第4話 涙

「明日もよろしくお願いしますね。天宮さん。」

不整脈の観察項目が全て問題ないことを確認し、病室を出た。ライブに行っていることもバレていなそうだし、1人の患者として関わるだけだ。緊張していた気持ちはどこかにいってしまった。

次の日、夜勤のため16時に病棟に向かう。いつもはコンタクトを付けているが、仮眠があるため夜勤は眼鏡をする。マスクで眼鏡がくもるのに鬱陶しさを感じながら情報収集を行う。天宮さんは今日も特に変化なし、このままいくと明日退院らしい。もう「ふぁみふぁみ」のライブには行かないと決めているため、会えなくなることに少し寂しさを感じるが、それより推しの体調が良くなっていることが嬉しい。

「失礼します。」

彼女はまた涙を流していた。

「体調悪いですか?それとももう一度出直した方がいいですか?」

看護師として、正しい質問をしたつもりだ。

「このまま、体温測っちゃいます。あ、今日は眼鏡なんですね。」

彼女は僕が手にしていた体温計を優しく手に取り、脇に挟んだ。

「体調悪いならすぐ言ってくださいね。眼鏡は、仮眠もありますからね。」

「…西木さんって優しいですね。泣いてる理由も無理に聞かないし。」

優しいと言われる理由が、泣いている理由を聞かないことと直結するのかと不思議に思ったが、彼女がそう思うならそうなのだろう。

「プライベートなことは、天宮さんが話したいと思ったら話してください。それ以外は僕は無理に聞くつもりはありませんよ。」

彼女は瞳をキラキラさせながら僕をみる。

「そう言われたの初めてかも。逆に悩み、聞いてほしくなっちゃった。」

「僕に喋って解決できるか分かりませんよ。ただ聞くことは出来るので、話せる範囲で聞かせてください。」

推しから相談を受けるなんて思いもしない出来事が、今起こっている。しかし、僕はあくまで担当看護師として彼女の話を聞く。その姿勢は崩さないようにと、背筋を伸ばした。

「あの、西木さんのこと信用しているから言うんですけど、私芸能活動していて。そこまで有名じゃないんですけど。…私のことって知りませんでしたよね?」

知っている。めちゃくちゃ知っている。なんなら推しだ。しかし知らないていで貫くと決心しているため、ゆっくり首を縦に振った。

「普段歌って踊ることをしていて…これ言っちゃうとアイドルってバレちゃうか、あ、言っちゃったまあアイドルグループに所属しているんです。」

簡単に人を信用してしまい、勝手にポロポロと秘密を暴露しているところをメンバーにツッコまれるライブの下りを思い出した。そういう危なっかしい彼女の性格が好きになったんだっけ。

「でも私、もうアイドル辞めようと思っていて。」

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