語に翻訳してくれる。
さらにこのチップはサポートAIともつながっていて、色々補足もしてくれる。情報のインストールやダウンロードも可能だ。
疑問なのは、なぜ自分が召喚されたのか。
そして、他にも召喚された者はいるのか。
これに対しては、機密事項という事で、答えはなかった。
そして今、新たな疑問が浮かんできた。
メディカルルームで目が覚めたマイは、メディカルルームから移動した。
巨大宇宙ステーションと言っても、マイが移動出来る範囲は限られている。
訓練用多目的ホールと、メディカルルームだけだった。
そしてマイが出会える人間も、限られていた。
サポートAIのアイと、メカニックマンのお兄さんのジョーだけだった。
多目的ホールのラウンジで、アイと出くわす。
「マイ、早速先程の訓練の反省会をしましょう。」
そう言うアイの言葉を、マイは手を振りながら遮った。
「その前に、ちょっと質問があるんだけど。」
「質問、ですか。ほとんどの疑問にはお答えしたと思いますが。」
マイの言葉に、アイは首をかしげる。
「いやね、今さらするような質問じゃないんだけどね、つか、最初に聞いておく事だったんだけどね。」
「はい、何でしょう。機密事項以外でお願いしますよ。」
アイは満面の笑みで質問を待った。
「俺、なんで女なの?」
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