第5話 仲間がいた

 西暦9980年の未来。

 この時代に魂を召喚されたひとりの美女型アバターのマイ。

 その魂には致命的な欠陥が刻まれていた。

 その克服は後回しにされ、マイに告げられた次の行動。

 それは、チームメイトとの顔合わせだった。


「チームメイトって、いるんですか?おれ、じゃなくて僕以外に。」

「なんで僕って言い直したのかな?」

 メカニックマンのジョーは、マイの疑問に答える前に、自分の疑問をぶつけた。

「えと、僕っ子ってかわいいじゃないですか。」

「そうか、アバターの性別を受け入れてくれたんだね。」

 ジョーの顔の表情がやらしく崩れる。

「そ、そういう事じゃないですけど、ぼ、僕の感覚に馴染んでるのは事実ですし。」

 少し照れながら、マイは答えた。

「マイ、やっぱり君は理想のタイプだ。俺が作ったんだし。

 この戦争が終わったら、結婚しよう。」

「いやどす!」

 真顔でせまるジョーに、マイの言葉が訛る。


「つか、やっぱり好みで作ったんですね、このアバター。」

 と言ってジョーの目の前で一回転するマイ。

「な、何を言う!それは君の魂に合わせて作ったんだよ。」

 ジョーの弁解に、マイは疑いの目をむける。

「へー」

「君のために作ったんだ。どう動いてくれるのか。どんな声で喋るのか。ずっと君の事を思いながら作ったんだ。

 こんな素敵な魂の持ち主なんだ。それにみあったアバターを、僕が作ったんだ。そう、早く君に会いたかった!

 ああ、やっと会えたね、マイハニー。」

 ジョーは自分で思う限りの凛々しい表情で、そう言った。

「んー、おしい。」

 それに対するマイの答え。

「僕が本当に女の子だったらキュンとくるんだろうけど、僕おっさんだよ。普通にキモいだけだったよ。」

「おっさんでなくても、キモいです。」

 マイの答えに同調するサポートAIのアイ。


「はあ、おっさんとAIには分からないか。なんであの魂が女の子じゃないんだぁ、俺のマイを返せぇ!」

「無茶言うなよ、あきさね君。」

「あきよしだぁ!って、俺の事はジョーさんって呼んでくれ!」


 ぐいーん。


 唐突に、ここ多目的ホールのひとつの扉が開いた。

 その区画に、マイはまだ行った事がない。


「いつまで待たせるんですか、みんな待っていますよ。」

 扉から出てきたこの声の主は、サポートAIのアイにそっくりだった。

 違いといえば、アイの髪の色は黒髪だが、そのアイのそっくりさんの髪の色は燃えるような赤髪だった。

「あら、ユウ、ごめんなさい。すぐ行きますわ。」

 アイは、赤髪のそっくりさんにそう言った。

「ユウ?ユウって言うの、あの人。」

 扉の奥へと帰って行った赤髪のそっくりさんを目で追いながら、マイは尋ねる。

「彼女は、人ではありません。私と同じサポートAIです。」

「つまり、僕以外の召喚者のサポートAI!」

「召喚者ではない可能性を、考えないのですか?」

「え?違うの?」

「違くはありませんが。」


「はいはい、行くぞ。」

 マイとアイのやりとりをさえぎって、ジョーが口をはさむ。

「戦争は、ひとりでするもんじゃねえ。戦争するには、仲間がいる。」

 そう言って開いた扉の横に立つ。

「中でおまえの仲間が待ってるぜ。」


 仲間。

 そんな存在について、考えた事もなかった。

 この時代に召喚されたマイは、ひたいに巻いたハチマキのチップから、この時代の情報を脳にインストールされた。

 サポートAIのアイとの出会い。

 シュミレーターによる、戦闘訓練。

 そして先日の演習訓練。

 そこに『仲間』という概念はなかった。


 部屋に入ると、まず、先程のサポートAIのユウが目についた。

 ユウの前にひとりの少女がいる。

 マイより少し幼めで、ユウと同じ燃えるような赤髪をポニーテールでたばねている。

 彼女の名前は、ユア。

 ひたいのチップをつうじ、アイが情報をインストールしてくれる。


 アイと同型のサポートAIは、他に3人いる。

 それぞれの違いは、髪の色。

 青髪と金髪と銀髪。

 そのサポートAIの近くには、ひとりづつ少女がいた。


「遅かったですね、アイ。」

 最初に口を開いたのはユウだった。

 さっきも会ったサポートAI。

 アイと同じ見た目だが、何かキツそうな性格を感じさせる。

「すみません。私も聞かされてなかったものでして。」

「アイには言い忘れてたんだ、ごめん。」

 アイに助け船を出すジョー。

「やっとみんなにも紹介出来るようになった。アイの相棒、マイだ。」

 マイに片手を向けるジョー。

 マイも、挨拶しようと思ったが、この場の空気が重く感じた。

 歓迎されてない?

 マイはそう思った。


 え?この人達と一緒に戦うの?無理じゃね?

 それがマイの第一印象だった。

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