えにし
あきのななぐさ
その出会いは唐突に
人と人との出会いには、なにかそれなりの意味があるという。どれだけ科学技術が発達した世の中になっても、それは解明されておらず、その不思議さは変わりがない。
確かに、これだけの多くの人がいても、その多くはすれ違いの連続。その瞬間の出会いと別れ。それを繰り返してるに違いない。不思議な『
前から来る家族連れ。女子高生の三人組。どこかで音楽活動をしていそうな五人の若者に、仲睦まじい老夫婦。そして、将来親となる一組の夫婦。
彼ら彼女らも、もとをただせばその住人。だが、そこに『
だから、今。あのきっかけが何だったのか。それを確かめずにはいられなかった。
*
「――って、聞いてるの⁉」
「聞いてるよ」
「だから、なに? その子? パパ? 何なの?」
「んー、迷子?」
「はぁ!?」
明らかに不信感と怒りを全身にみなぎらせ、彼女はそう吐きだしていた。二人の間にいる小さな女の子が、不思議そうに彼女の顔を見上げている。片手で、父親と呼ぶ男のズボンをしっかりとつかんだまま。
「パパっていったよね? いってたよね? 迷子? はぁ?」
「いや、俺に言われても――」
「迷子が、パパっていうかな? 普通。もう少し、マシな言い訳ないの? おかしいでしょ!?」
「言い分けって言われても――? えっと、父親と似てるんじゃない?」
その言葉は、おそらく彼女の逆鱗に触れた。それは母親となる彼女にとっては、触れてはいけないものだったに違いない。
「最っ低!! 子供の前で、父親であることを否定するなんて!」
「いや、そう言われても……」
「この状態でも、そういうの⁉ だから、あなたの事信じられないのよ!」
相変わらず、小さな女の子はズボンを持ったまま、夜叉の雰囲気を放つ彼女を見上げている。普段から接しているとわかるのだろうが、彼女がそうなった時には、何を言っても無駄なのだ。だから、言葉を詰まらせる。ただ、そうなるとさらに彼女の怒りの炎は、燃え上がるに違いない。
「じゃあ、誰!? この子の母親!」
「わからないよ――」
「わからない!? そんなにいるの⁉ ホント、信じられない!」
「――じゃなくて、心当たりがないという意味」
「それって、わたしにもそう言うって事よね? 最っ低!」
「いや、おかしいだろ?」
「おかしいのは、あなたよ、もう!」
悲しみが、彼女の憤怒を塗り替えていく。
「君だけだよ、わかってよ――」
向こう側が透けて見えるその言葉。それは、彼女にあった不信感を、一気に開花させていた。
「じゃあ、誰よ、美咲? 千尋?」
「全部君の友達じゃないか――。第一、そんなことしてないって言ってる――」
「もういい! もういい! もう終わりよ!」
彼女はその言葉を途中で遮り、両手で耳を抑えていた。ただ、それもやがて終わり、彼女はその場でしゃがみ込む。そっとおなかにその手を当てて。
「ああ、もう――」
小さくつぶやいたその言葉は、彼女の中で生まれた絶望のかけら。その出会いに、彼女は全てを委ねようとしていた。
だが、彼女は新たな出会いを得ることになる。しゃがんだ彼女の頭をなでる、小さなその女の子の手によって。
「大丈夫? ママ?」
〈了〉
えにし あきのななぐさ @akinonanagusa
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