第5話 理由
「でも私、アイドル辞めようと思っていて。」
「ええ!?!?!?」
僕がつい大きな声を出してしまったため、彼女は大きな目を更に大きくさせて僕をみた。
「いやせっかく誰でもなれるものじゃないのに勿体ないなって思っただけ。大きな声出してごめんなさい。話を続けて下さい…。」
彼女はびっくりしながらも再び口を開く。
「もともと持病もあって、アイドルになることは医師からも親からも反対されていたんです。でもどうしてもやりたいことだから…反対を押し切って事務所に入って、結果武道館でコンサート出来たんですよ。すごいですよね。グループが大きくなってくると、それに伴ってもちろんファンの方も増えて。…誹謗中傷が酷くなっていくんです。私個人のも、グループ全体のも。内容は様々なんですけど…。もともとメンタル強い方だと思って耐えてたんですけど、自分でも気づかないうちに身体に負担をかけてしまっていたみたいで。自分を大切にしたい気持ちと、ファンの方を大切にしたい気持ちとで揺れているんですけど、全然答えが出ないんです。」
「…そっか。話してくれてありがとうございます。」
人は誰しも何かしらの理由で悩んでいる。アイドルの悩みを聞いたのは初めてだった。ファンという、自分以外の存在も悩みの要素となるのか。
僕としては、出来れば辞めて欲しくない。駆け出しのアイドルだし、活躍している姿をテレビ越しにでももっとみたい。しかし体調も気がかりだ。僕は天宮天に持病があることを知らなかった。知る限りでは公表していないのだ。今の状態で自分を蝕んでまでアイドルを続けて欲しくない気持ちも正直ある。
「天宮さんは、どうしたいの?」
考えれば考えるほど、僕は自分のことを考えてしまうため、彼女に意志を問うてみることにした。
「私はもちろん続けたいです。でも上手く折り合いがつけられなくて。器用にこなせなくて周りに迷惑をかけるなら辞めた方がいいのかなって思ってます。」
彼女は話しながら目に涙を浮かべていた。僕は理解した。
彼女はアイドルを続けたい想いと、迷惑をかける事実とで揺られている。正解なんて1つしかないのに。
「天宮さんが続けたいと思っているなら、それが答えだと思うよ。他のメンバーや事務所の人、それとファンの人。色々な人に頼っていいんだよ。君の味方なんだから。」
僕はいつしか天宮天のヲタクとして語りかけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます