第八章・私の全部をあなたにあげます。きっとこの為に私はあなたの親になったのでしょう。3
「貴様、ブレイラに何をした!!!!」
ハウストの膨大な魔力が放たれました。
しかし先代魔王も同時に魔力を発動し、攻撃を弾き返してしまう。
「ハハッ、見てのとおり可愛がってやっているんじゃないか」
「はっ、あ……んっ」
後孔を犯していた指が引き抜かれ、ビクビクと体が反応してしまう。
背後から腕を引っ張られ、うつ伏せになっていた体が強引に起こされました。
そして背後から腰を抱かれ、ふらつく足で無理やり立たされる。
先代魔王は私の顎を掴み、わざと顔がハウストに見えるように固定しました。屈辱と怒りを煽る趣味の悪さに嫌悪がこみあげます。
「ハウスト……」
「待ってろ、直ぐに終わらせる」
ハウストは闘気を立ち昇らせながらも、私を見て優しく目を細めます。
それだけで少しだけ体が楽になったような気がして、私も頷いて答えました。
しかし、そんな私たちを嘲笑う者がいる。
「涙ぐましいじゃないか、ますます引き裂きたくなるというものだ。久しぶりだなあ、ハウスト」
「ブレイラを離せっ」
「久しぶりにあった父に挨拶も無しとは情けない。その生意気な態度は十年前から変わらないようだな」
「貴様のような男を父と思ったことはない!!」
「酷いことを言うじゃないか。まあいい、私も叛逆した貴様を殺してやりたいくらいだ」
「それは俺のセリフだ! 今度は封印だけでは済まさん!!」
ハウストは大剣を出現させて先代魔王に切りかかります。
それに合わせてジェノキスも動き、連携して攻撃を仕掛けました。
しかしそれでも先代魔王に届かない。
「フハハハハハッ! この世界で唯一神に近づいた私に、お前たち如きが勝てるわけがない!! そこで世界が破滅するのを見ているがいい!!」
ドンッ!! 先代魔王の魔力が放たれました。
その威力だけでハウストとジェノキスの攻撃を跳ね返します。
「クソッ!」
「うわっ!!」
二人の体が壁に叩きつけられ、更に放たれた第二波によって無防備のまま攻撃を受けてしまう。
「ハウスト! ジェノキス!」
私はふらつきながらも二人の元へ駆け寄ろうとしましたが、それが許されることはありませんでした。
「他人の心配をするとは余裕だな」
「やめっ、うっ」
先代魔王はひどく楽しげに言うと、背後から私の耳に顔を寄せてくる。
顔を背けても顎を掴まれて引き戻され、頬から耳にかけてべっとりと舐められました。
「ひッ、うぅ……」
あまりの不快感に悪寒が走りました。
身じろいで逃げようとしても脱力した体ではままならず、ハウストの目の前でされるがままです。
唇を噛んで背筋を震わせた私に先代魔王はせせら笑いました。
「その嫌がる顔が快楽に悶えるのを見るのが最高の悦楽だ。せいぜい私を楽しませてくれ」
私の耳元で愉しげに囁き、ハウストを挑発します。
「ハウスト、お前もそうは思わないか? なかなかいい声で鳴いてくれる」
「貴様だけは絶対に許さん……っ!」
「私が私のものをどう扱おうと貴様には関係あるまい。この人間はもうすぐ完璧な神の器となり、身も心も私のものになるのだからな」
「神の器だと? どういう意味だ!」
先代魔王の言葉にハウストが険しい顔をします。
「この人間は神の力を入れる器。もうすぐこの人間の中で力の融合が終わる。融合が終われば心を失くし、私に神の力を未来永劫供給し続けるだけの人形となるのだよ」
「そんな事が許されていいものか!!」
激昂したハウストが先代魔王に向かっていく。
先代魔王もすかさず応戦したが、それを読んでいたハウストが隙をついて反撃しました。
ハウストの大剣と先代魔王の魔法が衝突し、凄まじい衝撃波が広がります。
しかし互角かと思われたその時、「うぅっ!」私の体が熱くなりました。
それと同時に先代魔王が更なる魔力を発揮し、ハウストが弾かれて床に叩きつけられる。
「ハウスト……っ、ぅっ、う……っ」
ハウストの元へ行きたいのに、さっきより体が熱くなっています。指先一つ動かすのも億劫なほど体が重い。
「ハウストよ、そんなに怒るんじゃない。心配しなくとも、この人間が人形になってもちゃんと可愛がってやろう。神の力を持った人形とは素晴らしいじゃないか!! だから安心して死ぬといい!!!!」
先代魔王が魔力を高め、光弾を無差別に放ちました。
部屋を埋め尽くす光の弾丸。無差別攻撃は部屋中に降り注ぎ、その光景に私は叫ぶ。
「イスラ! イスラ!!」
光弾の雨の中でイスラは気を失ったままです。
このままでは流れ弾に当たってしまう。
お願いだから目を覚ましてと必死に叫ぶ。
「目を覚ましてくださいっ、早く逃げてください!! ああっ、イスラ!!」
無差別攻撃の中、一発の光弾がイスラに直撃するかと思った時。
寸前でハウストが気を失っているイスラを庇い、光弾を弾き返しました。
そしてイスラを抱き上げて光弾の雨から守ってくれる。
「良かった……っ」
そしてようやく攻撃がやむと部屋は瓦礫に埋もれていました。
圧倒的な魔力を手にした先代魔王は満足気に瓦礫を見回す。
「フハハハハハッ、いい景色になったじゃないか! 私の力はまだまだこんなものではないぞ!」
そしてまたも魔力を高めましたが、ハウストとジェノキスが同時に呪縛魔法を発動しました。
二人が出現させた魔法陣から光の鎖が放たれ、それが先代魔王の体と魔力を雁字搦めに拘束する。
それは連携によって発動された強力な呪縛魔法。しかし先代魔王はニヤリと笑うと魔力を高めだす。
ピシッ! ピシピシッ!
先代魔王の魔力が膨れ上がり、呪縛魔法の鎖に亀裂が入りだしました。
「クソッ、精霊界最強らしく、もっと本気を出したらどうだ!」
「やってるよ! 魔王様こそもっと力出せよ!!」
二人は追い詰められながらも憎まれ口を叩き合い、限界まで力を発動します。
幾つもの呪縛魔法陣が部屋中に出現し、数えきれないほどの鎖が先代魔王を拘束しました。
でも、それでも先代魔王の魔力が上回る。
「ああ、ハウスト……!」
「待っていろっ、必ず助ける!」
ハウストは私を見つめたまま言うと更に魔力を発動します。
しかし二人の呪縛魔法に限界が訪れる。
ピシピシッ! 鎖の亀裂がさらに深くなり、弾け飛びそうになりましたが。
「魔王と精霊界最強の護衛長が揃っているのに、この程度とは情けない」
フェリクトールの声がしました。
フェリクトールの強力な呪縛魔法が二人の連携に重なり、新たな呪縛魔法となる。
「フェリクトール!」
「遅れてすまなかったね、魔王よ。だがこの有り様はあまりに情けないんじゃないかね?」
「言ってくれる。だが、お前がここにいるということは」
「ああ、残念だが封印は完全に破られた。ここにいる先代魔王は本体だ」
「そうか」
三人が揃い、新たに強力な呪縛魔法が形成されました。
攻撃力が高いハウストとジェノキスが呪縛魔法の主砲となり、その莫大なエネルギーをフェリクトールが巧みにコントロールしたのです。
「君達は器用さに欠けるね」
「さすが年の功だぜ!!」
「やはりお前はよく出来た宰相だ。隠居生活は諦めろ」
「来るんじゃなかったよ」
三人の呪縛魔法は先代魔王を見事に抑え込む。
先代魔王に捕まりながら私はこのまま成功してくれればと願いましたが、その時、耳元に低い声が聞こえてきました。
「ククククッ、これで私を拘束したつもりになるとは片腹痛い」
先代魔王は笑っていたのです。
そして際限なく高まりだした先代魔王の魔力。
この余裕と魔力に、まさかと息を飲む。
そう、私が先代魔王の魔力の供給源になっているのだと。
今はまだ完全に神の器と化したわけではありませんが、それでも包容させられた神の力を吸い取られている。
供給源である私が先代魔王から離れなければ、三人の呪縛魔法も破られてしまいます。
「離しなさいっ、今すぐ私を離しなさい……!」
「無駄な抵抗とはご苦労なことだ」
「黙りなさい! 離せとっ、言っている、でしょう……っ!」
ふらついて倒れそうになりながらも、先代魔王から逃げようと身じろぐ。
しかし外へ向かって逃げようとする私を先代魔王は嘲笑い、更に近くへと抱き寄せてくる。
今です! これを待っていました!!
「えいっ!!」
ドンッ!
逆に自分から体当たりしてやりました。
今まで外に逃げようとしていた私が急に内側に転じたので、驚いた先代魔王の力が緩む。
この一瞬の隙を見逃しません。
でも逃げようと足を踏み出した途端、ガクンッ。体を支えきれずに崩れ落ちました。
「そんなっ……!」
酷い脱力感は体力を奪っていたのです。
せっかくのチャンスなのに逃げきれない。
先代魔王がまた私へと手を伸ばし、捕らえようとしましたが。
「ブレイラ、こっちだ!!」
「ハウストっ!」
強い力で抱き寄せられ、先代魔王の手から救われました。
ハウストがすぐに私の意図に気付き、助けに来てくれていたのです。
ハウストは私を横抱きして先代魔王から離れると、それを待っていたとばかりのタイミングでジェノキスとフェリクトールが呪縛魔法を畳みかけます。
私という力の供給源をなくし、先代魔王は瞬く間に鎖で拘束されていきました。
「おのれっ、人間風情がっ!!」
「あなた、魔力は強いですが体はひょろひょろですからね!!」
このまま先代魔王の力は抑え込まれていきましたが、ハウスト達は険しい顔のままです。
これはあくまで時間稼ぎに過ぎないと、ここにいる誰もが分かっていました。
「呪縛したままいったん引くぞ」
「賛成。立て直さないと、さすがにマズい」
「君達にしては良い判断だ」
ジェノキスが気を失ったままのイスラとフェルベオを肩に担ぎます。
先代魔王を呪縛魔法で拘束したままタイミングを計り、三人は一気に部屋の外へ駆けだしました。
「待て、どこへ行く!! 今から全員皆殺しにしてくれるわ!!!!」
先代魔王は怒りのままに膨大な魔力を爆発させました。
衝撃波が皆を飲み込もうとした刹那。
「――――これ以上、好きにさせてなるものか!!!!!!」
少年の声がしたと同時に、衝撃波を迎え撃つ強大な光弾。
今まで気を失っていた精霊王フェルベオです。
「この精霊王を愚弄したこと、決して忘れないぞ!!!!!!」
先代魔王と精霊王の力が衝突しました。凄まじい衝撃に辺りは光に包まれ、それは時間すら停止したと錯覚させるほど。
この隙に私たちは逃げだし、先代魔王を広間に一時的に閉じ込めたのでした。
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