第4話 親友と混乱



「本っ当にさ、何でお前はそんなにモテるんだよ。男からも女からも」


 俺の部屋でくつろいでいる幸治がぼやいていた。


「男にモテても仕方ないだろ」


「そうか? でもあのいろはとかいう一年はマジっぽかったぞ?」


「んなもんわかんねえよ。だいたい初対面で好きとか言われても信用できないだろ」


「信用するしないじゃなくてさ。お前はどう思ったんだ?」


「どうって言われても……」


 俺は幸治に聞かれて考えてみたけど、特に何も感じなかった。


「たとえば、男に告られて気持ち悪いとか嫌だったとかさ」


「うーん。気持ち悪いとかはないけど……やったーって感じでもないし。なんか、普通?」


「普通かよ」


「うん。普通」


「じゃあさ、もしも泉美先輩に告られたらお前どうする?」


「は? なんで泉美先輩が出てくんだよ」


「いや、もしもの話しだって。翔真言ってたじゃん。泉美先輩は憧れだって」


「そりゃああんだけ格好良くて優しい先輩がいたら誰だって憧れるだろ」


「そんな先輩に付き合ってって言われたら?」


 俺は泉美先輩を思い浮かべながら考えた。


「……ダメだ。考えられない。そんなことあり得ねえもん」


 幸治はまた深くため息をついた。


「はぁ……。あのなあ。俺が言うべきことじゃないのはわかってんだけどさ。泉美先輩はお前のこと好きだぞ?」


「は? どこでどうなったらそうなるんだよ」


 幸治は俺の顔を見ながらあきれた表情で首を横に振った。


「お前以外、みんな気付いてると思うぞ」


「まさか……」


「よく考えてみろ。わざわざ放課後にお前のためにコーヒー持って会いにくるような先輩がいるか?」


「それは……」


「普通なら一回おごって礼を言って終わりだろ? 好きだからそれを口実にして先輩はお前に会いにきてんだよ」


 泉美先輩が俺のことを好きだって?


 俺は混乱していた。


 あの先輩が男の俺に?


「翔真さあ、もう少し人の気持ちを考えてみろよ。どうしてこいつはこんなことを言っているのか、どうしてこいつはあんなことをしたのか、ってさ」


「人の……気持ち?」


「ああ。好きっていうことがどういう感情なのかあの一年と泉美先輩を見て勉強しろ。ちょうどいい機会だ。翔真だってこのまま一生人を好きになれないなんて嫌だろ?」


「それは嫌だけど……」


「今のままじゃ、お前はずっとクズのままですぐに愛想をつかされて一生独り身だぞ」


 幸治はニヤニヤしながら俺の肩に手をまわした。


「……お前、自分が楽しんでるだけだろ?」


「いや、俺は翔真の心配をしてだな……」


 幸治の顔がいたずらっ子のようになっていた。


「絶対楽しんでるだろお前……」


 俺は幸治に頭突きしながら笑った。


「……でも、幸治ありがとうな」


「おう。お前が男とでも付き合ってくれたら世の中の女子が俺の方を見てくれるかもしれないからな。ははは」


「はは、なんだよそれ」


 そうは言っていても、幸治が俺のことを本当に心配してくれていることはよくわかっていた。


 もしかすると俺自身よりも幸治の方が俺のことをよく理解してくれているのかもしれない。


 そんな幸治の言うことをちゃんときいてみようと俺は思っていた。


 確かに俺だって、人を好きになるということがどんな感情なのか知りたかった。


 どういう気持ちで好きだと言っているのか理解したかったのだ。




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