第5話「消える命」
ザッ ザッ ザッ
「お?」
「うわぁっ! ……て、何よ、文夫じゃない。びっくりしたぁ」
「野口、菊地……」
文夫は木の下で休んでいた
「こんなところで何してんだ」
「隠れてるのよ! メール見たでしょ? 遥が殺されたのよ? クラスメイトの誰かに!」
「やる気の人がいるんだよ……いつか私達も本当に殺されちゃうよ……」
早矢香は涙を流して泣いた。クラスメイトが一人殺されたという恐ろしい事実に怯えていた。
「何とかして犯人を突き止めて、終わらせるしかないわね」
「無理だよ……犯人を見つけるなんて。誰が江波君を自殺に追い込んだかなんて、今更わからないよ。どうやって見つけるつもりなの?」
「みんなと話し合う……とか……」
「みんな協力してくれるわけないよ……犯人だって正直に話すわけないし」
「でも、このまま隠れ続けてるわけにもいかないでしょ!?」
不毛な言い争いを始めた智江と早矢香。智江は何かと頭に血が昇りやすい性分だ。弱音を吐き散らす早矢香にイライラする。文夫は争いを止めるために、口を開いた。
「一つ方法があるぜ」
「え?」
「一か八かの賭けだがな……」
「チョコうま~♪」
「極限状態の時に食べるものって、すごく美味しいよね」
「お前ら呑気だな……」
詩音と結希、仁の三人は洞窟に隠れながら、私物として持ってきたお菓子を頬張っていた。元々は詩音と結希がホテルの部屋で行う夜の女子会用に用意していたものだ。
「楽しいこと考えてないとやってらんないよ」
「そうだね。こういう時こそ前向きにならなきゃ」
「フッ……そうだな」
腹ごしらえになるものがお菓子しかないが、三人はしっかり食べて力を付けた。体力が無くなってはこの先危険だ。
ピロンッ
詩音達のスマフォがバイブした。剣崎からメールが送られたようだ。三人は恐る恐る開いて読んだ。
『お前ら元気に
「え?」
「犠牲者!?」
詩音達は剣崎が言っていたことを思い出した。一日に一人、正午に抽選で犠牲者を出すと。ゲームを盛り上げるためだと、ふざけたことを言っていた。何とも理不尽な仕打ちだ。
『厳正なる抽選の結果、選ばれたのは…………19番、
「……え?」
森の散策をしていた与一は足を止める。スマフォを持つ手が恐怖で震える。
「嘘だろ……俺……死ぬの?」
『今から使者を送り、そいつに殺してもらいま~す。与一、残念だったな。来世はもっと運のいい人間に生まれることを願うよ』
「嫌だ……誰か……助けてくれ……」
与一は森を駆け回った。必死に仲間を探した。しかし、目の前に広がるのは相変わらずの暗い森の風景ばかり。誰も見当たらない。呼吸が足を進める度に荒れる。
「あっ!」
与一は走るスピードを上げた。ようやく人を見つけた。影に隠れてはっきりとは見えないが、あの人に助けてもらおうと考えた。
「た、助けてくれ! 俺まだ死にたくないんだ!」
与一は足を止めた。
「お、お前は……」
バァンッ!
《19番 西岡与一 死亡、残り22人》
「え? 何今の……銃声?」
ピロンッ
スマフォのバイブだ。再びメールが届いた。咲はスカートのポケットにしまっていたスマフォを取り出す。
『19番 西岡与一 死亡。残り22名。さっきのメールの通り、本日の犠牲者として殺された。何となくわかったよな。こんな風に毎日正午にランダムで殺す奴を選ぶ。明日は誰が選ばれるのやら……。あ、ちなみにまだ犯人はお前らの中にいるぜ。犯人探し頑張れよ~。そんじゃあな』
「嫌だ……嫌だ……」
咲の体が何者かに取り憑かれたように震える。次第に大きくなっていく。先程の銃声と与一の死亡の知らせ。二つが重なり、咲の恐怖が頂点に達した。
「嫌だぁぁぁぁぁ!!!」
咲は走り出した。彼女はC組の中で随一の臆病者だ。ゲームが始まってからずっと涙を流し続け、恐怖に怯えながら森をさ迷っていた。それでも、きっと誰かがゲームを止めてくれると信じ、わずかな希望を胸に抱きながら我慢し続けた。
しかし、その我慢ももう限界だった。もはや希望は残されていない。
「もうダメだ。みんなここで死ぬんだ。私もいつか……だったらいっそ……」
ザァァァァ……
断崖絶壁までやって来た。ここは本当に離れ小島だったようだ。咲は荒れ狂う波を眺める。
「最後くらい……勇気を出して前向きに頑張りたかったなぁ……」
ダッ
咲は最後に勇気を出して海に身を投げた。
《10番 北見咲 死亡、残り21人》
「咲ちゃん……」
咲の死亡報告のメールはすぐさま届いた。スマフォの液晶画面に詩音の涙が落ちる。
「西岡君だって……何の罪もないのに……どうして……どうしてなの……」
詩音はいたたまれなくなった。何の罪もない人の命が、こうも次々と亡くなっていく現実が。
「こうして順調に減らしていって、残った者への心の負担を大きくしていってるんだろう」
仁が冷静に分析する。こんな状況でも相変わらず頼もしい。それに比べて自分はどうだろう。ただ仲間の死に嘆いて、涙を流してばかりで何もできない。詩音は無力な自分に絶望した。
「詩音」
「結希……」
結希は詩音の顔に手を当て、涙を拭う。
「決めたでしょ。私達で絶対ゲームを止めようって」
「……うん」
結希の手はまだ温かかった。詩音は自分で涙を拭き、立ち上がった。こうして泣いてばかりいても仕方ない。今ここにいる間にも、クラスメイトの誰かの命がどこかで消えようとしている。
「まずはみんなと合流する必要があるな」
「みんなと話し合うってこと?」
「あぁ。安易な考えだが、これ以上犠牲者を出さないためにはそれしかない」
「そうね」
詩音は結希に支えてもらいながら進んだ。
「行くわよ、詩音」
「うん!」
詩音は重い足を引きずるように歩んだ。
“みんなを助けるんだ!”
詩音、結希、仁は洞窟を出た。
* * *
生存者 残り21人
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