第二話 私は頭蓋になって君を包んであげたいのです!!

 畜生ーっなのです!!

 かわいい顔したにっくきあくまに対して図らずも「ちゃん」付けしてしまったダメージから私は立ち直れないでいるのです。


 あいつの罠なのです策略なのです。

 しかーし!策士は策に溺れると相場が決まっているのです!ミイラ取りはミイラになるのです!やーい覚悟しやがれなのです!


 ……あれ?


 もしかして……この場合ミイラ取りって私のことなのです!?

 やめてぇぇぇ!なのです!

 ミイラになんてなりたくないのです!干からびて包帯ぐるぐる巻きは勘弁なのです!

 棺なんかに入れないでなのです!!暗いよ狭いよ怖いよーー!なのです!私をそんな目に遭わせようだなんて、おのれあくまぁぁぁなのです!!


 あんな子が傍にいたら君は夢中になってしまって私はフラれてしまうのです!!牛乳拭いたまま放置してしまった雑巾のように悪臭を放ちながら捨てられてしまうのです!!!およよよよなのです!!!






「じゃ、行こっか」


「はいなのです!」

 私の気も知らないでしれっと玄関へ向かう君の言葉に無条件に従う私はさしずめ犬なのです!忠犬なのです!遠くに引っ越しても匂い辿って見つけ出すのです!たとえ君がいなくなっても命尽きるまでけなげに毎日駅で帰りを待つのです!



「いってらっしゃい」


「みー」


 お母さまに抱えられた子猫が、生意気にも行ってらっしゃいと言わんばかりに鳴き声を上げたのです!


「行ってくるねー帰ってきたらまた遊ぼうねー」

 

 君は子猫の頭をなでなで……。な、なでなで……!頭なでなで!ずるいのです!私もされたいのです!欲しがりさんなのわかってるのです!わかってるけどやめられない止まらないのです!!

 それに!帰ってきたら遊ぶなどと!許せないのです!!夜に遊ぶなんて、あくまに何をされるか分かったもんじゃないのです!きっといやらしーこと考えているに違いないのです!!あーんなとこやこーんなとこをぺろぺろされたりしちゃうのです!ちくしょーやらせろ!……もとい、この私の目の色の黒いうちはさせないのです!!

 そのためには寝ずの番が必要なのです!それどころか帰ってきてはいけないのです!!!今夜は宿屋にお泊りしてやるのです!やましいこと考えてないのです!あくまで防衛措置なのです!って明日は学校なのですぅぅぅ……。

 でもでも指一本君に触れさせないのです!いやらしーことした後で君が油断して眠っているうちに君の魔力が豊富な体を乗っ取る算段なのです!!さかしいあくまなのです!

 などと危機を感じる私は君に撫でられる猫を睨みつけていたのです。すると、こともあろうにそれを君に気付かれたのです!!


「やっぱり撫でたいんでしょ?」

 誤解なのです!

 ゴカイは気持ち悪いのです!魚を釣るためとはいえあんなの手でつかんだりするのは考えられねーのです!!

 触れたら私までも子猫の魔力につかまってしまいそうなのです!視線をかわしただけで分かったのです!魔物使いテイマーなめんじゃねーよなのです!

しかーし!君からの提案となると断れないのです!!


「はい、どうぞ」


 私が脳内激しく対話している隙にお母さまが子猫を抱いたまま寄ってきてくれたのです。お母さまいい匂いなのです!クンクン吸ってしまうのです。はーフローラル。なのです!!


 おっと本題はこの小さなあくまなのです!この試練を乗り越えなければ君とのルンルンデートはお預けのままなのです!!腹をくくるのです!こんなの、ほんの一瞬ひと撫ですれば終わることなのです!目にも止まらぬ電光石火の早さで子猫に向かって手を出す……気持ちでいたのです!!なのに実際は牛歩よろしくあくまの頭へおずおずと手を伸ばしているのです。その手は若干震えているのです!!怯えてはならないのです!勇気を振り絞るのです!




そー……。















 ぴと












 すり












 スリスリ







 ぬわー!!子猫のほうから私の手に頭を擦り付けてきたのです!

 はわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!

 想像を絶する肌触り!!なんて破壊力なのです!!卑怯なのです!!反則なのです!!

 こびおって!媚おってなのです!!でもでもかわいいのです!!!かわいいのビッグバンなのです!!宇宙のカワイイ全員集合なのです!!


「あー、猫のほうからスリスリしてるー。いきなり懐かれてるね」


 懐かれるとかそんなはずがないのです!!


「あらあら、顔が赤くなってるわよ」


「かわいいから仕方ないよね、わかるわかる」


 ぎぎぎぎぎぎ、悔しいのですー!!

 見習いとはいえ仮にも魔物、魔獣を使役する魔物使いテイマーである私なのです!それを逆に魅了してしまうとは只者ではないのです!

いや待て!もしかしてこの猫の備えている魔力は強大なのです!だから魔物に慣れている私でさえ魅了されたのです!そうに違いないのです!!きっと百年に一度、いや千年に一度、いや創世期以来の逸材なのです!宮廷魔術師を目指す君にぴったりなのです!!


 ……あれ?






 ……どうして私はこやつを認めてしまっているのです!?!?!?!?!?












「いってきまーす」

「いってきますなのです……」


 動揺から立ち直れないまま出発なのです。キミと子猫を引きはがすことができて嬉しいはずなのになんだかモヤモヤするのです。


「んー。いい天気だなぁ」


 玄関を出て歩き始め、んーと伸びをする君なのです。そんなに伸びをするとおへそがチラリのチラリズムなのです!セクシーなのです!見たいのです!凝視してしまって目が離せないのです!

 あ!すべすべなお腹ちょっと見えたのです!!!眼福なのです!ラッキースケベなのです!幸先いいのです!!


 肥しを与え終わった眼で名残を惜しみながらも凝視をバレないうちに視線を君から空へと移すのです!雲少しある晴天なのです!少しくらいは無視なのです!人間は8割曇るまで晴れと認識するのです!青空の勝利なのです!

 今の時期は俗に言う秋なのです!!新年から数えて11番目、収穫と豊穣の月に入ったばかりなのです!この時期は各地で収穫祭が行われるのです!それが終わると冬がやってくるのです!今は薄着の君も冬になったら肌の露出が減ってしまうのです!だから今のうちに目に焼き付けておくのです!!


「名前何にしようかな」


唐突に君が言うのです。




 

なまえ……?





 あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





 名前を名乗っていなかったのです!

 作者が考えてなかったから名乗るに名乗れなかったのです!!ド畜生!!



 「野ウサギと木漏れ日亭」と世界観が同じならば名前が色にちなんでいるべきなのです!!それなのに考えてなかったのです!!短編だからと手を抜こうとしていたアホ作者なのです!!





















 あっ!


 うそなのです!怒らないでなのです!!ここで打ち切りとかされたら困るのです!!ちゃんと最後まで書いてほしいのです!!できれば私が結ばれるハッピーエンドがいいのです!!!


「ねー、誰と話してるの?」


 君が不思議そうに尋ねてくるのです!口に出して無いはずなのに何やら聞こえてしまっているようなのです!!


「誰でもないのです!何でもないのです!異世界と交信してるのです!!気味の悪い独り言だと無視しててほしいのです!!」


「へんなのー」


 言いながら君はケラケラと笑うのです!!超かわいい笑い声と笑顔なのです!その笑顔を私は生涯守り続けたいのです!!例えあくまに魂を売ろうとも!!

 あれ……?あくまはあの子猫なのです!!やつに魂を売り渡したら君を奪い取られてしまうのです!!やっぱり魂は売らないのです!!プライスレスなのです!取引不可なのです!!


 なんて話しているとまた君に勘づかれてしまうのです!手短に行くのです!!

 私の名前はリコットなのです!!!!やわらかい黄赤アプリコット色の髪をしたツインテール美少女のリコットなのです!ツインテールは二刀流なのです!!

 あ!!!!名前をプリコとか予想したやつだれなのです!!怒らないから手を挙げるのです!!いたなー!廊下に立ってろなのです!!そんな恥ずかしい名前はお断りなのです!


 前編読まずにここから読みだすなんて不届きな輩なんていないと思うのです!でも、念のため自己紹介なのです!

 私は大陸魔法協会が設立した魔導学園マジックアカデミーで魔物使いテイマ-科を履修中の美少女なのです!クラスメイトにつけられた二つ名は“空回り真空破”らしいのです!誰だそんな名前つけやがった奴はなのです!!空回ってるとか余計なお世話なのです!!




 そしてそして!一緒に歩いているカワイ子ちゃんは私の自慢の幼馴染なのです!同じ魔導学園に通い魔導士ウィザード科で宮廷魔術師を目指しているのです!育ちが良くって博識なのにマイペースで癒されまくりなのです!!そんでもって非常に鈍感で私の溢れ出る思いに全く気付く気配が無いのです!でも避ける素振りはないので私は付きまといまくりなのです!!

 左にまとめたサイドテールがチャームポイントなのです!サイドテールのいいところは隣に立って何気ないふりして髪の毛の匂いをクンクン嗅げることなのです!左にまとめているのは右だと利き手で邪魔になるからだそうなのです!後ろにまとめる発想はないみたいなのです!!さすが天才は一味違うのです!時々気が付かれないように毛先舐めたりはむはむしてるのは内緒なのです!!日によってフローラルだったりボタニカルだったり味が違うのです!きっとシャンプー変えてるのです!!


 そんな君の、君の生足……じゃなかった君の名前は、

 名前は……








 だーーーーーーー!!!!!!

 尊すぎて口に出したら死んでしまうのです!!!!

 君は君なのです!!王家お抱えの宮廷魔術師見習いなのです!未来の王様のブレーンなのです!脳ミソなのです!右脳か左脳かなのです!うーん、感性が豊かだからきっと右脳なのです!場所で行ったら……うーん、新皮質?前頭葉?辺縁系?海馬?ノーなのです!きっとたゆたう髄液なのです!!私は頭蓋になって君を包んであげたいのです!!どぅふふ、君の髄液どんな味するのです……!


 はっ!?先が2本に割れた蛇のような細長い舌で脳ミソをすする魔物に成り下がるところだったのです!とととと、とにかく、君の名前は人に知らせたくないのです!!宮廷魔術師になった暁には王都中の有名人になるのです!だから今だけでも独り占めしたいのです!

 否!今だけじゃなくて、君をずーっと私だけのものにしたいのです!「……ット」私のものなんて言い方もおこがましいのです!君のほうがご主人様なのです!「……コット」結ばれるなんて高望みしなくとも私のことを召し使ってくれるでもいいのです!おそばにおいててほしいのですーーーー!!

 あーでもでもでもでも私のこと召し使うなら一生独身でいてもらわないとなのです!他の人になんか渡さないのです!!



「ねー、リコット?さっきからどうしたの?」


「はひっ!?どどどっどどうしたのですご主人様!?!?」


「え?」



「……は?」


「今なんて言っ「ないないないないにゃいないないないないなんでもないのです!!!」

 やばいのです!!心の声が漏れたのです!お漏らしなのです!おなら出すつもりが勢い余ってぶりっと身が一緒に出てしまったやつくらいやばいのです!!

 でも私は知ってるのです!!君はおトイレなんか行かないのです!うんちなんてばっちいものでるはずがないのです!!!!ちなみに私は毎朝快便なのです!!

「今のは空耳なのです!!ご主人様とか言うはずないのです!!ゴブリンざまぁって言ったのです!!さっき通りの掲示板で南方のゴブリンの巣が退治されたっていうのを見たのを思い出してたからなのです!!」


「??そう、なんだ?さっきからボーっとしてるようにみえるから具合でも悪いのかなって思って」


 きゃーーーー!!心配してくれてたぁっぁあぁぁ!!うへへ……。顔が熱いのです。ニヤニヤが止まらなくて変な笑い声が出てしまうのです!!



「ねぇ、とんでもない表情になってるよ……?」

「き、気のせいなのです!そ、それで、どこに行く予定なのです?」


 ひ、引かれているのです!緩んでしまいそうな表情筋に全力を注いで両手で全力で引っ叩いて真顔をキープ、終盤のジェンガみたいにプルプル震え崩壊寸前でこらえているようなポーカーフェイスで君に行き先を尋ねたのです。


「うーんと、今日はね。子猫の餌でしょ、おトイレの練習しなきゃだから室内に置けるような消臭の魔法がかかった猫砂でしょ、猫草でしょ、爪とぎガリガリできる専用板でしょ、おもちゃでしょ、あとは……」


 あーあーあーあーあーあー!!!!!!!!!!こりゃatamanoあたまのnakaなかが ga kanzennniかんぜんに猫一色なのです!!

 せっかく引きはがしたのに洗脳が全く解けていないのです!!






 こうなったら!!デート中に私の魅力を10000%あぴーるしなくてはなのです!!!負けるつもりはないのです!!勝負は勝つためにあるのです!!!

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