第11話 天下の秋

新生活は驚くほど上手くいっていた。


思えば美希と僕は喧嘩もしたことも無い、

仲良し兄妹。

僕が一方的にヘンな感情を抱いていたことを除けば、上手くいかない理由がなかった。


1度だけ母さんが突然来たけど、

「大和ぉ。あんたちょっと雰囲気変わったんじゃない。彼女でもできたの?」

なんて冗談交じりに僕に言ってから、ご飯を作り置きしていってくれた。

雨の日の1件があってから、両親との距離感もすごくいい。壁を作られているなんてそもそも有り得なかったんだ。

僕は少し疲れていたのかもしれない。



「お兄ちゃん!!明日はやくないんだよね?映画見ようよ!!!」

「いいよ。それ僕も見たかったんだ~。」

2人で部屋を暗くして、ポップコーン片手にソファでくっついてる。

どう考えても普通の兄妹だった。

あぁ。なんて幸せなんだろう。

今のこの幸せを絶対に手離したくない。


「あっ。そうだお兄ちゃん。

今のキスシーンで思い出した。」

「ん?」

「わたし、初めて男の人とキスしたんだ!」





自分でもみるみる心が冷えていくのがわかった。

俺は無意識のうちに美希の両腕を掴んでいた。自分でも信じられないくらいの力で。


「…え…おにい…ちゃん??」



やめろ。

今、僕は幸せなんだ。

誤魔化せ。

今ならまだ戻れる。


「…お兄ちゃん。どうしたの…?」




「もう二度とその呼び方はさせないから。」



そう言って俺は美希にキスをした。

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