第6話「協力しよう」
正木と国雄は辺りを警戒する。メールで数人のクラスメイトの死亡を確認している。中には誰かに殺害された者もいる。ゲームを終わらせるために犯行に及んだのだろう。
「いずれ俺らも殺されるだろうな」
榊が踏み散らされた落ち葉を眺めながら呟く。
「俺らが殺されたら、ゲームは終わるんだよな? もし俺らが犯人ってことになってたら」
「あぁ」
「正確には犯人は俺だろう。俺が主犯格だからな」
榊、正木、国雄の三人は江波のいじめに関与している。主犯格は榊だ。もし剣崎が榊を犯人として設定し、このゲームを仕掛けていたら、榊が殺されるとゲームは終了となる。
「榊、これからどうすんだよ」
「決まってる。このまま生き残りが俺らだけになるまで隠し通すさ。死ぬのは御免だからな」
剣崎は江波を自殺に追い込んだ犯人をこの上なく憎んでいる。もし犯人が判明すれば、間違いなく死の制裁を下すだろう。
「俺は覚悟はできてる。お前らはどうだ?」
「……やるさ。ここまで来たらやってやる」
「どうせ俺達も犯人みたいなもんだ。剣崎の奴に知られれば殺されちまう」
正木と国雄も榊に協力することにした。
ガサガサッ
「……!?」
「そこの茂み、誰かいる」
近くの茂みから物音が聞こえた。
「正木、行ってこい」
「お、おう……」
正木は茂みの奥へと確かめに行った。
「ところで榊……」
「何だ?」
「もし生き残りが俺達だけになったとして、その後はどうするんだ? 剣崎の話では、タイムリミットを過ぎたら全員殺されるんだろ?」
「……」
ザッ ザッ ザッ
「誰もいなかったぜ。……ん? どうした二人共」
「打つ手なしかよ……」
榊は頭を悩ませた。自分が犯人である以上、どうしてもこのゲームから生きて脱出するのは不可能だ。
ザッ ザッ ザッ
「嘘でしょ……」
風紀は暗い森を走る。近くの茂みで用を足すために、一緒に行動していた愛奈と一旦離れたところ、偶然榊達の会話を聞いてしまった。話を聞く限り、彼らが犯人のようだ。
「榊君が……犯人……」
榊は正木と国雄以外のクラスメイトとあまり関わりがなかった。風紀は話したこともない。怪しく思ってはいたものの、その疑いは更に強くなった。
「おかえり、風紀」
「た、ただいま……」
「どうしたの? 何かあった?」
「な、何でもない!」
今はまだ榊の件を隠しておくことにした風紀。臆病な愛奈を不安にさせないためだ。それに、まだ可能性の話である。ただ話を聞いただけで、それが正しいかどうかを決める確証がない。
「私達、どうなるんだろ……」
「大丈夫、きっと誰かが助けてくれる。そうだ、結希を探しに行こ! 今はまだ無事みたいだから」
風紀は愛奈を支えながら結希を探し始めた。結希達とは元々修学旅行の自由行動で同じグループだった。少しでも大人数で行動していた方が心強いだろう。二人はまだ希望を諦めずに歩みを進めた。
* * * * * * *
「みんなのところへ……?」
「そう! みんなで話し合えば、きっと犯人も見つかるわ!」
「嫌だ……ここを離れたくない!」
洞窟を出た私、結希、仁君の三人は、別の洞窟でうずくまっていた
「私は危険な目に遭いたくない! ここから離れない!」
柚ちゃんは頑なに立ち上がろうとしなかった。彼女もゲームの恐怖に囚われて動けなくなってしまったようだ。結希は頭を悩ませた。
「参ったわねぇ」
「……」
私はうずくまっている柚ちゃんに静かに歩み寄った。しゃがんで彼女の頭を撫でる。説得は無理そうだ。ならば、せめて今は少しでも怖い思いを取り払ってあげなくちゃ。
「わかった。私達で何とかしてみる。ここにいてね。後で必ず助けるから」
「……ありがとう。ごめんね」
弱々しい涙声で答える柚ちゃん。私達は彼女を洞窟へ置いて先を目指した。
「みんなどこにいるんだろう……」
「やっぱり私達が行くより、みんなにこっちに来てもらう方が早いわよね」
「あぁ、メールが使えれば集められるんだがな……」
私達が持っているスマフォは、先生が開発したゲーム専用のスマフォにすり替えられていた。メールシステムがあるものの、剣崎先生から一方的に送ることしかできないようだ。
役に立てそうなものといえば、島の地図が見れるのと、時刻や生存者の人数、ゲームのルールが確認できる機能くらいだった。
「ん? あの子……」
森の一本道の奥に、誰か立っているのを見つけた。私達は慌てて走り出す。
「あっ、矢口さん!」
彼女はクラスメイトの
「矢口さんも無事だったんだね」
「まぁね」
矢口さんは塩らしい態度で応える。表情を一切崩さず、何を考えているかわからない。
「ねぇ、みんなを集めるのに協力してくれない?」
「……なんで?」
「みんなで話し合って、犯人が誰かを突き止めるのよ。協力してちょうだい」
「悪いけど、自分達だけでやって。私は協力しない。危険を犯して死にたくないもの」
矢口さんはそっぽを向いて歩き出した。
「で、でも……今はみんなで協力し合ってこの事態を……」
「私は一人でも大丈夫だから。じゃあね」
「え……あっ、ちょっと!」
矢口さんは森の奥へと逃げるように走り去っていった。彼女もクラスメイトとの馴れ合いを好まない性格のようだ。実際私も今まで一度も話したことはない。彼女は普段学校でもおとなしそうにしている。
結希は再び頭を悩ませた。
「んもう! なんでみんなあんなに非協力的なのよ!」
「警戒してるんだろうな。平気で殺してくるかもしれないと不安になって」
「うーん……」
みんなが集まって慎重に話し合い、犯人を割り出せれば、これ以上犠牲者を出さずに済む。今必要なのは協力だ。なのに、みんな必要以上に警戒して話を聞いてくれない。仕方ないか、実際に死者が出てるんだもん。
森の隙間から差し込む光が徐々に赤くなっていく。もう夕方だ。
「今日はここまでか……」
仁君がスマフォで時刻を確認している。私達は元の洞窟へと引き返す。結局、今日会ったクラスメイトの中で、協力してくれる人は一人もいなかった。事態が何一つ進展しない。
私は結希と体を寄せ合いながら、凍える夜を乗り越えた。きっと生き残った生徒達も、恐怖に耐えながら森の中でそれぞれ寝床を確保し、眠りについているのだろう。
* * * * * * *
指令室で生徒達の動向を監視する剣崎。腕時計で時刻を確認する。
「全員寝たな。一日目終了と」
一日目の死者は、抽選で選ばれた者を含めると三人。物足りない気がした剣崎だったが、これからの生徒達の戦いに期待した。
着々と一日に一人選ばれる犠牲者を重ねていけば、生徒達は心の余裕も無くなり、簡単に殺人に手を染めていくだろう。
「明日は誰が死ぬのかな……ククッ、楽しみだ♪」
剣崎は自前のタブレットで、生徒の顔写真一覧を眺める。死んだ者にはバツ印を付けている。そして、マル印を付けた犯人の写真を凝視しながらニタニタと笑みを浮かべる。
「江波を殺した罪の重さ、精々味わうんだな。犯人さんよぉ」
犯人に仕掛けた盗聴機からは、すやすやと安らかな寝息が聞こえてきた。
* * *
生存者 残り21人
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